第139話 置き去りにされた者たち――勇者側の崩壊
王都。
かつて歓声に包まれていた勇者パーティの拠点は、
今や不自然なほど静かだった。
誰も、近づかない。
◆王国の切り捨て
応接室。
勇者の前に置かれたのは、
新しい命令書――ではなかった。
《勇者パーティ活動停止通知》
《王国保護対象からの除外》
勇者は、文字を何度も読み返す。
「……待て……
これは……間違いだろ……?」
文官は、感情を一切交えず答える。
「いいえ。
王国としての正式判断です。」
勇者は立ち上がる。
「俺たちは……
世界を救うために戦ってきた!!」
文官は、淡々と返す。
「“救った実績”が、
確認できなくなりました。」
その一言が、
勇者の胸を貫いた。
◆仲間の離反
部屋を出た後。
僧侶が、ぽつりと言う。
「……私……
教会に戻ります……」
勇者が振り向く。
「は?」
僧侶は、視線を合わせない。
「……神官としての立場が……
このままでは……」
つまり――
自分を守るための離脱だった。
魔術師も、沈黙のまま荷をまとめる。
「研究機関から、
声がかかっている。」
勇者の拳が、震える。
「……お前ら……」
誰も、引き留めない。
◆教会からの“最終通告”
夜。
勇者のもとへ、
聖典庁の使者が訪れる。
彼は、書簡を一通だけ置いた。
《勇者称号、停止》
理由は、書かれていない。
書く必要が、なかった。
使者は、最後に言った。
「あなたは……
神に選ばれたのではありませんでした。」
それは、否定ではない。
**“前提の破壊”**だった。
◆自尊心の崩壊
勇者は、一人になった部屋で、
剣を見つめる。
かつては、
この剣が“世界を救う証”だった。
だが今は――
何の意味も持たない鉄塊だ。
彼は、呻く。
「……違う……
俺は……
選ばれたはずだ……」
だが、答える者はいない。
◆最後の悪手
翌日。
勇者は、決断する。
「……俺が……
俺自身で、
証明するしかない……」
彼が選んだのは、
最悪の一手だった。
「“通りすがりの剣士”を討つ。」
名も知らぬ相手。
だが、
すべてを奪った存在。
勇者は、誤解していた。
――奪われたのではない。
“最初から、なかった”だけなのに。
◆密かな動き
同時刻。
帝国の観測者が、報告する。
「……勇者が……
独断で動いています。」
王国は、即座に距離を取る。
教会は、沈黙する。
誰も、止めない。
止める理由が、ないからだ。
◆一方、その頃――
封鎖地帯の外。
焚き火の前で、
セリアが言う。
「……来るわね。」
リアが、静かに補足する。
「ええ。
“何も失うものがない者”が。」
ミナが、不安そうに呟く。
「……危ない……?」
カイルは、剣を手に取った。
「危なくはない。」
一瞬、間を置いて、続ける。
「終わるだけだ。」
──第140話へ続く




