表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/232

第113話 火種の街――誘惑者と観察者

朝日が差し込む王都の通りは、昨日とは違う空気を纏っていた。


人々はひそひそと囁き、時折こちらを窺う視線を向けてくる。


驚き、恐れ――そして少しの期待。


カイルは無視した。

道がどう変わろうが、歩くべき方向は変わらない。


ミナとリア、ラウルが後ろを歩くが、

その距離は自然とカイルを中心にまとまっていた。


(──世界が俺たちを“見る側”に変わった。)


昨日まで追われる側だった者が、

今や基準とされる側。


世界は残酷だ。

だが――悪くない。


◆王族の誘い


石畳の通りを歩いていると、

豪奢な馬車が近づく。


扉が開き、現れたのは王国第三王女――エリシア。


金髪の縦ロール、宝石の瞳。

完璧な礼儀と微笑み。


だがその奥にあるのは、政治の匂い。


「おはようございます、世界守護剣様。」


周囲の民がざわつく。


ミナが一瞬身を引く。


カイルは淡々と返す。


「要件を聞こう。」


王女は優雅に微笑む。


「単刀直入に申し上げます。

あなたの才能、力、そして未来。

――この国に預けませんか?」


周囲が息を呑む。


事実上の勧誘。

王国直属、つまりは国家の剣になること。


カイルは答える前に聞く。


「拘束はあるのか。」


王女「ひとつだけ。」


間を置き、微笑みながら言った。


「ミナ・シュメール様の権限を、王国へ委ねていただくこと。」


ミナの肩が震える。


リアの瞳が鋭くなり、

ラウルが即座に武器に手を伸ばした。


だが――


カイルはただ一言で断った。


「必要ない。」


王女の微笑みが固まる。


しかしカイルは続けた。


「力が欲しいなら――自分たちで鍛えろ。

依存するなら、その時点で負けだ。」


街に静かな衝撃が走る。


王女の表情が、一瞬だけ悔しさを滲ませた。


だがすぐに笑みを整える。


「……なるほど。

噂通り“言葉より剣の方が誠実な男”ですね。」


王女は馬車に戻りながら言った。


「ですが――王都は甘くありません。

覚悟しておいて。」


馬車は去った。


ミナが不安げに言う。


「……今の、本当に断ってよかった?」


カイルは迷わず答えた。


「ああ。

お前を“所有”しようとした時点で、選択肢から外れた。」


ミナの胸に温かい火が灯る。


(守られているんじゃない。

“尊重されている”。)


◆視線の主


そのやり取りを、屋根の上から――

ひとりの少女が見ていた。


銀髪、黒衣、鋭い瞳。

身のこなしは音ひとつない。


「……断るか。

やはりあなたは、強すぎる。」


名は――監視者派遣の一人《影術士・リィナ》。


彼女は静かに呟く。


「世界はあなたを選んだ。

ならば――観察し続けなければならない。」


視線がミナに移る。


「そして、彼女の“変化”も。」


風と共に姿を消す。


◆そしてもう一人


広場の噴水。

そこに座る少女がいた。


前に見た――勇者パーティ副リーダー、セリア。


カイルを見ると、立ち上がり、迷いなく歩く。


その瞳に迷いはなく、敬意も恐怖もない。


ただ――決意。


セリア「……カイル。」


ラウルが身構えるが、カイルが止める。


セリアは言った。


「私はあなたを敵と見ない。」


ミナが目を瞬く。


セリアは続ける。


「むしろ――お願いがある。」


カイル「聞こう。」


彼女は深く頭を下げた。


「私を鍛えてほしい。」


ミナ、リア、ラウル――全員が固まる。


セリアの声は震えていない。


「私はまだ弱い。

でも――弱いまま終わりたくない。」


彼女は拳を握り、顔を上げる。


「あなたたちは進んでいる。

なら私は――追いつきたい。」


カイルはしばらく沈黙し、


そして短く言った。


「いいだろう。」


ミナの表情がわずかに柔らかくなる。


ラウルは笑う。


リアは眼鏡を押し上げながら呟く。


「パーティ、拡張フェーズ突入ですね。」


ミナが小さく聞く。


「……戦うため、だよね?」


カイルは答えた。


「違う。

“選べるようにするためだ。”」


その言葉は、セリアの胸に深く刺さった。


王都の空には、雲がゆっくりと集まり始める。


遠くで鐘が鳴り――異変が告げられる。


「王都北区に魔力反応!!

未確認戦闘発生!!」


走る人々。

緊張した空気。


カイルは剣に手を置き、歩き出す。


**「行くぞ。


これは――始まりだ。」**


──第114話へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ