第111話 影の使者――世界は動き続ける
王の宣言が終わったあとも、議場には重たい沈黙が残っていた。
剣を粉にされた勇者アレンは、まだ膝をついたまま動かない。
ミナは心配そうに彼を見たが、
カイルはあえて視線を向けなかった。
(もう手を伸ばす必要はない。
立つか倒れるかは、あいつ自身が決めることだ。)
それが彼の答えだった。
◆勇者パーティの崩壊
沈黙を破ったのは、アレンの元仲間――魔導師エレナだった。
怒りに震えながら叫ぶ。
「おかしい……!
こんなの間違いよ!!
どうしてあんたが認められて、私たちが……!!」
カイルは静かに歩き、
エレナの前に立つ。
顔を近づける必要もない。
声は低いが、確実に届く。
「――『私たち』じゃない。」
エレナ「……え?」
「お前は自分の功績を“仲間”のものだと思い込んだ。
だが本物は違う。
仲間の努力を“互いの力”として積み上げる。」
エレナの顔が青ざめる。
(逃げ道を塞がれる言葉……
これが静かなざまぁか。)
そして――カイルは最後に刺す。
「お前は、仲間を利用した。
だから何も残らなかったんだ。」
エレナは言い返せない。
王都の重役たちまで視線を逸らすほど、
言葉は完全に真実だった。
◆王の提案と新しい立場
王が口を開く。
「カイル・ヴァン・エルスト。」
カイル「……聞こう。」
「我々はあなたに“世界守護剣”としての正式任命を申し渡す。
自由行動・越境許可・軍指揮権の一部、
すべてあなたに委ねる。」
議場が再びざわめいた。
リアが思わず小声で呟く。
「……世界最高クラスの特例権限……
普通、国一つ動かせるレベル……」
ラウルは苦笑いしながら頭をかいた。
「おい待て、俺ら……
ただの旅パーティだったよな?」
カイルは答えず、王へ問い返す。
「見返りは?」
王は即座に答える。
「――世界の未来だ。」
その言葉に嘘はなかった。
だが同時に、重い枷でもあった。
カイルはミナの方を向く。
ミナは不安ではなく――
信頼の眼で彼を見ていた。
その視線を受け、カイルは言った。
「……拒否はしない。」
王「ならば契約成立だ。」
◆そして――影が動く
会議が終わり、重役たちが退出し始めた頃。
背後から――独特の魔力気配が近づいた。
カイルは振り向かず言う。
「……姿を見せろ。」
空気が揺れ、黒いフードの人物が現れる。
護衛も魔導師団も反応できなかった。
リアが驚愕して呟く。
「……転移痕跡なし……!?
空間すら触ってない……!」
ラウルは構えながら問う。
「誰だテメェ……!」
フードの人物は一歩前へ出て、
その声は――静かで冷たかった。
「世界は変わり始めた。
だが“均衡”は崩れていない。」
カイルは警戒しながら短く問う。
「用件。」
人物はミナを一瞬見て――
カイルへ視線を戻す。
「我々は――“監視者”。
世界が滅びぬよう動く、第三の勢力。」
ミナが息を呑む。
人物は続ける。
「カイル・ヴァン・エルスト。
君が“守護剣”となった以上――」
そして告げた。
「次に試されるのは、君だ。」
空気が凍る。
人物は最後に言葉を残し、影のように消えた。
◆残された四人
ラウル「……いやいやいや……今度は何だ“監視者”って。」
リア「世界が動きすぎです……この一日で政治形態変わりましたよ……」
ミナはカイルをまっすぐ見つめる。
「カイル……怖い?」
彼は即答した。
「いいや。」
そして続ける。
「恐れる価値があるのは――
守れなかった時だけだ。」
ミナの胸が温かくなる。
カイルは剣の柄に手をかけ、
短く宣言する。
**「次の敵が誰でも関係ない。
選んだ以上――すべて斬り開く。」**
夜風が吹き、王都の灯りが揺れる。
旅は終わらない。
むしろ――
ここからが本番だ。
──第112話へ続く




