第106話 完全暴走モード――執行官“処刑形態”
執行官の身体を包む黒霧が渦を巻き、形を変えていく。
骨が軋む音。
筋肉が膨張し、装甲化し、紅い紋様が走る。
仮面が割れ、獣の牙のような形状に変わる。
リアが震える声で言った。
「……あれ、制御権限剥奪後の“処刑形態”……
自我を消して、任務だけを遂行する状態。」
ラウルが拳を握り、低く唸る。
「つまり……もう人間じゃねえってことか。」
ミナは首を横に振る。
「違う。
消されてるだけ。
まだ、奥にいる。」
その言葉に、カイルは短く答える。
「なら――通す道はひとつ。」
執行官の目が紅く光り、
その声が低く響いた。
「――捕縛対象、ミナ・シュメール。排除優先。」
地面が砕けるほどの踏み込み。
一瞬で距離が消える。
◆開戦――速度の領域
ズドンッ!!!!
執行官の拳がカイルの剣とぶつかり、
衝撃波が遺跡全体に響く。
ラウルが真横から飛び込み、拳を叩き込む。
「オラァァァァ!!!」
しかし執行官はほとんど揺れない。
逆に――
バキィ!!!!
ラウルの腹に膝蹴り。
空気が抜ける音が響き、彼の身体が宙を飛ぶ。
リアが叫ぶ。
「ラウル!!防御結界展開!!」
光が彼を包み、壁に激突する前に衝撃を吸収した。
ラウルは息を荒げながら笑う。
「……死ぬかと思った……
いや、まだ殺す気あるなあいつ……!」
◆カイルの攻防
カイルは滑るように動き、斬撃を連続で放つ。
速度。
正確性。
迷いのない軌道。
だが――
執行官の動きは、“予測”しているようだった。
剣が届く前に回避。
回避した瞬間に反撃。
それは戦闘ではなく、計算された“処理”。
リアが分析する。
「攻撃パターンを読み、未来予測してる……
普通の戦いじゃ勝てない……!」
それでも、カイルは退かない。
剣を振り上げ、声を放つ。
「――俺は負けてもいい。」
執行官の動きが止まる。
カイルは続けた。
「だが──ミナを失う未来だけは許さない。」
次の瞬間、剣に光が宿る。
「奥義――《虚断・三連――幽黎》!!!」
三つの斬撃が同時に走る。
一撃、避けられても残り二つが当たるように軌道が重なり――
ズガアアッ!!!
執行官の肩装甲が砕け、血が滲む。
ラウルが叫ぶ。
「いけ!!押せ!!!」
◆ミナ、介入開始
ミナは仲間の背中を見つめ――
胸に手を当てた。
胸の紋章が光り、魔力が溢れる。
リアが驚く。
「ミナ!?
あれ以上共鳴強化すると自我がもたない!!」
ミナは微笑んだ。
「大丈夫。
一人じゃないから。」
魔力が紋章から発し、空間に紋様が展開される。
執行官が反応し、振り向く。
「危険――対象優先。」
だがミナは臆しない。
その声は、祈りにも似ていた。
「あなたの心を……閉じ込めたまま終わらせない。」
光が溢れる。
共鳴・第三段階――“神経干渉領域”
発動。
執行官の動きが止まる。
苦しげに声が漏れる。
「……やめろ……届く……な……
私は……秩序……未来を……守る……」
ミナは涙をにじませ、言う。
「ううん。
あなたは、押し付けられた未来を守ってただけ。
本当は――」
ミナの声が震える。
「誰も……失いたくなかったんだ。」
その瞬間。
執行官の紅い瞳に――
迷いと痛みが戻る。
◆ラストフェーズ
リアが叫ぶ。
「今!!──決めて!!!」
カイルが跳ぶ。
執行官も反応し、拳を振り上げ――
二つの力がぶつかる瞬間、
ミナは叫んだ。
「選んで!!!」
その声が空気を震わせ、
執行官の拳が止まる。
……止めたのは自分自身。
カイルの剣は執行官の首元で静止する。
誰も動かない。
呼吸すら忘れたような静寂。
やがて――執行官は膝をついた。
鎧が砕け、人の姿に戻る。
彼は震える声で言った。
「……私は……初めて……“自分で”止まった……」
ミナがそっと歩み寄り、手を差し出す。
「ようこそ。
あなたの未来へ。」
執行官はその手を取り、
苦しそうに微笑んだ。
「……理解した。
君たちは混沌ではない。
“可能性”だ。」
だが――その直後。
遺跡が大きく揺れた。
亀裂。
崩落。
地鳴り。
リアが叫ぶ。
「遺跡が……閉じようとしてる!!
この階層自体が封印モードに移行!!!」
執行官は立ち上がり、静かに言う。
「ここから先は……君たちだけの旅だ。」
ミナの瞳が揺れる。
「あなたは……?」
執行官は微笑んだ。
「私は“観察者”に戻る。
だが次は……敵ではない。」
光が彼を包み、姿が消える。
残されたのは四人。
そして――開いた道。
──第107話へ続く




