第131話 公開討伐――用意された舞台
街外れの平原。
簡易の観覧席と結界柱が設置され、
“見世物”として整えられた討伐会場。
王国の旗、教会の紋章。
舞台は完璧だった。
――観客の反応を除けば。
人は集まっていた。
だが歓声はなく、拍手もまばら。
ざわめきは、期待ではなく様子見だった。
◆勇者パーティ、登場
勇者が剣を掲げる。
「市民諸君!
本日、我ら勇者パーティが――
この地に巣食う邪悪を討つ!」
教会の神官が祝詞を上げ、
王国役人がうなずく。
だが、前列の商人が小さく呟く。
「……邪悪って、何だ?」
「説明、あったか?」
空気が、わずかに冷えた。
◆用意された“敵”
結界の向こう。
黒い檻が開き、魔物が引き出される。
巨大だが、動きが鈍い。
身体のあちこちに拘束痕。
傭兵上がりの観客が眉をひそめる。
「……弱ってるぞ、あれ。」
「討伐じゃなくて、処刑だな。」
勇者パーティの魔術師が詠唱を始める。
派手な魔光。
だが、魔物はほとんど抵抗しない。
◆“失点”の瞬間
勇者が踏み込み、
渾身の一撃を振るう。
――外れた。
鈍い音。
魔物は倒れない。
会場に、沈黙。
勇者は焦り、もう一度踏み込む。
今度は命中。
魔物は倒れた。
だが――
拍手が起きない。
代わりに、
ぽつり、ぽつりと声が上がる。
「……今の、危なかったな。」
「あれで“世界を救う勇者”?」
「塔を壊した力って……
こんなものだったのか?」
勇者の顔が、わずかに引きつる。
◆教会の“フォロー”が裏目に
神官が前に出て叫ぶ。
「ご覧ください!
神の加護により――」
だが、途中で遮られる。
後方から、低い声。
「神の加護、どこにあった?」
ざわめきが、波になる。
神官は言葉に詰まった。
◆カイルたちは“見ているだけ”
観客の端。
外套を被った五人。
ミナが胸を押さえ、囁く。
「……苦しい……
誰も、喜んでない……」
セリアは目を細める。
「……自分で墓穴を掘ってる。」
リアは冷静だった。
「事前準備、敵の選定、演出……
すべて“分かりやすさ”を優先した結果です。」
ラウルが低く笑う。
「派手な嘘は、
静かな疑念に勝てねぇ。」
カイルは、何も言わない。
ただ、勇者の表情を見ていた。
◆追い打ちの“事故”
その時。
倒れたはずの魔物が、
痙攣するように動いた。
完全に仕留めきれていない。
観客がどよめく。
「まだ生きてるぞ!」
魔物が暴れ、結界柱の一つが破壊される。
神官が叫ぶ。
「鎮めよ!
神の名において――」
詠唱が、遅い。
魔物が観客側へ向かう。
悲鳴。
――その瞬間。
◆“別の剣”が、先に動く
誰が動いたのか、
観客には分からなかった。
ただ――
魔物の動きが、止まった。
一閃。
派手さはない。
だが、確実。
魔物は、二度と動かなかった。
次の瞬間、
人々が気づく。
「……誰が……?」
視線が集まる。
外套を脱いだ男。
静かに剣を納める。
カイルだった。
◆空気が、変わる
勇者が叫ぶ。
「だ、誰だ!
勝手に手を出すな!」
カイルは、淡々と答えた。
**「危なかった。
だから、斬った。」**
それだけ。
言い訳も、名乗りもない。
だが――
観客の反応は、完全に分かれた。
「……助かった……」
「あの一撃……
さっきの勇者より……」
「速かった……」
勇者の顔から、血の気が引く。
教会の神官が、震える声で言う。
「あなたは……何者です……?」
カイルは、一瞬だけ考えた。
そして答える。
「通りすがりだ。」
静寂。
その言葉が、
この日の“すべて”を決定づけた。
──第132話へ続く




