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第11話 祠の呼び声

街へ戻る道を進んでいた時だった。


空気が変わった。

風は止まり、鳥すら鳴きやんだ。


リアが剣に手をかける。


「カイルさん……さっきの祠の方角、妙な気がします」


「俺も感じてる」


ミナも足を止め、不安げに袖を掴む。


「も、戻った方が……いいんでしょうか……?」


判断が早かったのはラウルだった。


静かな声で、しかし強い調子で言う。


「祠へ戻りましょう。……放置してはいけません」


昨日までの柔和さからは考えられないほどの即断。

その“違和感”は強まるが、敵意は感じられない。


俺たちは祠へ引き返す。


祠は――変わっていた。


祠そのものは破壊されていない。

だが足元には、何かを引きずったような黒い痕跡。


ミナが息を呑む。


「ま、魔力の……残滓……?

 でも、これ……教会系の魔力じゃない……闇の……」


リアが周囲を警戒しながら低く言う。


「誰かが、祠を“使った”としか思えません」


ラウルは祠の前に立ち、静かに目を閉じた。


「……間に合わなかったか」


その口ぶりは、祠で何が起きたのか――予想していた人間のものだった。


問い詰めるべきか迷っていると、別の気配が森の奥に走る。


殺気。

敵意。

獣のような飢え。


――“見られている”。


俺はミナとリアの前に立つ。


「まだ森にいる。距離はかなり近い」


ミナは震えながらも杖を構える。


「ま、また狙われてるんですか……?」


リアが一歩前に出て、ミナをかばう。


「誰が来ても、今度は絶対に渡しません」


ラウルも静かに杖を握る。


「来ます。……大勢です」


黒い影が森の奥に動いた瞬間、俺は呟いた。


「逃げるぞ。戦うんじゃない。ラウルも来い」


ラウルは一瞬だけ驚き、すぐに頷く。


俺たちは祠を背にし、森を駆けた。


草木を裂く足音。

追手の気配は確実に近づいている。


この時、追跡者との距離は――すでに死の領域だった。

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