第114話 王都初戦――正体なき襲撃者
警鐘が響き渡る王都北区。
空気が張り詰め、逃げ惑う人々の声が飛び交う。
カイルは迷いなく駆け出した。
その歩幅は大きく、無駄がない。
ミナ、リア、ラウル、そしてセリアが後を追う。
焦りではない。
戦場へ向かう者の呼吸。
王都の道を抜け、広場に到達した瞬間――
視界が変わった。
広場中央。
黒い煙のような魔力が渦巻き、
そこから――人型の影がこちらを向く。
人間ではない。
魔物でもない。
まるで“誰かの意志が作り出した概念”そのもの。
リアが叫ぶ。
「あれ……召喚術式!?
でも召喚者の痕跡が、ない……!」
ラウルは斧を構えつつ舌打ち。
「無人召喚とか反則だろ……!」
影はゆっくりと動き、女の声で呟く。
『確認――対象:ミナ・シュメール』
全員の背筋が凍る。
セリアが即座に前に踏み出した。
「……狙いはミナ! 囲むわよ!」
だが――影が次に発した言葉に、空気が変わった。
『脅威判定――優先排除対象:カイル・ヴァン・エルスト』
ミナが息を飲む。
リア「……完全にデータ化されてる……!?」
ラウル「つまり――」
カイルは冷静に言う。
「俺が邪魔らしい。」
影が動く。
空気が裂けた。
風斬り音すらない。
ただ距離が――縮んだ。
一瞬で。
ミナが叫ぶ。
「カイル!!」
だがカイルは動じない。
影の急襲。
槍のように伸びる漆黒の腕。
回避?受け流し?
――どちらでもない。
カイルは“剣すら抜かず”その攻撃を素手で掴んだ。
空気が震え、影が歪む。
セリアが目を見開く。
「そんな……反応速度……!」
カイルはゆっくりと握り込みながら言った。
「分析だけじゃ足りない。」
影が高周波の悲鳴を上げる。
『エラー……予測不能……』
カイル「予測で戦うな。
“実感”で来い。」
握り潰した瞬間、影が吹き飛ぶ。
その動き、言葉、すべてが――
**「敵にとって理解不能な戦士」**そのものだった。
◆戦闘開始
ラウルが続く。
「オラァァァ!!」
大斧が影を叩き潰す。
しかし影は煙のように形を変え、分裂。
三体に増える。
リアが即分析。
「再構築型!?
破壊じゃなく“核”を探して!」
セリアは即座に動く。
躊躇はない。
影の一体に踏み込み、剣を振り抜く。
叫びながら。
「私は――弱いままじゃ終わらない!!!」
剣は確かに影を裂き、形を崩す。
しかし影は再生しながら嗤うように言う。
『解析完了――技量:未熟』
セリアの表情が険しくなり、足が止まる。
影が彼女に迫り――
ミナが叫んだ。
「やめて!!」
その瞬間――空気が揺れた。
影の動きが止まる。
セリアの前で。
糸を断たれた人形のように。
ミナの魔力が無意識に放たれていた。
リアが呟く。
「……制御が……進んでる……!」
カイルはその隙を逃さない。
足音すらなく影の懐へ入り、
今度は――剣を抜いた。
一太刀。
音が遅れて届く。
影が形を保てず崩れ、黒い霧へ還る。
だが――最後に声だけが残った。
**『確認――対象は“計画外”。
次回――評価を更新する。』**
霧は消えた。
広場に静寂が戻る。
カイルは剣を納め、息を吐く。
ミナが駆け寄る。
「カイル……!怪我、ない?」
カイル「ない。」
セリアは拳を握り、悔しそうに言う。
「……私は……足手まといだった。」
カイルは彼女を見る。
怒りも慰めもなく、ただ真っ直ぐに。
そして言った。
**「違う。
――“戦った”。
そこに価値がある。」**
セリアの胸の奥で、何かが強く燃えた。
リアは息を整えながら呟く。
「……あれ、ただの敵じゃない。
『試すための戦力』……。」
ラウルは汗を拭きながら笑う。
「つまり――まだ終わりじゃねぇってことだ。」
カイルは空を見た。
黒雲が広がり、風が変わる。
(来る。)
そして静かに言う。
「次は――正体を引き摺り出す。」
──第115話へ続く




