68、ずっとあなたの隣に
最終話です!
そして婚約してから2年ほどたった。
今日、私たちは結婚する──
この2年で学園も無事卒業できた。
最後まで首席をとり続けることができたが、レイが手を抜いていることの疑いはそのまま。
複雑ながらもその話をしようとするといつも違う話に持っていかれ、それでもと話を戻そうとすると口をふさがれるのだ。レイの唇によって。
「んっ……」
突然のことに驚く間もないまま何度も角度を変え、キスは深くなっていく。身体に力が入らなくなってレイにもたれかかってしまう。
やがて唇が離れ、熱を帯びたふたつの青色の瞳に見下ろされる。私は息をするのも忘れ、レイから目を逸らせなくなる。
「……好きだよ、ルーナ」
耳に触れて、とろけるようなキスを繰り返しながらそんなことを囁く。誤魔化されているのはわかっていても私も気持ちを伝えたくて。
「私も……レイが、好き。大好きよ」
「ルーナっ……!」
この日常も当たり前ではないから、私も気持ちは積極的に言葉にしようと決めていた。
でもそんなことをするとなかなか終わりも見えなくて、毎回こんな感じになってしまう。思い返すと甘すぎる!と叫びだしたくもなるし、恥ずかしい時もあるけれど、満ち足りた日々だった。
デートもたくさんした。いつもとても美味しいスイーツがあるお店に連れて行ってくれるし、今まで円がなかった観劇にも行った。レイは公爵の仕事でも忙しいはずなのに、結婚するまでは護衛騎士も続けるという。そんな合間にいろいろ調べてもくれているそうで。
さすがにいつ寝ているのか心配になったが、もともとアンドリュー様も領地経営のほうは家令に丸投げしていたようだ。必要なことの確認とかはもちろんしているが、本格的なことは学園を卒業してからとなったそうだ。
レイは約束通り、今まで以上に私のそばにいてくれた。社交界では、婚約者になってからのレイの私に対する溺愛ぶりがとても話題になっているそう。
また、お兄様も無事フェリシアを捕まえることができ、来年挙式予定だ。お兄様の溺愛ぶりもすごいが、フェリシアにかかりきりではなく、有能ぶりにさらに拍車がかかったようで国の未来は安泰だと言われているとか。
ときにはナタリーやフェリシアに、いちゃつきすぎだと苦言を呈されるけど。内心フェリシアも変わらないのではとも思うが、口には出さなかった。
そして一方では、大魔法使いになるという夢をかなえるために勉強も変わらず頑張っていた。
テオ兄との約束がきっかけだけれど、いつしか私の本当の夢になっていたから。
失敗してあまり爆発はしなくなったものの、うまくいかないことも多いけれど。
黒の魔女の封印されていたあの地下で私の魔力を奪おうとしていた魔法陣について研究もした。
少しずつわかってきたこともあるけれど、やっぱりこれは私が死んで意味のある物だったようで。テオドール殿下の推測が当たっているのではないかと思う。
その研究を続け、数年後には他の人の魔力をその人の魔力として使えるようにする魔法陣を作り出すことになる。
魔力があるだけで魔法が使えない人たちの生活水準の向上にも寄与し、大魔法使いの称号を与えられることを、このときの私はまだ知らない。
こんな楽しくも甘い日々を積み重ね──
◇◇◇◇
そして今、一通りの準備を終えて挙式の時間まで控え室にいるのだが。
「うっ……うう……」
「とても……とても緊張するわ」
「あの姫様が……う、ぐす……やっと、この日を迎えられました……」
「ちゃんとうまくできるかしら……」
ぐすぐすと子供のように泣き続けるナタリーには申し訳ないが、緊張してそれでころではない。とりあずハンカチは先ほど渡したから、それで許してもらおうと思う。
それでも鼻をかみながら「あんなにお転婆で、なんにでも首を突っ込んで、真っ黒こげになっていた、あの姫様が……」と言っているが、気にしない。
そのとき、ノックの音が響き、どうぞというとレイが顔をだした。
「ルーナ、準備は……」
レイは私をみて動きを止めた。レイ?と呼びかけるとハッとした様子で私をみつめる。頬が少し赤くなり、眩しそうに目を眇め、幸せそうに微笑んだ。それだけで、胸の鼓動が痛いくらいに高鳴る。
「ルーナ、すごく……すごく綺麗だ」
「ありがとう。レイも、その……とても格好良いわ……」
「やっと……やっと、この日を迎えることができた」
格好良すぎて直視できないくらいに眩しいレイは、少し泣きそうになっているようにも見える。
私ももらい泣きしてしまうのではないかと思った時、そっと手を差し出される。
「ルーナ……俺を好きになってくれて……そばにいてくれて、ありがとう」
「……こちらこそ。これからもずっと、一緒にいてね?」
「もちろん。嫌がっても離れないから、覚悟して」
白い手袋が眩しくみえる。私はその手の上に自らの手を重ねた。
式は粛々と進んでいく。
司祭の話に耳を傾け、言葉での誓約を交わした後は誓いの口付けを促された。
レイは迷うことなくベールを持ち上げ、私の肩に触れた。
そして唇と唇がしっとり重なった。一度離れたかと思うともう一度。さすがにもう終わりだろうと思ったら、最後に名残惜しげに口付けられた。
「これにて、婚姻の儀が執り行われましたことを宣言します」
少し呆れたような司祭様の声が響くと、歓声と祝福の声、そして割れんばかりの拍手が送られた。
参列席を振り返ると、「私の、私のルーナが……うっぐすっ」「いつの間に大きくなって……うっ」とお父様とお兄様が号泣していた。2人とも自分の立場をわかっているから、普段は人前で威厳に満ちた顔しか見せないのに、と少しおかしくて笑ってしまう。
ゆっくりと大聖堂の外に出ると、明るい日差しが私たちに降り注ぐ。
大聖堂の鐘が、ここぞとばかりに、盛大に祝福の音を奏で始めた。
そのとき、空から白い羽が落ちてきたことに気づいて空を見上げると、雲一つない青空の中、赤い目をした白い鳩が一羽、飛んでいくのが見える。
(ありがとう……)
「……どうした?」
空を見つめていた私の様子に気づいたレイに尋ねられたが、私は首を横に振った。
「ううん、何でもないわ」
それ以上は何も言わずに、私の目にうっすら浮かんでいた涙を指先でそっと拭って、彼に笑顔を向ける。
──最初は私は魔力があるから。レイは魔力がないから。
真逆のことで疎まれていた私たちは同じような傷を抱えていた。
お互いの気持ちがよくわかるということがきっかけなのかもしれないけれど、お互いがお互いを必要としていた。
愛されることには慣れていない私たちは、いろいろなことがあったけれど、今では2人ともちゃんと自分の居場所を手に入れることができた。
これからも困難に直面する場面もあるだろうけど、一緒に乗り越えて人生を歩んでいける。
そう改めて思い、隣にいる自分の旦那様になったレイを見つめた。そして大好きな彼と結婚出来たことをじわじわと実感する。彼と結婚できて良かったと一人胸を押さえる。
遠くで「ルーナー!!やっぱり!帰っておいでー!」「まだルーナには結婚は早かったかもしれない!そうに決まってる!」「……もういい加減にして下さい!」など最後には珍しくフェリシアの叫び声も聞こえてくる。
「ふふっ──旦那様、どうぞ末永くよろしくね」
「──っ!……こちらこそ、奥様。それじゃあ……行こうか、ルーナ」
「ええ!」
差し出された手をぎゅっと握った。
もう私もレイも、ひとりじゃない。
騒がしくて愛しいこの日々が、ずっと続きますように──
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました!
ブックマークや感想もいただきありがとうございます!
1月で終わらせるはずが少し伸びてしまいましたが、これにて終わりです!
ありがとうございました!
よければ評価・感想など頂けましたらとっても嬉しいです……!
どうぞよろしくお願いします!




