第12話 “影の狩人”
森の中を走りながら、敵の数を推し量る。
最低6。多ければ10。
全員が“殺すために動く魔物”の殺気。
だが――動きが異常に統率されている。
リアが息を荒げながら叫ぶ。
「追跡が速すぎます! 普通の魔物じゃありません!」
「分かってる。……ミナ、準備できるか?」
ミナは震える声で答える。
「き、怖いです……でも、やります……!」
森が途切れ、小さな丘に出た。
ここなら見通しがいい。背を取られない。
俺たちは立ち止まり、構える。
刹那、森の影から一体の魔物が飛び出した。
半人半狼のような姿。
牙と剣を併せ持つ、人型戦闘型魔物。
しかも1体ではない。
6体。
完全な“殺害陣”を形成した状態で迫ってくる。
先鋒がミナへ一直線に斬りかかる――
俺は剣先を指2本で挟んだ。
金属音とともに、魔物の刃は止まる。
魔物が驚愕した次の瞬間、俺は軽く蹴る。
「《魔力衝撃・零式》」
衝撃波が広がり、敵が3体まとめて吹き飛ぶ。
リアが即座に突撃し、魔物の首を狙う。
ミナは震える声で叫ぶ。
「《加速強化》リアさん!!」
光がリアを包む。
高速化した剣撃が魔物の両腕を切り裂き、地面に叩き伏せる。
ミナは続けてもう一つ詠唱。
「《耐久強化》カイルさん!」
俺の身体に防護の光。
拳を振ると敵の刃が砕け、骨ごと折れる。
3人の連携が噛み合っていた。
だが――
最後の一体だけが、動いていなかった。
丘の縁で、静かにミナだけを見つめている。
爛々と光る双眸。
声を伴わない無音の殺気。
それは戦いの余波すら無視して、静かに告げた。
「ミナ・シュメールこそ“鍵”。連れ帰れ。殺すな。」
ミナは顔を青くして下がる。
リアが守るように前に立つ。
「ミナさんを何だと思っているんですか……!!」
「“器”。それ以外、価値なし」
一歩。
その一歩は距離ではなく、“死への最短ルート”だった。
その瞬間――俺の中で何かが切れた。
「ミナに二度と触れるな」
空気が歪む。
魔物が反応するより速く、俺は掌を向ける。
「《永劫の理:魂断絶》」
光も音もない。
ただ、その魔物は存在ごと消えた。
跡形すら残らず。
丘には風の音だけが満ちた。
ミナが震える声で俺を呼ぶ。
「カイル……さん……」
ミナは怯えていなかった。
息もできないほどの恐怖の中で――信じていた目をしていた。
俺は静かに頭を撫でる。
「大丈夫だ。守るって言っただろ」
リアも安心したように肩の力を抜いた。
しかしラウルだけが――顔色を失っていた。
「……まさか……“鍵”……ミナさんが……そうだとすれば……!」
ラウルは震える声で続けた。
「これはただの巡礼ではなくなる……
街へ戻れなくなるかもしれない……!」
その言葉が、不吉に響いた。




