第126話 カイルの“存在の一閃”――塔が恐れた理由
世界が、消えかけていた。
音も、光も、温度もない。
《零識界》――存在を“無かったことにする”最終否定。
ミナの結界は悲鳴を上げ、
リアの術式は意味を失い、
ラウルの拳も、セリアの剣も、
“振るう前提”そのものを奪われていく。
セリアの唇が震えた。
「……終わる……?」
その瞬間だった。
◆カイルは、世界に抗わない
カイルは、剣を高く振り上げなかった。
構えも、力みもない。
ただ一歩、前に出た。
リアが息を呑む。
「……存在値……上昇……?
いえ……違う……
“固定”されてる……!」
監視者が初めて、明確に動揺した。
「……なぜ……消えない……」
カイルは静かに答えた。
「俺は、ここにいるからだ。」
それは宣言でも、抵抗でもない。
事実の提示だった。
未来を選ばない。
世界に従わない。
役割を受け取らない。
ただ――
“存在している”という一点だけで、世界に立つ。
《零識界》が、そこで“止まった”。
◆存在の一閃
カイルの剣が、初めて“本気”で動いた。
速さでも、技量でもない。
斬撃ですらない。
**“存在が通った痕”**が、空間に刻まれる。
リアが叫ぶ。
「あれは……攻撃じゃない……!
“存在の主張”……!!」
セリアは、直感で理解した。
(この人は……
敵を倒してるんじゃない……
世界の前提を書き換えてる……!)
剣の軌跡が、
《零識界》を真っ二つに裂いた。
◆監視者、初めて“恐怖”を示す
六つの輪が悲鳴を上げ、
融合していた光輪が崩壊する。
黒い翼が砕け、
監視者の身体が“人の形”を保てなくなる。
**「……危険……
この存在……
世界の選別機構を……無効化する……」**
ミナの結界が、優しく光る。
ミナは涙を浮かべながら、はっきり言った。
「カイルは……世界を壊す人じゃない。
“選ばせない”だけ……!」
リアが震えた声で続ける。
「……だから塔は……
この人を“危険”と判断した……
世界の都合を……拒否する存在……!」
ラウルが苦笑する。
「なるほどな……
世界の敵ってやつか……
でもよ……」
拳を握りしめる。
「俺たちにとっちゃ、
ただの隊長だ。」
セリアは剣を肩に担ぎ、真っ直ぐに言った。
「隣に立つって決めたから。
世界がどう言おうと、関係ないわ。」
◆塔の意思、崩壊
監視者の声が、もはや機械的ではなくなる。
**「……第四門……
判定不能……
存在の定義、崩壊……」**
塔全体が、悲鳴のような音を立てる。
床の結晶が砕け、
情報の光が雪のように降り注ぐ。
リアが叫ぶ。
「塔が……自分の役割を失ってる……!」
ミナがはっとする。
「じゃあ……ここは……!」
監視者が、最後に告げた。
**「……記録……保存……
“カイル・ヴァン・エルスト”……
世界変動因子……
排除不可……」**
その言葉を最後に、
監視者の本体は光となって消えた。
◆静寂
何もない空間に、五人だけが立っている。
塔は、もう敵意を放っていなかった。
セリアが、ぽつりと呟く。
「……勝った……の?」
リアはゆっくり首を振る。
「いいえ……
“勝敗”という概念自体が……
この人には通じていません……」
ミナはカイルの袖を、ぎゅっと掴む。
「……行こう。
外へ……」
カイルは剣を納め、静かに言った。
**「ああ。
もう用はない。」**
◆次へ――世界は動き出す
塔の最上層が崩れ、
外の光が差し込む。
その光の向こうで――
王国、教会、帝国、そして第三勢力。
すでに、“何かが起きた”ことを察知していた。
──第127話へ続く




