第135話 封鎖地帯――管理されない力
国境線を越えた瞬間、空気が変わった。
湿り気のある冷気。
魔力の流れが歪み、
人の手が入っていない土地特有の“荒さ”がある。
リアが眉をひそめる。
「……魔力循環が壊れています。
結界も、制御も、
何も“整えられていない”。」
ラウルが笑う。
「つまり、
好き放題ってことだな。」
セリアは剣を握り直す。
「油断したら死ぬ場所ね。」
ミナは一歩、カイルの後ろに寄った。
「……でも……
変な感じがする……」
カイルは足を止め、地面を見た。
「血の匂いだ。」
◆封鎖地帯の洗礼
次の瞬間、
森の奥から“来た”。
獣ではない。
人でもない。
封鎖地帯に残された、
半端な魔物たち。
数は多い。
統率はない。
だが、殺意だけは濃い。
ラウルが即座に前へ出る。
「来たな!!
準備運動にはちょうどいい!!」
リアが叫ぶ。
「数、二十以上!
包囲されます!」
セリアが低く言う。
「……切り開くしかないわね。」
ミナが震える声で言う。
「……カイル……」
カイルは、静かに剣を抜いた。
「俺が前に出る。」
◆カイル、戦場を“固定”する
一歩、前へ。
それだけで、
魔物たちの動きが止まった。
理屈ではない。
本能だ。
“この先に行くと死ぬ”
そう理解した。
だが、逃げ場はない。
魔物が、吼える。
カイルは、構えない。
ただ歩く。
ザン。
音が遅れて届いた。
最前列の魔物が、
斬られてから倒れた。
リアが目を見開く。
「……速い……
じゃない……
“間”がない……!」
セリアが歯を食いしばる。
「……迷いがない……」
二体目。
三体目。
動きは、同じ。
斬る。
止まらない。
◆連携? いいや、必要ない
ラウルが拳を振るう暇もない。
セリアが踏み込む距離に、
敵がいない。
リアの詠唱が、空を切る。
ミナが呆然と呟く。
「……一人で……
戦場を……消してる……」
それは誇張ではなかった。
戦線が、存在しない。
敵が近づく前に、
“戦う意味”を失っていく。
◆封鎖地帯の“主”
だが、その時。
地面が揺れた。
奥から、
異様な気配が現れる。
巨大。
重い。
知性がある。
リアが叫ぶ。
「……封鎖地帯の主級……!
この辺りを“縄張り”にしてる……!」
ラウルが歯を鳴らす。
「……ようやく、
相手になるのが来たか。」
セリアがカイルを見る。
「下がる?」
カイルは答えない。
ただ、一歩前に出た。
「いい。」
巨大魔物が、咆哮する。
大地が割れ、
魔力が奔流となる。
普通なら、
連携、策、犠牲が必要な相手。
だが――
◆カイル、初めて“力を見せる”
カイルは、深く息を吸った。
剣を、
少しだけ強く握る。
それだけ。
次の瞬間。
ズン。
巨大魔物の頭が、
地面に落ちた。
身体が、遅れて崩れる。
血も、悲鳴も、
ほとんどない。
“終わった”
という事実だけが残る。
◆静寂
風が、戻る。
鳥が、鳴く。
ラウルが、口を開けたまま言う。
「……あー……
俺、いらなくね?」
セリアは、剣を下ろしたまま動けない。
「……違う……
あれは……
“強い”じゃない……」
リアが、震える声で結論づける。
「……この人……
管理されてない力そのものです……」
ミナは、カイルの背中を見つめ、
静かに言った。
「……だから……
誰も、縛れない……」
カイルは剣を納め、振り返る。
「進めるな。」
それだけ。
だが、その言葉に
誰一人、異論を挟めなかった。
──第136話へ続く




