第115話 影の痕跡――追跡と封印師
襲撃が去った後の広場は静かだった。
破壊跡も、血も、死体もない。
ただ――空気に残る異様な“冷たさ”だけが、戦いが本物だったことを示していた。
リアが地面に触れ、魔力痕を解析する。
「……やっぱり普通の召喚術じゃない。」
カイル「理由は。」
リアは立ち上がり、眉をひそめる。
「“召喚者が存在しない”の。
術式そのものに意思がある……まるで、術そのものが生きているみたい。」
ラウルは腕を組む。
「自動戦闘兵器……か?」
リア「もしそうなら――世界規模の脅威。」
ミナは息を呑む。
「じゃあ……あれは誰が……?」
カイルは静かに言った。
「それを知るために調べる。」
そんな時――背後から気配。
振り向くと、ローブを纏った人物が立っていた。
フードから覗く髪は淡い灰色、瞳は深い緋色。
気配は透明だが――異様に重たい。
その人物は歩み寄り、淡々と言った。
「術痕に触れるな。」
リアが反射的に身を引く。
カイルも剣に手を置くが、相手は敵意を示さない。
代わりに胸元の徽章を見せる。
そこには――
“封印院”
と刻まれていた。
ミナが小さく呟く。
「……封印師……!」
その人物は軽く会釈する。
「王都封印院所属、
階位《銀印》――リゼル・ノクス。」
声は淡々としているが、芯がある。
カイルが問う。
「目的は。」
リゼル「状況確認。そして――あなたたちへの勧告。」
空気が張りつめた。
ミナが不安になる前に、カイルが促す。
「聞こう。」
リゼルは破壊された地面を指す。
「この術式。
おそらく“鍵”を探している。」
リアは眉を寄せた。
「鍵……?」
リゼルの視線が――ミナへ向いた。
ミナ「……私?」
リゼルは否定しない。
「あなたではなく――
あなたが持つ“役割”だ。」
カイルの目が細くなる。
「説明しろ。」
リゼルは淡く息を吐いた。
◆封印師の説明
「この世界には三つの“古代枠”が存在する。」
“観測者”
世界の変化を記録し続ける存在。
“保護者”
均衡を保ち、力を制御する存在。
“開放者”
封じられた力を解き、未来を動かす存在。
リゼルはミナを見据えて言う。
「あなたは――その三つ目。”開放者”。」
リア「……つまり……
あの影はミナの“役割”を確認しに来た……?」**
リゼルは頷く。
「役割を見定め、
適格なら“次の鍵を開かせる”。
不適格なら――排除。」
ミナの手がわずかに震える。
だが――カイルはすぐに言った。
「排除される前に斬る。」
その言葉は迷いがなかった。
リゼルは微かに目を細める。
「……あなたの評判は聞いていたが。
本当に、躊躇しない性格なのだな。」
カイル「守る理由がある。」
ミナはその背中を見つめた。
(また……私より先に怖さを切り捨ててる。)
胸が熱くなる。
◆提案
リゼルはローブを翻し、言った。
「私からの勧告――そして提案。」
カイル「聞く。」
リゼルの視線は真っ直ぐだった。
「ミナ・シュメールを、封印院に預けよ。」
ラウルが噴き出しそうな声で言う。
「はぁ!?預けるって……道具かよ!」
リアも険しく言い返す。
「封印って名目で監視するつもりでしょう?」
リゼルは否定しない。
むしろ淡々と続けた。
「我々は保護する気はない。
管理する。」
ミナの肩が震える。
(また……同じ……?
また誰かに決められる……?)
だが今、ミナの前には――ひとつの影ではなく。
カイルの背中がある。
その瞬間、リゼルに向けてカイルが言い放った。
「断る。」
空気が変わる。
リゼルが目を細める。
「理由を。」
カイルは即答する。
「ミナは“誰かに預けられる存在”じゃない。
自分の意思で世界に立つ。」
少し間を置き、静かに続けた。
「それができないなら、守護する意味がない。」
ミナの目に涙が浮かびそうになる。
だが彼女は――今回は泣かなかった。
代わりに、前に一歩出る。
「……私は行きません。」
その声は震えていない。
リゼルはしばらく彼女を見つめ――やがて頷く。
「答えを聞いた。
ならば――観察に切り替える。」
そして去り際、最後に告げた。
「次に来る“試練”は、選択ではなく――証明だ。」
影のように姿が消える。
静けさの中、ラウルがぽつり。
「……なぁカイル。
これ……もう後戻りできねぇやつだよな?」
カイルは少しだけ笑った。
「元から、戻るつもりはない。」
ミナが小さく呟く。
「……私も。」
リアとセリアも頷く。
カイルは剣の柄に触れ、空を見上げた。
雲が厚く、風が冷たい。
(次は――待たされる側ではなく、迎え撃つ側だ。)
そして言う。
**「準備するぞ。
来るもの全部、まとめて相手する。」**
──第116話へ続く




