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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
最終章

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62、伝えたかった想い

 


 誰かがぎゅっと私を抱きしめる。とても安心する腕の中で、そのぬくもりに浸っていると、頬になにか冷たいものがぽたっと落ちてきた。


 何だろうと思ったら、くぐもったような感じがするが、聞き慣れている声が聞こえてきた。しかしそれが震えていることにも気づいた。


(誰か、泣いている……?)


 何を言っているか聞き取れないが、何かあったのか。


(泣かないで……)


 言葉は聞き取れなくても、私まで悲しくなってきて。

 そう声をかけたいが、その声もでない。

 慰めてあげたいが体も動かず、目を開けることさえもできない。


 自分の状況が分からず不思議に思いながらも、頑張って起きようとしていたところで、唇にぬくもりを感じた。


 重なった唇から温かさが全身に伝わってくる。

 ほんの少し体が軽くなったけど、まだ体はだるい。

 先ほどまで全く動かなかった体が、少しは動くようになったと直感的に思った。


 そっと目を開けると、顔がくしゃりと歪んで涙に濡れて真っ赤な目をしたレイが至近距離にいた。



「……レイの、そんな顔……初めて見たわ……」



 ひどく弱々しい自分の声に驚くも、レイも驚いたのか丸くなった目と目があった。

 驚きのあまりか、涙もピタッと止まっている。

 涙を拭ってあげたいと思い、いつもより重く感じる手をゆっくりと持ち上げて頬にそっと触れた。



「……ルーナ……?」

「レイ……泣かないで……どうしたの?大丈夫……?」



 レイが泣くなんてよっぽどのことがあったのか。もしや体のどこか痛いのだろうか。

 レイは固まってしまい、まるで信じられないものを見るように、その綺麗な青色の瞳を涙で濡らしたまま私を見つめている。


 心配になりながらも、次第に意識がはっきりしてきたところで、全く見覚えのないところに私たちがいるのが分かった。



(というか、私はなんでこんなところに……)


 ここはどこなのかと、混乱し始めたとき。



「──っルーナ!!よかった……!!生きてっ……!」



 レイは再びきつく私を抱きしめた。背中に回された腕も身体も小さく震えていて、胸が締め付けられる。


 私が何か心配をかけたのか、と感じたところで、だんだんと自分が意識を失う前のことを思い出してくる。

 レイの優しい体温や大好きな匂いに包まれ、じわじわと視界がぼやけていく。


(そっか、私……)


「レイ、助けに来てくれて、ありがとう……大好きよ」



 その言葉にレイは一瞬固まる。

 しかし私は言葉にしたことで満足して、思っていたことを伝えることにする。



「私ね……もう駄目かもって思ったとき……レイに会いたいって、ただそれだけ思ったの。次があるなんて、絶対なんてないって、わかっていたのに……レイに謝って、好きって、伝えたかったって……」



 一度言ってしまえば、意識を失う前にした後悔がどんどん言葉になって溢れ出してくる。

 そして目からも堪えきれなくなった涙が溢れてきた。


 抱きしめられているせいで顔は見えないが、抱きしめてくれているぬくもりと、服越しに少し早い心音が伝わってきて、生きていることを実感する。

 我慢できないくらいに心の中が『好き』で溢れていく。


 嬉しくて、愛しくて、レイの背中に、まだ重く感じる手をそっと伸ばしてみる。

 触れた背中が一瞬ビクリと震えて、背中に回されていた腕に力が込められる。



「それは……弟として……?」



 そしてしばらくして。絞り出したような低く擦れた声で、恐る恐る確認してくる。

 そんなレイを可愛いと、愛おしいと思ってしまう。

 


「一人の男性として、好き。レイ、いつもそばにいてくれて、あり──っ」



 伝えることができた、と思った矢先、言葉の途中で後頭部を掴まれたかと思うと、視界がぶれた。


 そして気づけばレイに唇を塞がれていた。突然のことに驚く間もなく、何度も角度を変え、それは深くなっていく。



「……はっ、ん……」



 驚いたものの、まったく嫌ではなく。むしろ──


 しかし息継ぎの仕方が分からず、呼吸が苦しくなったタイミングで解放された。息を整えている合間にも、至近距離で熱のこもった青い瞳と視線が絡んだ。



「ルーナ……愛してる」



 レイは蕩けるように嬉しそうに笑うと、私の唇に包み込むような甘い口付けをした。

 そしてレイは最後に涙の滲む私の目元を指先でそっと拭うと、柔らかく微笑んだ。




 その後。今の状況を思い出した私は、まるでごっそり血がなくなって、重度の貧血にでもなったみたいな状態からまだ回復せず、あまり手にも足にも力が入らないことをレイに伝えた。


 レイは私を横抱きにして立ち上がり、ゆっくりと私の魔力でできたと思われる魔石に向かって歩きだした。



「ここがどこだかは……正直わからない。……実は、ルーナに転移魔法の印をつけておいたんだ……それでここまでは来れたんだが……すまない」



 レイは少し罰が悪そうな顔をする。

 しかし今回はそのおかげで助かったのだし、それに──



「レイが私のためにしてくれたことでしょう?そもそも、レイが私にどんなことをしても、嫌だとは思わないわ」

「……そんなこと、軽く言わないでくれ」

「軽くなんて……本当のこと──んっ」



 素直に思ったことを言っただけなのに。そんなことを言われて、少しむっとして言い返そうとしたとことで、また唇をふさがれた。

 しかし今回はチュッという音と共にすぐに離れていった。



「な、何……」

「……我慢できなくなるから、そういうことは、言わないでくれ」



 少しいじけたように、そっぽを向きながら言われる。その顔は真っ赤に染まっていた。

 さっきまでもっとすごい口づけをしていたのに、と少しおかしく思いつつも、私にまでその熱が移ってしまったのか。私も顔が火照っていることを感じながらも、コクコクと頷くしかなかった。


 今日はレイの今まで見たことがない表情ばかり見るな、と思ったことは口には出さなかった。




 




読んでいただきありがとうございます!


本当は今月中に終わらせる予定だったのですが、あと少し続きます。

今週中には終わりますが、お付き合いいただければ嬉しいです…!!

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