第127話 塔の崩壊――世界が“異変”を知る日
聖遺の塔が崩壊した瞬間、
それは「局地的な事件」では終わらなかった。
世界のあちこちで、同時多発的な異変が発生する。
◆王都・王城中枢
王城地下、秘匿された観測室。
巨大な水晶盤に、無数の光線が走った。
魔導官が叫ぶ。
「観測不能域が拡大しています!!
聖遺の塔……完全に沈黙!!」
老齢の宰相が顔を歪める。
「馬鹿な……
塔は“世界の安定装置”だぞ……」
玉座の前に立つ、勇者パーティのリーダーが眉をひそめた。
「つまり……
“選別”ができなくなった、ということですか?」
魔導官は震えながら頷く。
「はい……
そして……原因は単独個体……
識別名――」
水晶盤に文字が浮かぶ。
《観測対象:カイル・ヴァン・エルスト》
王城に、沈黙が落ちた。
勇者が低く呟く。
「……誰だ、それは。」
宰相は険しい顔で答える。
「塔が“危険視”するほどの存在……
つまり……
お前たち“勇者”と同格、あるいはそれ以上だ。」
勇者の拳が、きしりと音を立てた。
◆教会本部・聖典庁
白亜の大聖堂。
長椅子に並ぶ枢機卿たちが、一斉に立ち上がる。
「聖遺の塔が沈黙した!?」
「そんな記録は千年に一度もない!」
中央に立つ“聖典庁長”が、静かに手を挙げた。
「騒ぐな。」
一瞬で静まる。
彼はゆっくりと告げた。
**「“神の選別”を拒んだ存在が現れた、
それだけのことだ。」**
枢機卿の一人が青ざめる。
「それは……
神意への反逆では……?」
庁長は微笑んだ。
「いいや。
神は選別などしない。
選別していたのは“塔”だ。」
沈黙。
「問題は――
その存在が、
“神を必要としない”可能性だ。」
名が告げられる。
「カイル・ヴァン・エルスト。」
教会は、彼を危険思想の核と見なした。
◆帝国・影の評議会
黒鉄の会議室。
机の周囲に座る影の貴族たち。
報告役が言う。
「塔の監視者が消失。
選別機構、停止を確認。」
仮面の男が笑った。
「面白い。
世界の“自動調整”が壊れたか。」
別の影が低く言う。
「その原因は?」
即答。
**「カイル・ヴァン・エルスト。
個の意志で世界法則を拒否。」**
仮面の男は指を鳴らした。
「殺すな。」
影が怪訝な声を出す。
「……危険では?」
仮面の男は愉快そうに言った。
「危険だからこそ価値がある。
世界が縛れない存在は――
帝国にとって“切り札”だ。」
帝国は、懐柔・観測・奪取を決定する。
◆第三勢力・観測者たち
誰にも知られぬ場所。
記録だけを使命とする者たちが、静かに言葉を交わす。
「塔が壊れた。」
「否。
“役割を終えた”。」
記録官が書き記す。
**《特異存在:カイル
分類不能
世界干渉:拒否型
危険度:測定不能》**
「この先、世界は“選べなくなる”。」
「いいや……
“選ばされなくなる”だけだ。」
第三勢力は、まだ敵でも味方でもない。
◆その頃、当人たち
崩壊した塔の外。
夜明け前の冷たい風。
ミナは深く息を吸った。
「……外……だ。」
セリアは空を見上げ、呟く。
「世界……変わった気がする……」
リアは静かに言う。
「いえ。
“世界が私たちを見始めた”だけです。」
ラウルが肩を回す。
「面倒なことになったな。」
カイルは空を見上げ、短く答えた。
「いつも通りだ。」
だがその背後で、
世界は確実に彼を“中心”として動き始めていた。
──第128話へ続く




