第148話 踏み込む境界――守る側の覚悟
夕暮れ。
村を包む空気が、わずかに張り詰めていた。
風が止み、鳥が鳴かない。
リアが、結界の縁をなぞる。
「……今までと違います。
“観測”じゃない……
実行段階です。」
セリアが剣に手をかける。
「……どこから?」
ラウルが地面を見て、舌打ちする。
「……地下だ。
足音、抑えすぎてる。」
ミナは、胸に手を当てる。
「……来る……
でも……
怒りじゃない……
“正しい”って思ってる……」
その言葉が、最悪だった。
◆最初の“事件”
村の外れ。
古い倉庫の扉が、内側から開いた。
現れたのは、
王国でも教会でも帝国でもない――
私設調停団。
武器は抑えめ。
だが、装備は洗練されている。
先頭の男が、淡々と言う。
「騒ぎを起こすつもりはない。
対象を“隔離”するだけだ。」
セリアが低く言う。
「……保護という名の拉致。」
◆言葉は通じない
カイルが、一歩前に出る。
「帰れ。」
男は、首を振る。
「危険因子を、
自由にしておくわけにはいかない。」
リアが、鋭く言う。
「誰の基準で?」
男は、迷わず答える。
「世界の安定だ。」
ミナの顔が、青ざめる。
(……それ……
昔……
私に言われた……)
◆境界を越える
カイルは、剣に手をかけた。
だが、抜かない。
「最後だ。」
男が合図を出す。
同時に、
二人がミナへ向かう。
◆“守る”と決めた瞬間
カイルが動いた。
速い。
だが、殺さない。
一人目の腕を折り、
二人目の膝を砕く。
地面に叩き伏せる。
セリアとラウルが、
残りを制圧。
リアが、拘束陣を展開。
わずか、十数秒。
◆ミナの力、暴発寸前
だが――
ミナの周囲の空気が、揺れる。
彼女は、震える声で言う。
「……やめて……
これ以上……
誰も……」
彼女の“願い”が、
周囲に広がり始める。
リアが叫ぶ。
「……まずい……
同調範囲が……
村全体に……!」
村人たちが、
無意識に動きを止める。
恐怖も、怒りも、
一瞬、薄れる。
◆カイルの選択
カイルは、即座にミナの前に立った。
剣を捨てる。
**「ミナ。
止めろ。」**
命令ではない。
信頼だった。
ミナは、カイルを見る。
「……できる……?」
**「できる。
選んだのは、
お前だ。」**
ミナは、深く息を吸い、
目を閉じる。
**「……今は……
ここまで……」**
揺れが、収まった。
村に、音が戻る。
◆越えた一線
倒れた調停団の男が、
苦しそうに笑う。
「……やはり……
放置できない……」
カイルは、冷たく言った。
**「放置しない。
管理もしない。」**
それが、
最も危険な宣言だった。
◆残された余波
夜。
三勢力に、同時に報告が走る。
**《非公認調停団、失敗》
《対象:自律的防衛行動を確認》**
王国は、沈黙。
教会は、焦燥。
帝国は、静観。
◆焚き火の前
ミナが、震えながら言う。
「……怖かった……」
カイルは、短く答える。
**「次も、
俺が前に立つ。」**
セリアが、苦笑する。
「……完全に、
“守る側”ね。」
ラウルが頷く。
「ああ。
もう、戻れねぇ。」
リアが、静かに締めくくる。
「……境界は、
越えられました。」
──第149話へ続く




