第121話 己の影との対決――それでも前に進む
影がひとりずつの姿に変わり、
塔の空間に静かに立ちはだかった。
それは、ただの偽物ではない。
“自分が最も嫌う自分”の姿。
ミナは息を飲み、
セリアは剣を握りしめ、
リアは魔力値の揺れに耐え、
ラウルは拳を握る。
そして――
カイルの前には、影が形を取らなかった。
ただ、揺れる“黒いもや”。
リアが驚愕して叫ぶ。
「カイルさんの影……形が作れない……!?」
ミナ「どうして……?」
セリア「なんであなただけ……?」
カイルは答えなかった。
むしろ、影を睨みつけるように前へ進む。
影が揺れる。
震える。
恐れているようにすら見えた。
リアは震える声で言う。
「……影が彼自身を定義できない……
“弱み”が……形にならない……?」
セリア(そんな人間、存在する?
本当は……誰よりも傷ついてるのに……
それでも前に進むから……
影になるほど揺らがない?)
ミナは胸に手を当て、呟いた。
(……強いだけじゃない。
折れないんだ……この人は……)
門番の声が響く。
**『対象:カイル・ヴァン・エルスト。
影の生成不可。
――特異判定。』**
ラウル「特異って……どういう意味だよ……!」
リア「“影が形作れないほど強固な意志”。
こんな例、文献にありません……!」
カイルは霧を切り裂くように言う。
「時間を使うな。
始めるぞ。」
そして各々の影との戦いが始まった。
◆セリア vs 「弱い自分」
セリアの前に立つのは、
怯えて剣を震わせる、自分だった。
影セリア
「無理よ……勝てるわけない……
どうせまた足を引っ張る……!」
セリア
「…………」
胸の奥に刺さる言葉。
一度は飲み込まれそうになる。
でも。
カイルの声が蘇る。
『戦えるまで隣にいる。』
セリアは震える手で剣を構えた。
「それでも……私は強くなりたい!!」
影が悲鳴を上げ、飛びかかる。
セリアは涙を拭き、
そのまま踏み込んだ。
「弱いままで終わりたくないッ!!!」
一刀。
影が霧散する。
セリアの胸に、初めて“本当の自信”が灯った。
◆ミナ vs 「役割としての自分」
ミナの前に立つ影は、
表情のない“選ばれた巫女”のような姿。
影ミナ
「あなたは道具。
開放するだけの存在。
人間じゃない。」
ミナの心臓が凍る。
影
「守られるだけのあなたに、
歩く資格はない。」
ミナ「……っ!」
胸の奥が痛くて苦しくて、
涙が溢れそうになる。
でも――
ミナは振り返る。
そこには、カイルの背中。
『お前は自分で立つ。』
ミナは一歩前へ。
手は震えている。
けれど魔力は柔らかく輝く。
「私は……役割じゃない。
私は“私”で、
みんなと歩きたいの!」
光が弾け、影を包む。
青い光は“拒絶”ではない。
“肯定”だ。
影はその光に溶かされ、消えていった。
ミナの胸には、
誰にも奪えない意志が残った。
◆ラウル vs 「暴力しかなかった自分」
影ラウルは荒れた目で笑う。
「結局お前は殴ることしかできねぇんだよ。」
ラウル
「……そうかもしれねぇ。」
影
「いつも足手まとい。
強いふりしてるだけの虚勢。」
ラウルは拳を握り、
影へ向かって歩く。
「違ぇねぇ。
俺は守る手段が“殴る”しかなかった。」
影が嗤う。
ラウルは吐き捨てるように言った。
「だがそれでも、
仲間のために殴れる俺を――
誇りに思ってんだよ!!!」
拳が影を砕き、霧が散る。
◆リア vs 「答えの出ない自分」
影リアは震えながら言う。
「分析しても……理解できない……
正解がない……
未知数……未知数、未知数……」
リアの瞳が揺れる。
「私……何も分からない……
本当は怖い……」
影
「だからあなたは、役に立たない。」
リアは涙を堪えながら笑った。
「……違いますよ。」
影の声が止まる。
リア
「答えが出ないから、
私は探し続けられるんです。」
魔法陣が輝き、
解析ではなく“意志”で影を破る。
影は砕け散った。
◆カイル vs 「形にならない影」
最後に残った黒い霧が震える。
門番の声が震えている。
**『理解不能……
“弱点なき者”……?
いいえ……
弱点はある……
ただし、それは……』**
カイルが歩く。
霧が後退する。
影は形を取れず、ただ逃げる。
リア「……影が、カイルさんの“形”を掴めない……」
ミナ「カイル……怖がられてる……」
セリアは呟いた。
「……あなたの弱さは、
あなたの中で“折り合い”がついてるから。」
ラウル「つまりどういうことだ?」
セリア
「弱みを隠してないから、影が作れないのよ。」
カイルは影の前に立つ。
霧が悲鳴を上げる。
カイル「影は光に従う。
俺の光は――俺が決める。」
剣が振り下ろされる。
霧が弾け、塔に風が満ちた。
第二門・突破。
塔が低く唸り、新たな階層が開く。
影の声が最後に響く。
『次門へ。“真実の審判”へ進め。』
ミナは息を整えながらも微笑む。
セリアは剣を肩に担ぎ、息を吐く。
リアは眼鏡を押し上げ、次の解析へ動き出す。
ラウルは天を仰いで笑った。
そしてカイルは静かに言った。
**「行くぞ。
まだ終わらない。」**
──第122話へ続く




