第118話 塔の入口――影の門番
黒い霧が爆発のように広がり、
視界が真っ黒に染まる。
音が消え、地面の感覚すら曖昧になった。
ミナ「カイル……!どこ……っ?」
返事はない。
霧の中で、みんなが散り散りにされた。
◆カイル
霧の中。
構えた剣先だけが頼りになる。
(……空間を歪めて分断か。
戦力比を崩すのが目的だな。)
足音のような、音ではない何かが近づいてくる。
次の瞬間――霧が裂け、無数の“手”がカイルへ飛びかかった。
影のような手。
意志を持った捕縄のようにうねり、
カイルの四肢を引き千切るつもりで迫る。
しかしカイルは動かない。
静かに、息を整える。
「……数が多いだけの雑魚ほど、やりやすい。」
次の瞬間。
剣は抜かれていなかった。
振らずに、踏んだ。
足で、影の一体を“地面に固定”する。
影は逃げられず、仮の身体が軋む。
「先に動け。
動いた瞬間、終わりだ。」
影が反応した。
無数の手が一斉にカイルへ突き刺さる――
その瞬間。
カイルは剣を抜いた。
1回の瞬きの間に、
20もの影が斬り裂かれていた。
霧の中に、黒い飛沫が舞い散る。
これが――“状況読解型の戦闘”。
カイル「次は本体を出せ。」
霧が震え、空気が変わる。
◆セリア
セリアもまた、霧の中にいた。
視界はゼロ。
敵の気配がどこから来るかすら分からない。
セリア(……こういう時、私は弱い。)
その弱さが胸を刺す。
でも――同時に別の感情が湧いた。
(――追いつきたい。)
握る剣に力が入る。
その瞬間、霧の奥から影が飛び込んできた。
ほぼ見えない。
だが――
カイルの声が脳裏に蘇る。
『恐怖を抱えたまま進める者が、一番強い。』
セリア(……そうね。
私は恐れてる。
でも――)
足が勝手に前に出た。
霧の爆ぜる音。
影の爪が伸びる。
セリアは叫んだ。
「――届きなさいッ!!!」
剣が影を斬り裂く。
驚くほど鮮明に切れた。
影は濁った悲鳴をあげて霧に溶けた。
セリア「……できた……っ!」
その手は震えているのに、
心は前に進んでいた。
◆リア
リアの周囲には魔方陣が浮かんでいる。
リア「感知術式展開……
視界がないなら、代わりを作ればいい……!」
霧の密度、魔力の波。
すべてを数字へ変換し、地図を描く。
リア(……この霧、誰かを中心に循環してる……
あの中心が――本体!!)
リアは叫ぶ。
「セリアさん!あなたの右前方10メートルに本体がいる!」
セリア「わかった!!」
影の霧がざわりと揺れる。
中心へ向かい、セリアは走る。
(見えない。でも……数字が道になる!)
剣を構えた。
◆ミナ
ミナもまた霧の中で震えていた。
足が動かない。
胸が早鐘を打つ。
ミナ(また……怖い……
また“鍵”だとか“役割”だとか言われて……)
ただの少女なのに。
戦う資格なんてないのに。
でも――
カイルの声が頭に響く。
『お前は誰にも預けない。
お前は――自分で立つ。』
ミナ「……カイル……」
胸の奥が熱くなった。
その瞬間、手が光った。
淡い青の魔力。
水のように優しく、しかし強く。
ミナ「……守られたいだけじゃ、いや……!」
光が霧を押し返す。
ミナの魔力が“形”を取り始める。
リアが驚きの声を上げた。
「ミナさん……!?
それ、結界の初期形じゃ……!」
ミナ「私……みんなを守りたい……!」
青い光が広がり、霧が後退していく。
その光が――道を開いた。
◆五人、合流
ミナの光が霧を裂き、
セリアが駆け抜け、
ラウルが吠えながら道を押し開き、
リアが魔法陣で周囲を固定する。
霧が晴れ、中心に影の門番が立っていた。
黒い甲冑に、仮面。
中身は空洞。
声は響く。
**『試練開門。
対象:カイル・ヴァン・エルスト。
第一門――“認識の戦場”。』**
門番の槍が構えられる。
空気が張り詰める。
ミナが叫ぶ。
「カイル……気をつけて!」
セリアが横に並び、剣を構える。
リアが後方で術式を準備する。
ラウルが肩で息をしながら笑う。
「隊長!まとめていこうぜ!!」
カイルは静かに剣を抜き、
一言だけ言った。
「ここからが本番だ。」
──第119話へ続く




