第137話 観測不能――恐怖が遅れて届く
封鎖地帯が沈黙した。
それは「魔物が減った」などという生易しい変化ではない。
魔力反応そのものが、地図から消えた。
◆王国――理解できない報告
王都・観測塔。
水晶盤の前で、魔導官が震える声を上げる。
「封鎖地帯北部……
全域……反応、消失……」
宰相が立ち上がる。
「は?
“一部”ではないのか?」
魔導官は首を振る。
「……全域です。
主級、残滓、異常魔力……
すべて、ゼロ。」
沈黙。
誰かが、絞り出すように言った。
「……誰が……?」
答えは、ない。
だが――
全員の頭に、同じ名前が浮かんでいた。
◆教会――“神の領域”への侵入
聖典庁。
巨大な聖紋が、警告色に変わる。
枢機卿が叫ぶ。
「ありえない……
あそこは……
“神が介入しない場所”だ……!」
聖典庁長は、目を細めた。
「違う。」
一同が、息を止める。
「“神ですら介入できなかった場所”だ。」
名が、口にされる。
「カイル・ヴァン・エルスト。」
誰も、否定できなかった。
◆帝国――静かな歓喜
帝国影の評議会。
報告書を読んだ男が、低く笑った。
「……完全に、規格外だ。」
別の影が問う。
「制御は?」
男は首を振る。
「無理だ。
だが――
敵に回す必要もない。」
彼は、ゆっくり言う。
**「世界が彼を恐れるなら、
帝国は“理解者”になる。」**
◆勇者パーティ――完全な格付け
同時刻。
勇者パーティの仮拠点。
彼らの前に、
王国からの通達が置かれていた。
《勇者パーティの権限、当面凍結》
勇者が、紙を握り潰す。
「……なぜだ……!」
魔術師が、震える声で言う。
「……封鎖地帯が……
“一晩で”消えたそうです……」
僧侶が、青ざめる。
「……神の御業……?」
勇者は、吐き捨てた。
「……違う……
あの剣士だ……」
誰も、反論しなかった。
◆“通りすがり”の正体が定まる
街リュンハイトでは、噂が変質していた。
「勇者?
いや……
“本物”は別にいる……」
「名前は知らないが……
通りすがりの剣士……」
名が知られないまま、
“格”だけが広まっていく。
それは、勇者にとって最悪だった。
◆当人たち――静かな夜
封鎖地帯の外。
焚き火の前で、
ラウルが肉を焼いている。
「……なあ……
さすがに、
やりすぎじゃね?」
リアが即答する。
「いいえ。
“片付けただけ”です。」
セリアは、カイルを見る。
「……世界、
騒ぐわよ。」
カイルは、火を見つめたまま答える。
「騒ぐだろうな。」
ミナが、少し不安そうに言う。
「……それでも……
後悔してない?」
カイルは、首を振った。
**「してない。
必要だった。」**
ミナは、安心したように微笑む。
◆ざまぁ第二段階、成立
翌朝。
王国・教会・帝国に、
同じ事実が突きつけられる。
**《封鎖地帯:安全確認》
《管理再開、可能》**
つまり。
勇者では不可能
国家でも不可能
神でも不可能
それを――
“通りすがり”が終わらせた。
──第138話へ続く




