第103話 執行官降臨――世界の秩序、その名は
遺跡深層の空気が震える。
カイルが敵兵を倒した直後、
砂煙が裂け、その奥から歩み出る影。
重厚な漆黒の外套。
首元には三つの紋章――
王国権威
教会認証
帝国執行印
リアが息を呑む。
「……三権認証者。
まさか……“議会執行官”!!」
ラウルが苦い顔をする。
「最近の敵は肩書きがデカすぎるんだよ……!」
執行官はゆっくり顔を上げた。
その瞳は氷のように冷たく透明。
しかしそこには、憎しみも高慢もない。
ただ値踏みする視線。
「……確認。
剣士、魔導士、武闘師、対象者。
戦闘値、許容範囲を突破。」
そして、対象をミナへ向ける。
「ミナ・シュメール。
君は“世界の規格外”。
存在そのものがバグ(想定外)だ。」
胸が痛む。
また同じ言葉。
同じ扱い。
だが――今日は違う。
ミナは小さく息を吸い、まっすぐ言った。
「……それなら。
私が、自分で答えを作る。」
その瞬間、執行官の手が動く。
音もなく。
しかし――世界が“沈んだ”。
視界が傾き、空気が押し潰すように重くなる。
リアが叫ぶ。
「……力場圧縮!?
彼はフィールドそのものを支配してる!!」
ラウルが歯を食いしばりながら笑う。
「はは、ふざけんな……生きてんのかこんなの……!!」
だが――ただ一人、平然と立つ者。
カイル。
執行官が彼を見て、初めて声色を変えた。
「……君は、“守護剣の継承者”か。」
カイルは剣を抜く。
迷いはない。
躊躇もない。
「いいや。」
剣先が執行官へ向く。
微笑すらなく。
ただ事実だけを言葉にする。
「俺は“ミナの剣”だ。」
ミナの胸が熱く跳ねる。
執行官は目を細める。
「……なら試す。
“選ばれた意思”ではなく──
“選んだ者たち”の価値を。」
砂が舞い上がり、周囲が戦場へ変わる。
──戦闘開始。
◆前哨戦:意思と技の衝突
カイルが踏み込み、一閃。
しかし執行官は指一本で受け止めた。
ガキィィィィン!!
ラウルが叫ぶ。
「嘘だろ!?剣を指で止めんじゃねえ!!」
リアは冷静に分析。
「ただの肉体じゃない。
“認識操作”と“未来予測”が入ってる……!」
執行官が言う。
「君の剣は優れた技術。
だが“意志の段階”に達していない。」
カイルは構え直す。
静かに、しかし確実に。
「なら、今超える。」
二人が再び衝突する。
金属音。
衝撃波。
世界が震える。
◆ミナ、力が疼き始める
ミナの胸の紋章が光り始める。
頭の奥がしびれ、視界が二重に揺れる。
(だめ……制御が……)
リアが叫ぶ。
「ミナ、まだ完全覚醒しては──!」
しかしミナは前へ進む。
「私だけ止まっていられない……
だって、私は──」
そして声にした。
「“守られる存在”じゃなく、
“共に戦う仲間”だから!!」
その瞬間。
ミナの魔力が世界に波紋を走らせた。
執行官が初めて目を見開く。
「……これは……
共鳴ではない。
“介入”……?」
ミナの瞳が光を宿す。
優しく、強く、揺らがない光。
「あなたも……選べるんだよ。」
執行官の剣が僅かに止まる。
カイルがその隙を斬り裂く。
「虚断・二連——《黎閃》!!!」
衝撃。
執行官が後退し、砂が舞い上がる。
ラウルが拳を構える。
リアが結界を再展開する。
ミナが前へ立つ。
そして────
戦争が始まる気配がした。
──第104話へ続く




