第112話 王都の夜――静かな謀議
王都の夜は静かだった。
昼間の喧騒と政治臭が嘘のように、月だけが淡く光っている。
だが――静かなのは街だけだ。
人間は眠らない。
そしてその中心に、
今や“世界守護剣”と認定されたカイルがいた。
宿のバルコニー。
手すりに背を預け、月を眺めながら思考する。
(力を与えられたわけじゃない。
ただ――世界が“俺に責任を押しただけだ”。)
肩の重みは増えた。
だが苦ではない。
守る理由は、もう揺るがない。
背後から小さな足音。
ミナだった。
「眠れないの?」
カイル「お前もな。」
ミナは少し苦笑する。
その表情は以前とは違っていた。
怯えでも遠慮でもなく――並び立つ意志。
ミナ「ねぇ……カイル。」
カイル「ん。」
ミナ「……私、間違ってないかな。」
カイルは一拍置き、答えた。
「間違えることを恐れるやつは、
何も選べないまま終わる。」
ミナの瞳が揺れる。
「でも――」
カイルは言葉を遮った。
「間違えてもいい。
その時は、俺が隣で修正する。」
ミナは息を吸い、ふっと笑った。
「……頼りにしてる。」
◆その頃――別の場所
王都・中央塔。
巨大な円卓に三国の重役たちが座る。
机中央にはひとつの議題。
“カイル・ヴァン・エルストは脅威か、希望か。”
帝国将軍が言う。
「剣速・反応、精神耐性、戦術判断……
どれも“英雄”の域に達している。」
教会枢機卿が口を歪める。
「しかし、我らの支配に従う意志がない。
それこそが危険だ。」
王国宰相は震える声で言った。
「あれは……“制御できない強者”だ。」
だが――
王都議長が静かに言葉を落とす。
「違う。」
全員が彼を見た。
「制御できないのではない。
――必要としていないだけだ。」
空気が変わった。
「この世界は、
“従う強者”ではなく――
“理由を持つ強者”を求め始めたのだ。」
沈黙。
そして新しい議題が置かれる。
次の接触者候補
名前が投影される。
1人目:王国第三王女
2人目:帝国魔導院主席
3人目:教会直属の“聖騎士”
4人目:国籍不明の暗部所属者
5人目:――元勇者パーティ 副リーダー“セリア”
会議室がざわつく。
◆同刻――勇者アレンの視点
薄暗い部屋。
酒瓶が散らばり、アレンは机に顔を伏せている。
手は震え、剣は折れたまま床に転がっている。
そこへ足音。
「立ちなさい。」
声の主――セリア。
アレンの元仲間で、副リーダー。
唯一まともだった少女。
アレン「……セリアか。
笑いに来たのか……?」
セリアは少しだけため息をつき、
「違う。」
椅子を引き、座り、言う。
「あなたが落ちたのなら――
今度は私が引き上げる。」
アレンは顔を上げる。
セリアの瞳は強かった。
「世界は変わり始めた。
ミナも。
カイルも。
そして――私たちも変わらなきゃいけない。」
アレンは苦く笑う。
「俺に……もう戦う価値があるのか……?」
セリアは微笑んだ。
「あるわ。
“悔しい”と思える限り。」
アレンの拳が震える。
(まだ終わったわけじゃない……?)
セリアは続けた。
「私たちは――今度こそ、正しい形で戦う。」
その言葉は、確かな火種だった。
◆宿へ戻る視点
ミナが部屋に戻り、扉が閉まる。
カイルは夜風を感じながら目を閉じる。
(世界会議は終わった。
だが――)
胸の奥に刺さった言葉。
「次に試されるのは君だ。」
カイルはゆっくりと剣の柄に触れた。
迷いなく。
「望むところだ。」
夜空が黒く深く広がる。
その中で、星だけが静かに光っていた。
──第113話へ続く




