第146話 波紋――選ばれない力が広がる
村は、いつもと同じ朝を迎えた。
鶏が鳴き、
子どもが走り、
老人が井戸端で言葉を交わす。
だが――
昨日までと、同じではなかった。
◆小さな変化
畑の前で、農夫が首を傾げる。
「……あれ?」
干からびかけていた作物が、
一晩で持ち直している。
魔法の痕跡はない。
祝福の光もない。
ただ、
“戻っている”。
リアが、そっと地面に触れる。
「……魔力が……
供給された形跡はない……
なのに……」
セリアが腕を組む。
「……押し付けられた変化じゃない……
“自然に選ばれた結果”……」
ラウルが苦笑する。
「便利すぎて、
逆に気味悪ぃな。」
ミナは、不安そうに自分の手を見る。
「……私……
何か……
した……?」
カイルは、首を振った。
「してない。」
◆“願い”の余波
井戸端で、老婆が話す。
「……不思議だねぇ……
昨夜……
“大丈夫だ”って……
思えたんだよ……」
誰かが頷く。
「俺もだ……
理由はないけど……」
それは、奇跡ではない。
恐怖が、少し薄れただけ。
リアが、静かに言う。
「……恐怖が弱まると……
人は、
自分で判断し始めます……」
セリアが、納得する。
「……つまり……
“従う必要がなくなった”……」
◆ミナの力の正体(途中)
ミナの力は、
誰かを動かさない。
命令しない。
強制しない。
“選択を邪魔しない”。
その結果、
人は――
自分で動く。
ラウルが、ぽつりと言う。
「……最悪だな、
これ……
権力側からしたら。」
リアが頷く。
「ええ……
支配も、
救済も、
成り立たなくなる……」
◆遠くの違和感
同時刻。
王国の地方官が、報告を受けていた。
「……封鎖地帯周辺の村で……
反乱でも、
暴動でもないのに……
“統制が効かない”と……」
官僚が眉をひそめる。
「……理由は?」
「……分かりません……
命令に逆らっているわけでも……
不満があるわけでも……」
ただ、
従わなくなっている。
◆教会の異変感知
聖典庁。
祈りの波形が、
わずかに乱れる。
枢機卿が、低く言う。
「……信仰が……
揺らいでいる……?」
神官が答える。
「否定されてはいません……
ですが……
“必要とされていない”……」
それは、
最も恐ろしい兆候だった。
◆帝国の観測
帝国の観測室。
影の男が、報告を読む。
**《現象分類:
非強制的自律活性》**
彼は、紙を置き、静かに笑った。
「……始まったか。」
◆当人たち
村外れ。
ミナが、カイルに言う。
「……私……
怖い……」
カイルは、即答しない。
少し考えてから、答えた。
**「怖いなら、
止まれる。」**
ミナは、首を振った。
「……でも……
戻るのも……
怖い……」
カイルは、静かに言う。
**「なら、
進むしかない。」**
ミナは、深く息を吸い、
頷いた。
──第147話へ続く




