第144話 試す者――第三の視線
夜明け前。
村の上空に、薄い霧が溜まっていた。
自然現象ではない。
意図的に張られた“観測の膜”。
リアが、息を詰める。
「……見られています。
距離は……かなり遠い……
直接干渉する気はない……」
セリアが舌打ちする。
「完全に、
“観察者”ね。」
ラウルが肩をすくめる。
「殴れねぇ敵は、
一番厄介だな。」
ミナは、胸の奥が静かに冷えるのを感じていた。
(……見られてる……
でも……
怖いだけじゃない……)
カイルは、霧の向こうを見据えた。
「姿を見せろ。」
◆第三勢力、応答する
空気が、わずかに歪む。
霧の中に、
“輪郭だけの人影”が浮かび上がった。
年齢も、性別も曖昧。
声だけが、はっきりと響く。
**「やはり……
介入したか。」**
リアが即座に反応する。
「……あなたが、
昨夜の部隊を……?」
影は、否定も肯定もしない。
「“選択”を観測していた。」
セリアが、鋭く問う。
「何のために?」
影は、少し間を置いて答える。
**「“誰が守るか”ではない。
“誰が選ぶか”を知るためだ。」**
ミナの心臓が、強く打つ。
◆“管理されない村”の正体
影は続ける。
**「この村は、
どの国家にも、
どの教義にも、
どの管理網にも属さない。」**
リアが理解する。
「……意図的に……
“空白”として残された……」
影は、肯定した。
**「そう。
世界が“触れなかった”場所だ。」**
ラウルが唸る。
「……放置じゃねぇ……
実験場かよ。」
影は、否定しない。
**「選ばれなかった者たちが、
どう生き延びるか。
誰が、
どこまで関わるか。」**
セリアが、怒りを抑えた声で言う。
「人を、
“条件”で見るな。」
影は、静かに返す。
**「だからこそ、
我々は“管理”しない。」**
矛盾しているようで、
完全に一貫した思想だった。
◆ミナの変化
そのとき。
ミナの胸元が、
淡く光った。
リアが、驚きの声を上げる。
「……魔力の質が……
変わっています……」
ミナ自身も、驚いている。
「……私……
さっき……
“止まって”って……
思っただけ……」
影が、わずかに反応する。
**「……なるほど。
“命令”ではない……
“願い”だ。」**
リアが、息を呑む。
「……干渉型ではない……
同調型……
“拒否されない力”……」
セリアが、ミナを見る。
「……あんた……
もう“鍵”じゃない……」
ミナは、静かに頷いた。
**「……選びたい……
壊さないで……
守る方を……」**
影は、しばらく沈黙した。
◆第三勢力の結論
やがて、影は告げる。
**「観測結果:
介入は最小。
選択は、
自発的。」**
そして、カイルを見る。
**「君は……
力を振るう理由を、
選んだ。」**
カイルは、短く答えた。
「当然だ。」
影は、わずかに笑った。
**「ならば――
次は、
“交渉”の段階だ。」**
霧が、薄れていく。
◆残されたもの
朝日が昇り、
村は、何事もなかったかのように目を覚ます。
村人たちは、
昨夜の出来事を知らない。
それでいい。
リアが、低く言う。
「……観測は、
“了承”に近い……」
ラウルが腕を組む。
「つまり……
次は……
向こうから来る。」
セリアが、カイルを見る。
「どうする?」
カイルは、村を一度振り返り、
そして前を見た。
「話を聞く。」
──第145話へ続く




