6、お勉強と
そしてその日の夕食。初めて案内されたのはきらびやかな食堂だった。
私の部屋にはない煌びやかな装飾に目が痛くなる。
「勉強……?」
「はい。私は孤児院で何も教えて……あ、掃除と少し料理はできます!けど他は何も出来ることがないんです。なので今後もここにいさせてもらえるなら、いろいろ勉強したいなと思って……」
「そうか……」
目標のためには何をすればいいか考えたとき、そもそも自分が何も知らないことに気づいた。そのため勉強したいことをナタリーに伝えると、ちょうど夕食を一緒に食べることから、直接お父様にお願いしてみてはと言われたのだ。
すると、お父様は申し訳なさそうに顔になった。謝って欲しいとかそんなつもりで言ったわけではなかったので焦ってしまう。
「は、早く、お父様やお兄様みたいになりたいんです!」
「私たちみたいに……?」
「はい!私、家族ができてとても嬉しいんです!だからみんなにお父様とお兄様の家族だと認めてほしくて……!」
「そんなこと気にしなくていい。認めないなんて言う奴は……」
「お父様。ルーナはいろいろなことを知りたいのかもしれません。それにどちらにしても、今後必要になってくるだろうからいいのではありませんか?」
「まぁ、そうなのだが……まだ少しゆっくりしてからでもいいのではと、思っていたからな……」
そう言いながらお父様は私をやるせなさそうに見つめる。断れられてしまうのか。少し焦ってさらに言い募る。
「でも……今も、なんですけど……食事のマナーも教えてほしくて……。私がひどくてお父様たちと食事するのも申し訳なく……このままなら部屋で「わかったすぐに手配しよう。まずはマナーの教師から。少しずつな」
部屋での食事に戻したほうがいいかと思ったことを伝えようとすると食い気味に言われる。
少しポカンとしてお父様を見つめてしまう。
「本当はマナーなど二の次でいいのだが……ルーナに負担をかけたいわけではないからな。だからこれからも一緒に食べよう」
「は、はい……わかりました」
にっこりと優しい顔で笑ったお父様の顔をみると、本当に一緒に食べたいと思っていることが伝わってきて胸が温かくなる。
「あ、あと……魔法の、勉強もしたいです……」
「魔法?」
この際だと思い切ってお願いしてみる。約束の大魔法使いになるために魔法について学びたい。その一心だった。
「まだ先でもいいかと思っていたが……ルーナリアが望むなら。ただ忙しくなると思うがいいのか?」
「はい。たくさん勉強できるならうれしいです」
「それならいいが。無理はするんじゃないぞ」
「はい!」
それからマナーなどの教養の先生と魔法の先生が手配され、勉強がはじまった。
文字は読むことができたけど私は本当にそれだけで、何も知らないことを痛感する。
魔法にしても練習はしていたけれど、まだ基本的なことは何も知らなかった。
孤児院には絶対に帰りたくない。ここにいるためにもしっかり学ばなければ。
(それに、テオ兄にも胸を張って会えるように!)
そしてわかったことと言えば、この国では魔法は主に貴族くらいしか扱えないことや、この目の金冠は気持ち悪いものではないということ。
いままで私が孤児院で受けた扱いを知っているのか、最初に教えてくれた。
「姫様のその瞳はとても美しいです。なんでも王族特有の魔力の関係でそうなるのだとか。ほしくても、いかに魔法を極めても手に入らない、とても尊いものなんですよ」
とはナタリーの言葉。
ただ「気持ち悪い」と刷り込まれて育ってきた私はすぐにその言葉を信じることができず、その概念はなかなか消えることもなかった。
でも『いつも笑っていて』その言葉が頭をよぎり、何事もなかったように笑ってありがとうと言うしかなかった。
そして勉強もマナーも必死に頑張っているとあっという間に時間は経ってしまう。
そうして2年の年月がすぎ、身体はやせ細っていたところからとても健康的になり、身長は10歳にしては小さめだが少し伸びた。肩までしかなかった髪もだいぶ長くなった。
「はい、よろしい。ルーナリア様、ひととおりは合格です。これで人前に出ても大丈夫でしょう」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!!」
「しかしまだ最低限のラインだとお思いください。これからも引き続き指導はさせていただきますよ」
「はい!よろしくお願いします!」
先生にも勉強もマナーも及第点をもらえるようになったころ。
食事のマナーもすっかり様になり、城内での評判もそこそこよくなってきたのではと自分でも思う。
この2年で初めてのことをたくさん経験した。私も知らなかった誕生日をお祝いしてもらい、初めて嬉しくて泣くという経験をした。
また、周りには魔法が当たり前に存在しており、日常生活で目にしない日はなかった。
そしてなぜ私が孤児院にいたのか。今はもう亡くなった側妃のジャネット様の策略だとか。ナスティ先生はジャネット様の手の者だったらしいが、まだ詳しいことは教えてもらえていない。まだ調査中なところもあるそうだが、もっと大きくなったら教えてくれるそうだ。ちなみに私のお母様はその事件の関係で亡くなってしまっているそうだ。
そんなころにお父様がふいに言った。
「ルーナのお披露目もかねてガーデンパーティーでもしようか。友人がほしくはないか?」
「友人……ですか?」
「ああ。友人がいるほうが楽しみもあるかと思ってね」
私もいまだに仲良くしているやつらが、と楽しそうに話しているお父様を横目に思い出されるのは孤児院の子たち。
私にとっては友達と言える人はいなかった。でもみんなはときおり時間が空いた時には一緒に遊んでいた。私は木の陰からその様子を眺めていたけど。
私はいつも肌身離さず身に着けているペンダントをそっと握りしめた。
「テオ兄みたいな……?」
「そ、そうだね。テオ兄……みたいな人ができるといいね……」
「いや、テオ兄は違うんじゃ……」
お父様にお兄様がつっこむ。「いや、テオ兄はルーナの友達だ。決してそんなんじゃない」「……わかってるんじゃないですか……」というお父様とお兄様の会話を聞きつつ、友達ができることが楽しみになった。
テオ兄のことは少しお父様とお兄様にお話ししていた。孤児院で唯一、一緒にいた人で魔法のことも教わったから。テオ兄がどこにいったか調べてくれると言っていたけど、わからなかったようだった。
「私も友人が欲しいです!お父様!」
「わかったよ。詳しくはナタリーと相談してみるといい」
「はい、わかりました!」
ナタリーは伯爵家出身で、王宮の作法にも精通している。ここ2年でとてもお世話になっている。本人曰く、伯爵とは名ばかりで、生活はぎりぎりで没落しそうなんだそうだ。弟妹を養うために城にきたのだとか。
弟妹がいるナタリーには私の扱いも慣れたものだったのか、今では私にとってもお姉様のようなお母様のような存在になっている。私になんら遠慮することなく怒るときは怒る。とても怖い。
「ナタリー、私のお披露目会をするんですって。ナタリーと相談しなさいってお父様が……」
「はい、伺っております。まあもうだいたいは決まっているのですが……」
私が決めるのはテーブルクロスの色合いだとかテーブルに飾るお花の種類だとかお菓子らしい。
ナタリーがいろいろとアドバイスしてくれてスムーズに決めることができた。
そして私はわくわくとしながらお披露目会を迎えるのだった──
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