第119話 第一門・認識の戦場――消える敵、消えない意志
影の門番が槍を構えた瞬間、
世界が“ひっくり返った”。
地面が空に、空が地面に、
前が後ろに、後ろが前に。
ミナが叫ぶ。
「空間……ねじれてる……!!」
リアが即座に術式を展開する。
「違う!これは“認識操作”!
私たちの感覚を歪ませてるの!」
ラウル「つまりどういうことだぁ!?」
リア「見るもの全部が“嘘”。
気を抜いた瞬間、敵がどこにいるか分からなくなる!」
セリアは剣を握りしめ、息を呑む。
「……そんなの、勝てないじゃない……」
だが――
カイルは一歩も動じない。
足元が揺らいでも、
空間が跳ねても、
視界が反転しても。
カイルだけは、静かだった。
◆カイルは“騙されない”
門番の槍が突き出される。
方向は“真横”。
だが次の瞬間には“背後”へ移動してくる──はずだった。
セリア「カイル!!後ろ──!」
ミナ「カイルっ!!」
ラウルが斧を構え、
リアも警告を叫ぶが──
カイルは振り返らない。
むしろ、逆方向へ踏み込む。
ひとつ前へ。
その瞬間──
槍の音が空を裂いた。
リア「……え?そっちは“何もない方”なのに……」
カイル「“見た位置”に来るんじゃない。
“殺せる位置”に攻撃してくるんだ。」
セリアの背筋が震える。
(……私と違う。
“目で見て戦ってない”。)
門番が再び姿を消す。
セリア「来る……!どこ!?どこなの……!」
カイルは静かに剣を構え、
「全方位。
だが、狙いは一つだ。」
一瞬後。
カイルは“何もない空間”を斬り裂いた。
金属音が響き、
そこから門番が弾き飛ばされる。
セリア「……見えたの……!?」
カイル「いいや。
“敵はそう動く”と知っているだけだ。」
セリアの胸に雷が走る。
(私が目で追ってる間に、
この人は“敵の意思”を追ってる……!)
◆セリア、限界を越える
門番が霧散し、姿を取り戻す。
声が響く。
『認識突破者:1名。
脅威レベル上昇。』
カイルは構えたまま言う。
「ここは俺が削る。
セリア、隙を作るぞ。」
セリア「……できるかな……」
カイル「できなきゃ、ここにはいない。」
その言葉が胸を貫いた。
(……信じてくれてる。
弱い私じゃなく、
“追いつこうとしてる私”を。)
セリアは剣を握りしめ、走る。
門番の槍が“見えない角度”から襲い掛かる。
霧が伸び、感覚が奪われる。
だがセリアは叫んだ。
「私は……見る!!」
視界が歪んでも、恐怖が押し寄せても。
心だけは、まっすぐカイルの背中を追っていた。
そして──
◆ミナの“新能力”が発動する
ミナが震える手を前に出す。
その手のひらに、青い光。
リアが驚きの声を上げる。
「ミナさん、その魔力……形が違う……!」
ミナ「守るだけじゃ……足りない……
みんなが前に進むなら……
私も――!」
光が弾けた。
ミナの魔力が糸のように伸び、
セリアの足元へ触れる。
それは“結界”ではなかった。
“補助”。
“強化”。
“方向付け”。
リアが震える声で言う。
「加速支援……!
“導きの陣”……!!?」
ミナの魔力がセリアを押し上げた。
セリア自身の力では届かないはずの位置へ。
セリア「……これ……私、行ける……!!」
◆セリア、“カイルの領域”へ触れる
門番が攻撃を放つ。
視界が揺れ、角度が変わり、
槍の軌跡が読めない。
だがセリアは――
カイルの教えを思い出す。
『恐怖を抱えたまま進め。
恐怖は殺し方を知っている。』
セリア「……そうよ……
怖いから、私は前に出られる……ッ!!」
一瞬で槍の軌跡を読み──
セリアは踏み込んだ。
初めて。
“カイルの戦闘領域”に、半歩入った。
剣が門番の胸を貫く。
門番が揺らぎ、声を発した。
**『認識突破者:2名。
予測不能領域に到達。』**
霧が裂け、世界が一度だけ“本来の形”を取り戻す。
カイルが前へ歩き、
セリアの肩に手を置く。
「よくやった。」
セリア「っ……!
あ、当たり前よ……当然……!」
顔が真っ赤なのは、霧のせいではない。
◆最後の一撃
門番はなおも立っていた。
次の試練のために力を残しているのか、
動きは鈍い。
ミナが叫ぶ。
「カイル!!
今なら……倒せる!」
カイルは頷き、
「行くぞ。」
地を蹴る。
セリアの斬撃で開いた“認識の穴”へ、
カイルが突き抜ける。
門番が槍を構える。
遅い。
カイルの剣は既に門番の中心に届いていた。
黒い霧が破裂し、
門番が崩れ落ちる。
最後に声だけが響く。
**『第一門突破。
次門へ導入――“忘却の回廊”。』**
霧が晴れ、塔の入口が姿を現す。
古代の石造り。
封印の文字が浮かび上がる。
そして──
塔の扉が、“勝手に”開いた。
冷たい声が響く。
**『入れ。
選ばれし者たち。』**
ミナが震える手でカイルの袖をつまむ。
セリアは剣を握り直す。
リアが情報を整理し、
ラウルが緊張に拳を構える。
カイルは短く言った。
**「行こう。
ここからが本番だ。」**
──第120話へ続く




