第104話 交差する信念――“正しさ”を斬る戦い
砂が舞う。
空気が震える。
執行官は傷一つないように見えるが、
確かに後退していた。
その瞳に、初めて“評価”が宿る。
「……見事だ。
この短期間でここまで成長する者は稀。」
カイルは冷静に剣を構えたまま返す。
「褒められて嬉しいと思うほど俺は優しくない。」
ラウルが肩を回しながら笑う。
「おいミナ、こいつ余裕出てきたぞ?」
ミナは少し笑い、しかしすぐ真剣な声に戻る。
「……この戦い、終わらせたい。」
リアが横目で確認する。
「戦いたくない、じゃなく、終わらせたい──ですね。」
ミナは力強く頷く。
「うん。
私たちは破壊しに来たんじゃない。
奪うためでもない。
“未来を選ぶため”に来たんだ。」
その言葉に執行官が反応する。
微かに、だが確かに。
「未来を選ぶ……か。」
その瞬間。
執行官の空気が変わった。
冷たさはそのまま。
だが――重さが違う。
まるで、一国を背負うような圧。
◆執行官の真の力
執行官は手を前にかざし、低く宣言した。
「――《権能・秩序再定義》」
遺跡全体が震えた。
壁の紋章が光り、床に刻まれた古代文字が浮き上がる。
リアが叫ぶ。
「まずい……この空間そのものを書き換えてる!!
この戦い、“向こうのルール”に引きずられる!!!」
砂が舞い、空が黒く変わる。
そして声が響く。
《戦闘規則を定義――》
《対象:ミナ・シュメール。》
《条件:捕縛優先。殺傷は許可しない。》
ミナは息を呑む。
(――私だけ、逃げ道がない。)
だが、その前に立つ影がある。
カイル。
執行官は彼を見据える。
「君は邪魔だ。
規定外。
不要な抵抗。」
カイルは前進する。
剣を握る手に、揺らぎがない。
「俺は“規定”じゃない。
理由だ。」
執行官の目に、わずかな興味。
「理由?」
カイルの声は低く、だが熱かった。
「ミナを守る理由は、
世界に許可される必要はない。」
剣先が、決意の方向を指し示す。
「俺が選んだ。
それだけで十分だ。」
ミナの胸が熱くなり、息が止まる。
ラウルがおどけた声で言う。
「……お前たちもう結婚しろ。」
リアは真顔で頷く。
「式の日程、私が調整します。」
ミナ「やめて!?いま戦闘中だから!!」
執行官ですら一瞬沈黙した。
本当に一瞬だが。
◆決戦再開
執行官が動く。
速い。
さっきとは次元が違う。
だが――
カイルは止めた。
刃と刃がぶつかり、火花が閃く。
ガキィィィィン!!!
リアが高速詠唱。
「支援魔術――《反射結界・加速補助》!」
ラウルが突撃し、砂煙が爆ぜる。
ミナは胸へ手を当て、瞳を閉じる。
(……感じる。
この戦いの意志。
恐怖じゃない。
争いでもない。)
心の奥へ沈むように、彼女は呟いた。
「私は……奪わない。
縛らない。
命じない。
でも────」
瞳が開く。
紋章が光り、空気が震える。
「――“受け止める”。」
精神干渉。
共鳴能力。
だが今はそれ以上。
“相手の信念に触れる力”。
執行官の気配が揺らぐ。
◆信念衝突フェーズ
ミナ「あなたは正しいと思ってる。
世界が壊れる前に整えたい。
守りたい。
誰も傷つかない未来を。」
執行官は刃を振り下ろしながら答える。
「そうだ。
自由はいつも犠牲を生む。
平和は管理なしに成立しない。」
カイルが衝撃波を受け止め、ミナを守る。
ミナは涙をこぼしながら叫ぶ。
「でも、それじゃ人は心を閉じちゃう!!
希望が“許可制”なんておかしい!!!」
一瞬。
執行官の剣先が止まった。
ほんの一瞬。
しかしその一瞬こそ――変わり始めた証拠。
◆ラスト動作
カイル「ミナ。」
ミナ「……うん。」
二人の声が重なる。
「行く。」
カイルが踏み込み、執行官の動きを制す。
ミナが前へ出る。
その声は命令でも否定でもない。
ただ温かく、静かに。
「あなたにも──選ぶ未来がある。」
その言葉が空気に溶ける瞬間。
執行官の身体が、微かに震えた。
──第105話へ続く




