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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
最終章

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61、俺の生きる意味

レイモンド視点です




「もうっ!いきなりびっくりするじゃない。か弱い乙女に切りかかるなんて、礼儀がなっていないのねぇ」



 そんなことをちっとも驚いていない声で言われて、さらにいらだちが募る。



「……お前だけは、絶対に許さない」

「ふん、あなたに許される必要などないわ」



 黒の魔女は軽く鼻を鳴らすと、こちらに向けて扇子をかざした。


 何回切り掛かっても手応えがなく、持っていた扇子でいなされ、時折魔法で反撃してくる。

 扇子は鉄扇なのか魔力をまとっているのか、または両方か。

 足元に魔法陣を展開して、魔力を放出させ加速すると、早い速度で攻撃を重ねた。


 殺す気しかない捨て身の渾身の攻撃を無我夢中で繰り出していると次第に黒の魔女を押しているのがわかる。



「くっ……さすが、あのドラゴンを倒しただけは!あるわね」



 そう言って俺にも反撃してくるが、魔力を纏った剣で一振りするとその場で魔法は消し飛ぶ。


 異常に勘が冴え渡っている。


 今ならなんでも出来る気がする。というよりも何がどうなってもいいから加減も何もしなくていいからということか。もうすでに手遅れだから。

 こんな力、こいつを殺す以外で生かすところなんてない。正直こいつを殺せるならもう自分はどうなったっていい。



「──っは!しょうがないわねっ!早速王女様の魔力でも借りちゃおうかしら!」



 しばらく攻防が続いたが、あとがないと悟ったらしい黒の魔女はなにやら魔石にむけて扇子を構えた。


(お前如きがルーナの魔力を使えるはずないだろう。使わせるものか!)


 おそらく俺を動揺なりさせるために言ったのだろうが、逆効果でしかない。


 攻撃の手を緩めず、むしろ強める。


 ちょうどそのタイミングでぶわっとあたりが魔力で溢れた。その隙をついて俺を思い切り押し返した黒の魔女は、俺と大きく距離をとった。


 この俺を包み込んでくれる、あたたかくて、優しい気配がする魔力は。

 間違いなく、ルーナのものだとわかる。



「ふふっこれで……え、嘘、嘘でしょう?ぎゃーーー!!!!」

 


 何が起きたのかわからないが、自分で解放しておいて被害を受けているのか。

 なんとも不思議なことだが、黒の魔女の顔が苦痛に歪められ、断末魔が響き渡る。


 ルーナの魔力で俺にできたかすり傷などは消えている。


(こんな俺の傷は、どうでもいいから……)


 こんなときでも自分のことよりも周りのことを優先するルーナを思い出し、泣きそうになる。



「なぜ……たしかに上書きしたのに……上書きしたからあの女が死んでも形を保っているはず……こんな……こんなはずは……」



 黒の魔女はまだ何かブツブツと言っているが、この機会を無駄にするわけにはいかない。

 地面を蹴り、剣と魔法を組み合わせて鋭く早い攻撃を放つ。



「ぎぃやぁぁぁぁ!!!」



 そこでできた一瞬の隙に首を刎ねた。


 ゴドっという音と共に、体と分断された頭は地面に落ちた。

 するとまるで砂が崩れていくように、どんどんとチリになり骨になったと思ったら、それも消えて最後には何も残らなかった。


 しかし俺はそれを見ても何も思わなかった。ルーナがもういないと思っただけで、世界は色を失った。


 重い足取りでルーナを横たえた場所に戻り、眠っているようにしか見えないルーナを掻き抱く。冷たい床に置いてしまったからか、ルーナの体は冷え切っていて。いつもは血色の良い頬も唇も、今は色がない。



「ルーナ、ごめん、ごめん……俺が不甲斐ないばっかりに……ルーナを危険な目に、遭わせて……もう、あいつは、倒したから……帰ろう……?」



 声をかけても、もちろんルーナが反応を返してくれることもない。



「……ルーナ……駄目だ、何の意味も……死なないでルーナ……ルーナ、起きて……お願いだ……」



 気づけば目からは涙が溢れ出していた。物心ついてから泣いた記憶なんてない。涙の止め方なんて、わからない。

 文にならない言葉も涙と共に溢れ出す。


 あんなに訓練を頑張って、ドラゴンも倒して、英雄だか何だか言われても。

 ルーナがいないなら何の意味もない。

 肝心なときにそばにいれず、何もできなかった俺は一体なんなのか。

 今までのことすべてが無意味に思えた。


 ルーナと最後に話した時のことを思い出す。

 「許さない」なんてあんなことを言うつもりなんてなかった。


 でも、あの時は暗くドロドロした感情が溢れ出るのを止められなくて、思わず口にしてしまった。

 まさかあれが、最期の会話になるなんて、夢にも思わなかった。


 後悔があとからあとからでてきて止まらない。


 すぐに反乱を終わらせて、帰って。

 そうしたら、本当の婚約者にしてほしいって。

 ルーナは俺の全てなんだって。

 また気持ちを伝えるつもりだったのに。


『レイ!』──もうその声で、俺を呼んでくれることはないのか。


 ルーナが俺の元からいなくなるくらいなら、生きている意味もないんだ──


 俺もすぐに追いかけるから。

 一人にはさせない。ずっとそばにいるから。


 でもせめてルーナを城に届けてから──


 もう涙でルーナの顔もよく見えないけど。

 ぼやけた視界の中、寝ているようにしか見えないルーナにそっと口付けた。


 



 

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