第128話 追跡者たち――世界が動き出す音
夜明け前の森は、静かすぎた。
鳥は鳴かず、風も止まっている。
それは自然の静寂ではなく――意図された沈黙だった。
リアが足を止める。
「……誰かが、結界を“消しています”。」
セリアが即座に剣を抜く。
「追跡者ね。」
ラウルは舌打ちした。
「早ぇな……塔が崩れた翌日だぞ。」
ミナは無意識にカイルの近くへ寄る。
カイルは立ち止まり、周囲を一瞥した。
**「三方向。
距離は……近い。」**
その言葉と同時に、森が“動いた”。
◆第一の追跡者――王国側
木々の間から、整った装備の一団が現れる。
王国正規軍でも、冒険者でもない。
“王城直轄の影部隊”。
隊長格の男が一歩前へ出た。
「カイル・ヴァン・エルスト。
王国はあなたを“保護”対象に指定した。」
セリアが冷たく言う。
「保護?
便利な言葉ね。」
男は無表情で続ける。
「聖遺の塔崩壊は、国家安全保障案件だ。
同行を――」
その瞬間。
◆カイル、即答
「断る。」
空気が凍った。
隊長の目が細くなる。
「……拒否権はない。」
カイルは一歩前へ出る。
「じゃあ、持って帰れ。」
ラウルが思わず吹き出す。
「隊長、煽り性能高すぎだろ。」
王国部隊が一斉に構える。
だが――
誰も、踏み込まない。
理由は簡単だった。
“近づいたら負ける”と、本能が告げていたから。
隊長が歯を食いしばる。
「……撤退する。」
部隊は即座に下がった。
◆第二の追跡者――教会側
王国部隊が消えた直後、
空気が“澄みすぎる”。
光が差し、白衣の一団が現れる。
聖印を掲げた神官が微笑んだ。
「神の導きです、カイル様。」
ミナの身体がびくりと震える。
リアが低く言う。
「……教会……
しかも“聖典庁直轄”。」
神官はミナを見る。
「開放者の娘。
あなたは“神の選択肢”だ。」
ミナが一歩後ずさる。
「……私は……」
その前に、カイルが立った。
「その言葉、二度と使うな。」
神官の笑顔が、わずかに歪む。
「神意に逆らうと?」
カイルの声は低い。
「神だろうと、
人を“選択肢”扱いするなら敵だ。」
神官の背後で、聖騎士たちが構える。
セリアが剣を構え、
ラウルが拳を鳴らし、
リアが術式を展開する。
だが――
神官は、静かに手を下げた。
「……今回は引きましょう。」
去り際、彼は囁いた。
「神は……諦めませんよ。」
◆第三の追跡者――帝国暗部
森に、影だけが残る。
リアが眉をひそめる。
「……まだいる。」
次の瞬間、
木の上から一人の男が降り立った。
軽装。
武器は見えない。
だが――一番危険な気配。
男は笑った。
「はじめまして、カイル。」
ラウルが低く唸る。
「……帝国だな。」
男は肩をすくめる。
「ご名答。
俺は“交渉役”だ。」
セリア「交渉?」
男はミナを見る。
「彼女を差し出せ、とは言わない。」
ミナが息を呑む。
男は続ける。
「君“自身”を欲しいだけだ、カイル。」
リアが息を止める。
「……懐柔……」
男は本気だった。
「世界が縛れない存在。
なら帝国が“味方”になる。」
沈黙。
森の音が戻り始める。
カイルは、しばらく男を見つめてから言った。
「条件は?」
男は笑った。
「話が早い。
まずは――“観測”。
敵にはならない。
味方にもならない。
ただ、見させてほしい。」
セリアが即座に言う。
「信用できるわけないでしょ。」
男は頷く。
「正しい。
だから強制はしない。」
カイルは答えた。
**「好きに見ろ。
だが、邪魔したら斬る。」**
男は愉快そうに笑った。
「最高だ。
じゃあ、また会おう。」
影は消えた。
◆追跡が去った後
ミナは胸を押さえ、震えた息を吐く。
「……世界って……
こんなに……近いんだね……」
セリアが静かに言う。
「近いんじゃない。
“見つかった”のよ。」
リアが眼鏡を押し上げる。
「そして……
彼らはまだ“様子見”。
本気は……これから。」
ラウルが肩を回す。
「面倒だな。」
カイルは短く答えた。
「慣れる。」
だがその背後で、
世界は次の一手を準備していた。
──第129話へ続く




