第1話:追放と覚醒
「カイル、お前は今日限りでパーティを追放だ」
勇者アレクの宣告は、焚き火がぱちりと弾けた音より淡々としていた。
「……冗談だろ?」
「冗談なものか。お前は“無能”だ。戦闘でも補助でも、何もできない」
周囲の仲間もため息をつき、露骨な視線を向ける。
僧侶リリア「回復量が少なすぎます。足を引っ張られて迷惑なんですよ?」
魔法使いユノ「本当、よくここまでいられたよねぇ」
言い返す言葉はなかった。
自分が役に立てていないことぐらい、わかっていた。
だから背を向けた仲間たちに縋ることもせず、俺は静かに去った。
……そのときだ。
頭の奥が焼けつくように痛み、視界が白く染まった。
《封印解除——“禁呪継承者”の記憶を復元します》
膨大な情報が一気に流れ込む。
死闘。魔王。世界を救う光。
そして——俺は二度、世界を救ったのに、記憶を封じられたこと。
「……そうか。俺は無能なんかじゃなかった」
スキル欄が弾け飛ぶ勢いで広がっていく。
【創世魔法】
【完全治癒】
【次元転移】
【魂還元】
【永劫の理】
どれも、世界に一人だけが使える禁呪。
MP欄はカンスト表示を突破し、「∞」の文字。
思わず乾いた笑いが漏れた。
「……追放されてよかったのかもな。好きに生きられる」
その瞬間——草むらの向こうから悲鳴が聞こえた。
「だ、誰か助けて……! オークが……!」
血まみれの女騎士が倒れている。
反射的に、俺は手を掲げた。
「《完全治癒》」
光が放たれ、騎士の傷は瞬く間に消える。
「え……? いったい……あなたは……?」
俺は微笑んだ。
「俺はカイル。追放された“無能”だよ」
そして背後から迫るオークの群れに向け、静かに呟く。
「悪いけど、今ちょっと機嫌が悪いんだ」
世界が震える——。
禁呪の力の解放と共に、物語が動き始めた。




