第134話 逃走ではない――選んだ場所へ
夜明け前。
リュンハイトの街門は、まだ半分眠っている。
荷馬車が軋み、行商人が準備を始め、
街は「いつもの朝」を装っていた。
だが、空気は違った。
――見送る視線がある。
◆街の反応
露店の老婆が、ミナにそっと声をかける。
「嬢ちゃん……
気をつけな。」
それだけ。
理由は言わない。
だが、十分だった。
ミナは小さく頭を下げる。
「……ありがとうございます。」
セリアが小声で言う。
「もう、“異端”扱いされてないわね。」
リアが頷く。
「はい。
今の街では、
“勇者側が不自然”です。」
それが何よりの変化だった。
◆王国と教会は、動けない
街の塔楼。
王国役人と教会の使者が、苛立った様子で報告を受けている。
「出立を確認しました!」
役人が拳を握る。
「追え!」
だが、教会の男が止める。
「今は駄目だ。」
「なぜだ!?」
教会の男は、低く言う。
「市民の目がある。
ここで手を出せば、
“何を恐れているのか”を
自白することになる。」
沈黙。
それが、敗北の証拠だった。
◆帝国の思惑(少しだけ)
街の外れ。
帝国の交渉役が、丘の上から彼らを見送っていた。
「……いいね。
逃げない者の撤退だ。」
隣の部下が問う。
「このまま、
保護を続けますか?」
男は首を振る。
「いや。
“選ばせる”。
彼は、
従う男じゃない。」
帝国は、まだ踏み込まない。
だが――
機会を逃さない準備は整えた。
◆進路の決定
街を離れて数刻。
森道の分岐点で、カイルが足を止める。
セリアが問う。
「どっちへ行くの?」
カイルは、地図も見ずに答えた。
**「北。
“誰も管理してない場所”だ。」**
リアが即座に理解する。
「……国境の外。
封鎖地帯……
教会も、王国も、
正式には手を出せない……」
ラウルが口笛を吹く。
「なるほど。
面倒なのは、
全部向こうから来させるわけだ。」
ミナは少し不安そうに言う。
「……危なくない?」
カイルは歩き出しながら答えた。
**「危ないさ。
でも――
選べる。」**
その言葉に、ミナは目を見開く。
「……選べる……」
それは、
彼女にとっても、
初めて与えられた自由だった。
◆夜営――仲間の距離
焚き火の前。
ラウルが肉を焼き、
セリアが剣の手入れをし、
リアが結界を張る。
ミナは、火を見つめていた。
カイルが隣に座る。
ミナは、ぽつりと聞く。
「……後悔してない?」
カイルは、少し考えてから答える。
**「してるよ。
でも――
戻らない。」**
ミナは微笑んだ。
「……うん。」
セリアが、からかうように言う。
「あんた、
無自覚に人を救うの、
やめなさいよ。」
ラウルが笑う。
「もう遅ぇよ。」
リアは、静かに結論づけた。
「この選択で……
次に困るのは、
世界のほうです。」
◆第二段階ざまぁの輪郭
同じ夜。
王都では、
勇者パーティが叱責を受けていた。
「なぜ、
街の支持を失った!」
勇者は答えられない。
教会では、
内部で意見が割れ始める。
「あの剣士を、
“異端”と呼ぶのは危険だ。」
帝国では、
別の計画書が回る。
《案件名:カイル観測計画・第二段階》
世界は、もう元には戻らない。
──第135話へ続く




