第122話 第三門・真実の審判――世界が求めた答え
第二門を越えた先。
塔の内部は、まるで別世界のように静かだった。
床は透明な結晶でできていて、
歩くたびに水面のように波紋が広がる。
壁も天井も存在せず、
ただ淡い光が四方から満ちている。
リアが息を呑んだ。
「……ここ、物質の空間じゃない……
“情報”だけで構成された領域……」
セリア「つまり?」
リア「思考・記憶・未来予測……
そういう“概念”を直接扱う階層……!」
ラウル「俺の頭じゃ理解できねぇ世界だな!」
ミナは不安そうに首を振る。
「……怖い……。
ここ、何かを“見せようとしてる”……」
その瞬間──
空間が揺れた。
何もない場所に、白い球体が浮かび上がる。
そして声が響いた。
**『第三門・真実の審判。
問う――“お前たちが望む未来”は何だ。』**
声は冷たくも優しくもない。
ただ世界そのものの声だった。
ミナは胸を押さえ、小さく震える。
「……嫌だ……見たくない……」
カイルが前に出る。
「俺たちの未来は、俺たちが決める。」
声が返す。
**『では示せ。
“選ばれる未来”を。』**
白い球体が砕け散り、
五人それぞれの前に“扉”が現れた。
ひとりひとり異なる形。
優しい木の扉、
荘厳な石の扉、
透き通る水の扉──
そしてカイルのは、真っ黒だった。
◆ミナの扉
透き通る青い光の扉。
触れた瞬間、景色が変わる。
そこは──
彼女が幼いころ育った村。
母の姿はなく、
人々の陰口だけが響く。
『巫女だ』『災厄だ』『鍵だ』
『どうせまた何か起こす』
ミナ(……やめて……もう聞きたくない……)
影が囁く。
「お前は“選ばれた道具”。
役割を果たすためだけに生まれた。」
ミナは涙を流し、後ずさる。
その瞬間。
誰かが手を取った。
カイルだった。
ミナ「……え……どうしてここに……」
カイル「泣いてる気配がした。」
ミナ「そんな……理由で……」
カイル「十分だろ。」
ミナの胸が熱くなる。
影が叫ぶ。
「道具に感情は不要だ!!」
カイルはミナを庇いながら呟く。
「役割じゃなくて“ミナ”が必要なんだよ。」
その言葉だけで、
村の景色が崩れ去った。
扉が消え、ミナは現実へ戻った。
◆セリアの扉
石造りの剣道場。
一人の少女が必死で剣を振っている。
幼いセリアだった。
幼セリア
「勝てない……追いつけない……
どうして……!」
影が囁く。
「努力しても結局無理。
天才には勝てない。」
セリア
「……やめて……」
影
「あなたは弱い。
ずっと弱いまま。」
剣が震え、膝がつく。
そこへ一歩近づく足音。
カイルが横に立ち、剣を構える。
「弱くても進める。
お前はもう証明しただろ。」
セリア「……っ!」
影セリアが幼い声で叫ぶ。
「どうせ負ける!」
セリアは涙をこぼしながらも立ち上がり、
「負けても立ち上がるのが、
私の剣よ!!」
一刀。
影が裂け、道場が崩れる。
セリアは胸に手を当てて呟いた。
「……私、もっと強くなりたい。」
カイルは微笑んだ。
◆リアの扉
透き通る巨大な魔術式の中で、
リアは動けずにいた。
影リア
「答えが出ない。
未解明。
解析不能。
だから恐ろしい。」
リア
「……そう……。
私は“分からない”のが怖い……。」
影
「だからお前は世界に追いつけない。」
リアは震えながらも笑った。
「でも……
分からないから、研究は終わらない。」
影が揺れる。
リア
「未知があるから、私は歩けるんです。」
魔法陣が光り、幻が砕ける。
◆ラウルの扉
荒野。
血まみれの自分が立っている。
影ラウル
「守れなかった。
何も……」
ラウル
「……ああ。
俺は弱かった。」
影
「今だって力任せで、
頼れるものなんて拳しかねぇ。」
ラウルは拳を構え、低く笑う。
「それでいい。
この拳で守れるなら、
それで十分だ。」
一撃。
影が吹き飛ぶ。
◆カイルの扉
黒い扉だけが待っていた。
カイルが触れると、中は空だった。
広い空間。
何も生まれず、何も響かず。
声が頭に直接降りてくる。
**『カイル・ヴァン・エルスト。
世界はお前を求めている。』**
カイル「……世界が?」
声
『お前は特異点。
破壊者にも、救済者にもなれる。
ならば選べ。
“世界の代行者”となって未来を導け。』
それは誘いだった。
力の供与。
束縛のない権限。
人間離れした存在へ至る道。
誰もが欲する力。
だがカイルは一歩も動かず、
静かに言った。
「断る。」
声が震える。
『理由を述べよ。』
カイルは剣を抜き、
影のような“世界意思”へ向ける。
「俺の未来は、誰のものでもない。
俺が歩く。
仲間と一緒に。」
ミナの笑顔。
セリアの悔し涙。
リアの勇気。
ラウルの拳。
そのすべてが、
彼の選ぶ未来だった。
声が揺らぎ、空間が崩れる。
**『……個の意志、観測。
第三門――合格。』**
空間が砕け、
五人全員が同じ場所に戻ってきた。
ミナは涙目でカイルに抱きつき、
セリアは真っ赤になって視線を逸らし、
リアは記録を必死に取り、
ラウルは誇らしげに笑った。
そして扉がひとりでに開いた。
「第四門・存在の境界」へ。
──第123話へ続く




