第136話 封鎖地帯の奥――“世界が触れない理由”
封鎖地帯の中心へ近づくにつれ、
地形は歪み、空気は重くなっていった。
木々は不自然に曲がり、
岩は刃物で抉ったような傷を残している。
リアが、声を潜める。
「……ここ……
戦場だった痕跡が……
しかも一度や二度じゃない……」
セリアが地面の裂け目を見つめる。
「……国や教会が管理を諦めるわけね。」
ラウルが肩をすくめる。
「誰が来ても、
片付ける前に壊されるってか。」
ミナは、胸に手を当てた。
「……悲しい……
ここ……
ずっと……放っておかれた……」
カイルは足を止め、言った。
「放っておいたんじゃない。」
全員が彼を見る。
「手に負えなかっただけだ。」
◆現れる“理由”
答えは、すぐに現れた。
霧の向こうから、
“人型”の影が複数、歩いてくる。
だが、人ではない。
装備は朽ち、
身体は魔力で縫い止められている。
リアが息を呑む。
「……元……
討伐部隊……?」
セリアが歯を食いしばる。
「……置き去りにされた……
人たち……」
封鎖地帯には、
失敗の記録が眠っていた。
◆敵は、強い。でも――
影たちは一斉に動いた。
統率がある。
動きに無駄がない。
普通の冒険者なら、
即座に全滅する相手。
ラウルが吠える。
「来るぞ!!」
リアが詠唱を始め、
セリアが踏み込む。
――だが。
◆カイル、戦闘を“終わらせにいく”
カイルは、もう前に出ていた。
剣が走る。
一体。
二体。
影が倒れる前に、
存在そのものが切断される。
リアが声を失う。
「……魂ごと……
“綺麗に”……」
セリアは理解する。
(……恨みも、未練も……
残さない斬り方……)
それは破壊ではない。
解放だった。
◆止まらない連戦
だが、終わらない。
奥から、
さらに強い気配。
重装。
魔導。
複数。
ラウルが叫ぶ。
「次来たぞ!!
数、八!!」
リア
「編成が……
完全に“軍”です!!」
セリア
「……普通に、
国の精鋭……」
ミナが、息を呑む。
「……全部……
ここで……」
カイルは剣を構え直した。
「全部、ここで終わらせる。」
◆無双、本番
動きが、速い。
いや――
止まらない。
斬る。
斬る。
斬る。
魔法が発動する前に。
盾が上がる前に。
一撃ごとに、
“戦う理由”が消えていく。
セリアが、思わず呟く。
「……これ……
戦闘じゃない……」
ラウルが乾いた笑いを漏らす。
「……処理だな……」
リアは、震える指で記録する。
「……世界が……
管理を諦めた理由……
理解しました……」
◆最後に残ったもの
静寂。
霧が晴れ、
広場のような場所が現れる。
中央に、
巨大な石碑。
古い文字。
リアが、読み上げる。
**《ここは
“世界が引き返した地点”
これ以上、
人の手で触れるな》**
ミナが、涙を滲ませる。
「……だから……
誰も……来なかった……」
カイルは、石碑の前に立ち、
静かに言った。
「違う。」
石碑に、手を置く。
「来られなかった。」
◆封鎖地帯の“主”は誰か
リアが、気づく。
「……ここ……
もう魔物の気配がない……」
ラウルが周囲を見る。
「……全部……
いなくなってる……」
セリアが、カイルを見る。
「……あんた……
この場所……
“解放”したの……?」
カイルは答えない。
ただ、剣を納めた。
◆世界は、知らない
だが――
記録は残った。
帝国の観測網。
教会の異変感知。
王国の監視装置。
遠くで、
“封鎖地帯の魔力反応消失”が検知される。
《異常:危険地帯、沈黙》
誰もが、理解できない。
だが、一つだけ確かだった。
“誰かが、やった。”
──第137話へ続く




