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異世界カフェにはお帰りの味  作者:


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3/5

新作大繁盛!

 おじさまが来た翌日、ノスタルジアは閑古鳥だった。


「全然お客さん来ないですね……」

「そうだなあ……そうだ雪、甘いもの食べたくないか?」

「何作るんですか?」

「フレンチトーストだよ」

「ふれんちとーすと?」


 雪は初めて聞く名前だという顔をしている。


「まあ、パンと卵と牛乳と砂糖があればできる簡単な料理さ。うまいよ?」


 冷蔵庫から材料を取り出し、食パンを牛乳と卵液に浸し始める。この世界には、日本の食パンと完全に同じものはないが、王都のパン屋で手に入る、少し甘みのあるミルクパンが代用として悪くない。


「すごい良い匂い……」


 バターを溶かしたフライパンにパンを乗せると、じゅうじゅうという音と共に、甘く芳ばしい香りが店内に広がった。雪が目を輝かせながらコンロを覗き込む。


「焦げ付かないように、弱火でじっくり焼くのがコツだ」


 焼き上がったフレンチトーストを皿に乗せ、この世界で手に入る貴重なメープルシロップのような甘いやつをかける。

 自分で言うのもなんだがとっても良さそうだ。


 雪はカウンターの中で、俺の手元をじっと見つめていた。


「雪、食べてみるか」


 俺がそう言うと、雪の猫耳がぴくぴくと動いた。


「いいんですか!?やったあ!」


 焼きたての一枚を皿に乗せ、樹液とクリームをたっぷり添えて雪に渡す。雪は、まるで貴重な宝物でも見るかのように目を輝かせ、フォークを手に取った。


「失礼します……」


 小さな口を開けて一口頬張った瞬間、雪の丸い目がさらに大きく見開かれた。


「んっ…………あぁ、これ…………!」


 彼女は感嘆のあまり言葉を失い、口元を手で覆った。

「美味しいです!外は温かくて、少し香ばしいのに、中はとろけるように柔らかいです……!甘さも、くどくなくて上品で、パンなのにこんなに幸せな味になるなんて……」


 雪は感動のあまり、潤んだ瞳で俺を見上げた。


「透さん、すごいです!本当に美味しい!これなら、銀貨一枚でも、みんなまた食べに来ますよ。だって、この街のどの高価な菓子よりも、心があったかくなる味です!」


 話終わるとフレンチトーストを大切そうに食べ進め、最後に残ったクリームをフォークで綺麗に掬い取って、満足そうに微笑んだ。その猫耳の先まで嬉しさが伝わってくるようだった。


「ごちそうさまでした。これが、フレンチトーストなんですね……」


 自分用を焼き始めるとドアベルが鳴った。


「すいませーん、この良い匂い、どこから……って、何これ!?」


 入ってきたのは、まだ十代後半に見える若い女の子の冒険者だった。革の鎧に身を包み、背にはショートソードを背負っている。彼女は鼻をくんくんさせながら、一直線にカウンターまでやって来た。


「いらっしゃい。ちょうど焼き上がったばかりだよ。新作のフレンチトーストだ」


 俺はもう一枚焼きながら、皿を彼女の前に差し出した。


「これ、売り物なんですか!?すっごく甘そうなのに、パンですよね?変な薬草とか入ってない?」

「変なもんは入ってないさ。試しに一口食べてごらん。今日のお客さんは君が最初だ」


 女の子は警戒しつつも、魅惑的な匂いに抗えず、フォークを刺して口に運んだ。

 次の瞬間、彼女の顔がパッと輝いた。


「な、なにこれ!すっごく美味しい!表面はカリッとしてて、中はとろとろ……甘いけど優しい甘さで、全然重くない!え、これ本当にパンですか?」


 彼女はあっという間に一枚を平らげてしまった。


「お代わり!……じゃなくて、これ、いくらですか?」

「今日は新作の試作品だから、特別に銀貨一枚でいいよ」


 決して安くはないが、彼女は感動を隠せない様子で代金を支払い、まるで宝物を見つけたかのように興奮しながら店を出て行った。


「新作、大好評ですね!」

 雪が嬉しそうに言った。

「ああ、よかった。でも、どうしてあんなに驚いていたんだろう?銀貨一枚だぞ?」


 自分でも少し高かったような気がして申し訳ない。

 雪は少し考えるそぶりを見せてから、猫耳をぴくりと動かした。


「この王都の喫茶店とか酒場って、食べ物といえばパンとスープ、あとは肉料理くらいしか置いてないところがほとんどなんです。甘いお菓子を出すのは、貴族街にある高級な菓子店だけ。しかも、すごく高いんです」

「なるほど……」


 俺は膝を打った。日本で言う『カフェ』や『喫茶店』の文化がこの世界にはまだ根付いていないのだ。甘いデザートは特別な場所で食べる高級品という認識。


「フレンチトーストは、身近な材料を使っているのに、あんなに甘くて美味しいし、冒険者さんみたいに、日々の疲れを癒したい若い子たちには、きっと新鮮で魅力的なんですよ!銀貨一枚でも、あの満足感ならきっと安いと思ってくれます!」


 そして翌日。

 カランカランとドアベルが賑やかに鳴り響き、昨日訪れた女の子が、四人の仲間を連れて店に舞い戻ってきた。彼女たちは全員、歳は若く、少し煤けた冒険者装備を身につけている。


「マスター!『とろけるフレンチトースト』ありますか!?昨日言った通り、すごく美味しいからみんな連れてきちゃいました!」


 店内のテーブルはあっという間に若い冒険者たちで埋め尽くされ、ノスタルジアは一転して賑わいを取り戻した。


「ふわふわで、疲れた体に染み渡る……」

「これが銀貨一枚で食べられるなんて、信じられない!」

「明日の朝食もこれにしたいな。甘いものがこんなに気軽に食べられる店、初めて!」


 フレンチトーストは、あっという間に『王都の若い冒険者の間で話題の新作スイーツ』として広がり始めていた。


 翌日もカウンターの中から、楽しそうにフレンチトーストを頬張る若い冒険者たちの様子を眺めていた。こんなに活気が溢れるのは、店を開いて初めてのことだ。


「すごいですね、マスター!本当に大繁盛ですよ!」


 雪は目を輝かせながら、注文の入った紅茶を淹れる準備をしている。猫耳が嬉しそうに揺れていた。


「ああ、まさかフレンチトースト一つでここまでとはな。この世界じゃ、甘いものが本当に貴重なんだな」


 手際よく新しい卵液を作りながら、ふと疑問に思った。


「なあ、雪。この王都には、甘いものを気軽に食べられる店が本当にないのか?パン屋とかでも、甘い菓子パンみたいなものは売ってないのか?」


 雪は、紅茶の茶葉を量る手を止め、少し考え込む仕草をした。


「そうですね…………パン屋には、蜂蜜や木の実を練り込んだ『菓子パン』もあります。でも、ああいうのは生地が固くて、せいぜい遠出する時の携行食くらい。貴族が食べるような『生菓子』は、卵やミルクをたっぷり使うから、どうしても高価になってしまいます」


 雪はカウンターを覗き込み、冒険者たちが空にした皿を指差した。


「でも、マスターのフレンチトーストは違う。パンは柔らかくて、たっぷり甘いのに、銀貨一枚で満腹になれるボリュームもある。冒険者は疲れているから、こういう『疲労回復』になる甘いものは、喉から手が出るほど欲しいんです」

「なるほど、疲労回復か……」


 異世界に来て『回復魔法』なんてものは使えないが、前の世界の食べ物が、この世界では一種の『疲労回復アイテム』として機能しているらしい。


「透さん!またお代わりが入りまーす!」


 一人の冒険者が空の皿を高く掲げた。


「はーい」


 透は再びフライパンにバターを溶かし、フレンチトーストブームの波がこの「ノスタルジア」にも押し寄せていることを実感した。

 しかし、この熱狂が冷めてしまっては困る。どうせなら、このフレンチトーストをノスタルジアの看板メニューとして定着させ、さらに多くの客を呼び込みたい。


「雪、聞きたいんだが、この店でフレンチトースト以外に、甘くて、手軽に作れて、この世界の人が驚くようなメニューはないか?」


 雪はフレンチトーストの残りの材料を眺めながら、腕を組んで思案した。その猫耳が、何か面白いアイデアを待つかのように、時折ぴくりと動く。


「そうですね…………パンを使ったものなら、まだ何か作れるかもしれないです。例えば、パンを薄く切って、バターと砂糖を塗って焼いたようなものはどうでしょう?カリカリして、紅茶にも合いそう……」

「ああ、ラスクみたいなものか。それもいいな」

「あとは…………パンではなくても、卵と砂糖と牛乳で作る、他のお菓子は作れませんか?貴族が食べる生菓子より、もっと手軽に……」


 雪の言葉に、透の頭に一つのメニューがひらめいた。


「パンと卵と牛乳と砂糖……ああ、それなら作れるぞ。パンがない分、材料費も抑えられる」


 透はすぐに、材料の在庫を確認し始めた。


「よし、プリンを作ってみよう」


 俺はすぐに材料の在庫を確認し始めた。プリン。シンプルだが奥深い。卵と牛乳と砂糖、そして水を少し。材料はフレンチトーストとほぼ同じだ。パンがいらない分、原価も手間も抑えられる。

 まずはカラメルだ。砂糖と水を鍋に入れ、火にかける。黄金色から濃い琥珀色に変わるのを集中して見つめる。この世界の砂糖は日本のように精製されていないから、焦げ付きやすい。見事なカラメルができたら、耐熱容器の底に少量ずつ注いだ。

 次に、プリン液。牛乳を温め、砂糖を溶かし、それに溶き卵を混ぜて濾す。

 この「濾す」工程が滑らかさを出す肝だ。


「透さん、何してるんですか?お鍋を二つも使って……」


 カウンター越しに、雪が珍しそうに覗き込んできた。彼女の猫耳が傾いている。


「新しいお菓子だよ。これが成功すれば、フレンチトーストと並ぶ、うちの看板になるかもしれない」

「新しいお菓子……!」


 雪の目が輝く。その好奇心旺盛な反応は、本当に可愛らしい。

 容器にプリン液を注ぎ、蒸し器の代わりにした大鍋に入れ、ゆっくりと加熱する。火加減は極めて繊細だ。日本のプリンのように「す」が入らないように、じっくり、じっくりと。

 小一時間後、蓋を開けると、容器の中の液体がプルンとした固体に変わっていた。粗熱を取り、冷暗所で冷やす。

 翌朝、開店前に、雪と二人で試食することにした。


 皿の上に、冷やしたプリンをひっくり返す。

 プルルン!

 見事な曲線を描いて、茶色いカラメルソースをまとった黄金色の塊が皿に着地した。甘く焦げた匂いが立ち上る。

「これが、プリンだよ。雪、どうぞ」

「わあ……!綺麗!まるで月の光を閉じ込めたみたい……」


 雪はフレンチトーストの時と同じように、目を輝かせながらフォークを取った。猫耳が期待でピンと立っている。

 フォークを入れると、抵抗なくスッと入る。柔らかくも、しっかりとした弾力。

 雪は一口、口に運んだ。

 その瞬間、雪の表情が一瞬止まり、すぐに至福の笑みに変わった。


「っ……なめらか……!舌の上で、溶けてしまいました。卵の味が濃くて、牛乳の優しい甘さがあって……」


 彼女は目を閉じ、味を噛みしめている。


「そして、この底の茶色いところ!ちょっと苦いけど、それがプリンの甘さを引き締めていて、最高に美味しいです!フレンチトーストとは、また違うとろける感覚……!」


 雪の顔がとろけている


「透さん、これは、本当にすごいです。フレンチトーストとはまた違った甘さです!見た目も美しいし、貴族街のお菓子に負けていませんよ!」

「良かったよ」


 雪の、心からの感想に安堵した。


「これをどう出すかだが……フレンチトーストが銀貨一枚だから、これは手間がかかる分、同じ値段でいこう。銀貨一枚で、この『ノスタルジアプリン』を」

 フレンチトーストで客足は掴めた。次は、この『プリン』で、ノスタルジアの評判を王都に確固たるものにする番だ。

 雪はプリンを完食すると、名残惜しそうに皿を眺めた。


「これで、もっといろんな人が喜んでくれます!」

「ああ、そうだな」


 俺は笑って答えた。


 翌日、「ノスタルジア」はいつにも増して賑わっていた。フレンチトーストの熱狂に加えて、「新しい甘いものがあるらしい」という噂が、すでに冒険者たちの間で広がり始めていたのだ。

 フライパンを振りながら、新しい卵液が浸されたパンを忙しく焼き続ける。その横で、雪がカウンターに「ノスタルジアプリン」と書いて、小さな手書きの絵を描いた札を立てた。今日用意できたのは、昨日試作した分を合わせて十個だけだ。


「皆さん!今日から新しいデザート、ノスタルジアプリンも提供します!銀貨一枚!今日の分は限定十個ですよ!」


 雪がそう宣言すると、店内が一瞬静まり、すぐにざわめきが起こった。


「なんだ、ありゃ?」

「フレンチトーストと同じ値段か!マスターの作るもんだ、間違いないだろ!」


 透が皿に乗せたフレンチトーストを差し出すと、前回もいた剣士が、その皿を受け取りながらプリンを指さした。


「マスター、そのプリンも頼む。フレンチトーストがメイン、あれはデザートだ!」


 その注文を皮切りに、プリンは飛ぶように売れていった。フレンチトーストを平らげた後に、追加でプリンを注文する客がほとんどだ。

 二番目にプリンを頼んだ客が、皿を前に、目を輝かせてフォークを入れる。彼も雪と同じように、一口食べてはっと息を飲み、そして至福の表情になった。


「う、美味い…………!なんだこの、とろける感覚は…………!」


 彼の感想を聞きながら、透はプリンがこの世界でも通用することを確信した。

 しかし、数分後。


「マスター、お代わり!」


 プリンを完食した冒険者が、わずか三口ほどで空になった小さな器をカウンターに戻した。


「美味いのは美味いんだが、銀貨一枚にしては、一瞬で終わっちまうな。フレンチトーストは腹に溜まるから、食ったぞ!って感じがするんだが」


 その言葉に、透は「なるほど」と納得した。フレンチトーストは『食事』であり『疲労回復』という実用性がある。対してプリンは、純粋な『喜び』と『驚き』だが、腹を満たすボリュームはない。


「雪、どう思う?」


 透が尋ねると、雪は空の器を片付けながら首を傾げた。


「そうですね…………あのなめらかさを保つには、あのサイズが限界です。でも、冒険者さんたちの言うことも分かります。銀貨一枚は、彼らにとっては今日の食費ですから」

「そうだな。プリンは『満足感』よりも『感動』で勝負するメニューだ。……よし」


 透は次の卵液を漉しながら、小さな決断をした。


「明日からは、プリンの値段を少し下げて、『食後のデザート限定』にしよう。フレンチトーストを頼んでくれた客だけに売るんだ。これで、『一瞬の贅沢』として納得してもらう」


 雪は、透の現実的な判断に、ぱちりと目を瞬かせた後、にっこりと微笑んだ。


「いいですね。そうすれば、フレンチトーストの注文も増えて、両方の看板メニューが活きます!ノスタルジアの『特別なデザート』として定着しますよ!」


 なんだか少しづつ店が軌道に乗り始めて行った。少しづつ固定客も増えてきたことだしこれから忙しくなるだろう。


 次の日、開店するとやはりフレンチトースト目当てのお客が押し寄せてくる。

 あっという間に満席になり、雪と2人がかりで焼き上げていく。


「すみませーん、コーヒーとフレンチトースト2つづつお願いしまーす!」

「はーいただいま!」


 雪の元気な声が店内に響く。


「デザートにプリンいかがですかー、新作ですよ?フレンチトーストのデザート限定です!」


 カウンターに座った若い冒険者たちがざわめいた。


「おお、新作だって!しかも限定かよ!」「デザートってことは、フレンチトースト食った後のお楽しみってわけだな」


 最初に注文した客は、コーヒーカップを置きながら、目を輝かせた。


「限定に弱いんだよなあ、俺たち冒険者は。じゃあ、フレンチトーストが来たら、そのプリンも一つ頼むよ」

「私も!私もお願いします!フレンチトーストの後に、ぜひ!」


 次々とプリンの注文が入り、雪は「ありがとうございます!」と元気よく応じて、手書きの注文票に書き込んでいく。

 透は鉄板の上で卵液を吸ったパンを裏返しながら、その様子を観察していた。昨日の反省を生かした「フレンチトースト注文者への限定販売」という戦略は、見事に客に効いているりプリンをデザートとして頼むことで、客は人気のフレンチトーストを食べれたという満足感と、限定のプリンも食べれたと言う追加の満足が手に入っている。


「マスター!フレンチトースト、あと二枚お願いします!プリンの準備も始めますね!」


 雪が注文を読み上げながら、カウンター下の冷暗所に保管していたプリンを数個取り出す。その手つきはもう慣れたものだ。


「わかった。プリンはまだ冷やしが足りないのがあるから、今日分で売り切れそうになったら教えてくれ。無理に全部出さなくていい」

「はい!ちゃんと確認します!」


 多忙な中でも、雪がテキパキと動き、店の流れをコントロールしていることに改めて感心した。猫耳が微かに揺れ、その表情は真剣そのものだ。


「しかし、すごいな。フレンチトーストが主食になって、プリンがデザート。本当に、この店は『甘いもの特化』のカフェになったぞ」


 透が独り言のようにつぶやくと、雪はプリンの器を拭きながら、顔だけこちらに向けた。


「いいじゃないですか、マスター!『ノスタルジア』は休める店だって、王都中の冒険者に言わせましょう!その方が、他の店と被らなくて、良いと思いますよ?」


 雪の言葉は、透には心地よかった。

 透は再びフライパンにバターを溶かし、追加のフレンチトーストを焼いていく。


「フレンチトースト終了でーす!ごめんなさーい!」


 ……しばらく人気は止みそうにないな

 雪が勢いよく叫ぶと、店内にいた冒険者たちから「えー!」「マジかよ!」といった落胆の声が上がった。数人が慌てて残りのプリンを注文し、列に並んでいた客は残念そうに肩を落とす。


「はい、ごめんなさい!今日のプリンも完売です!また明日、ぜひご来店ください!」


 雪は一瞬で表情を切り替え、完売の張り紙をカウンターに立てかける。その手際の良さには、透も思わず苦笑いだ。


「ほら、マスター!やっぱり甘いもの特化で大正解でした!もう、この『ノスタルジア』の暖かさと甘さは、王都の誰も手放せませんよ!」


 プリンの器を片付け終えた雪は、誇らしげに胸を張った。透はその自信に満ちた笑顔を見て、深く頷く。


「そうだな。まったく、この熱気が冷める気がしない。それじゃあ、雪。そろそろ仕込みの確認だ。明日もまた、この甘い戦いを始めよう」


 透が新しいフライパンを手に取ると、雪はぴしりと敬礼のポーズをとった。


「はい、マスター!ノスタルジア』は、明日もきっと、王都一甘くて、一番休める店になります!」


 カウンターの向こうで、冒険者たちが口々に「明日こそは朝一で!」「絶対プリン食うぞ!」と宣言している。その熱気は、雪がフレンチトースト完売を告げた後も、少しも冷めることなく店内に充満していた。


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