第13話 祠の秘密
フェンリルギアを撃退した後、
ラウルは息を整えながら祠の方向を見た。
「……戻らなければいけません。
祠に“何が起きたのか”を確かめない限り、街へ戻るのは危険です」
ミナは怯えながらも小さく頷いた。
「わ、わたしのせいで……皆を巻き込んでしまって……」
「違う」
俺ははっきり遮る。
「狙われる理由を知らずに怯える方が危険だ。
知ることで初めて守れる。……一緒に行こう」
リアも優しく支える。
「大丈夫です。ミナさんを見捨てる理由なんてありません」
ミナは涙を拭きながら、
今度は逃げずに祠へ戻る道を選んだ。
祠に戻ると――異変は明確だった。
祭壇の上に、黒い文様が刻まれていた。
硬い石に刻まれたにも関わらず、
まるで「生き物の皮膚」のように脈を打っている。
ミナが震える声で呟く。
「これ……召喚の印……?
だ、でも……魔族の術式と……教会式の結界が混ざってる……?」
ラウルは膝から崩れるように座り込む。
「……間に合わなかった……!
魔王軍は祠を封印するのではなく、**“鍵を誘引する術式”**に書き換えたのです……!」
「鍵……って、わたし……?」
その瞬間、文様が淡く光り始めた。
祠の奥から、かすかな囁き声。
――ミナ・シュメール。還れ。
ミナは立っていられず膝をつく。
リアが慌てて抱き支える。
「ミナさん!! 気を確かに!!」
ミナは必死に涙をこらえながら叫ぶ。
「こ、怖い……怖い……でも……一緒にいたい……!
リアさんと……カイルさんと……旅を……したい……っ!!」
俺は祭壇に左手をかざす。
「なら十分だ」
右手で祠の床を叩いた。
「《理破壊:禁術領域》」
祠の文様が砕け散り、黒光りは弾け飛ぶ。
ミナはリアの腕の中でぐったり倒れたが――
呼吸は安定していた。
ラウルは涙のように汗を流しながら、静かに言う。
「……やはり、ミナさんは“鍵”なのです。
封じられた“何か”を解く存在。
だから魔王軍も、教会も――」
リアが鋭く反応した。
「教会も……? ラウルさん、それはどういう――」
「すぐには説明できません。ですが――
街へ戻れば、ミナさんは安全ではありません」
空気が凍った。
ミナを守る旅は、
ただの冒険ではなかった。
大陸全土の陣営を巻き込む争奪戦。
その中心に――ミナがいる。
俺は静かに仲間の方を向く。
「街へ戻る。だがギルドでも宿でも、ミナは見せない。
守るために動く――戦うためじゃなく」
リアが力強く頷く。
「はい。ミナさんは絶対に守ります」
ミナは汗だくのまま、弱い声で微笑んだ。
「わたし……一緒にいて……いいんですね……?」
「当たり前だ」
答えは、全員が同時に口にしていた。
祠の石畳に三人の影が重なる。
守るべきものを守る旅路が――
本当の意味で始まった。




