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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
最終章

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60、ただ思うのは



 次の瞬間、全身が鉛になったかのようにガクンっと重たくなり、起き上がっていたところから再び倒れ込んでしまった。



「……っう……」



 苦しくなってうずくまった私を見て、黒の魔女は可笑しいと言わんばかりに高笑いをする。



「あなたのいる大きな台座自体が魔法陣になっていて、あなたがここにきた時点でもう儀式は始まっていたのよ。ここに来た時点であなたの負けね」



 この空間を埋め尽くす澱んだ魔力により、魔法陣の気配に気付けなかったのだろう。


 このままでは私の魔力は奪われてしまうと焦燥感が込み上げてくる。



「ぐっ……」



 全身から一気に魔力を吸い上げられる感覚と激痛に耐えきれず、意識が飛びそうになる。


 黒の魔女はその横にある台座に、おそらく私の魔力でできた魔石をみて目を輝かせている。

 その魔石はどんどん大きくなっていき、それに比例して私の魔力が吸い上げられているのがわかる。



 それに伴い、だんだんと頭がぼんやりとして、何が何だかよく分からなくなってくる。視界もぐらぐらと揺れている。


 これはまずい。まずいことはわかる。


 それでももう手にも足にも力が入らなくて。

 体を動かすことさえできない。


『大丈夫よ。私ももう、簡単にやられるほどやわではないわ』

『でもルーナ、あなた魔法だけでしょう?魔法が封じられたら危ないわ』

『俺がいるから大丈夫です。ルーナは必ず守ります』


 いつかの会話を思い出す。


(本当に、フェリシアの言った通りだわ……)


 あんなに、大魔法使いになるために頑張ってきたのに。実際に魔力を封じられると、ただただ無力だった。


 そして思ったのは、レイのことで。

 ずっと気にかかっていた。

 次に会ったらあんなことを言ってごめんねって。

 あんなこと本当は思ってないって言って謝って。

 大好きだよって伝えたかった。


 わかっていたのに。

 次に会えたらの「次」が必ず来るとは限らないって。

 一緒にいられる時間が当たり前ではないって。

 あの日々はかけがえのないものだってわかっていたのに。自分の甘さが嫌になる。


 心の中で自己嫌悪ばかりが募り、後悔が止まらない。

 今そんなことを考えている場合じゃないこともわかるのに、そればかりで頭がいっぱいになる。


(レイ、助けて……)


 助けを求めるのに思い浮かぶのも、やっぱり彼で。

 自分がレイにとても甘えていたことを実感する。

 叫びたいのに、声が出ない。

 だんだんと瞼も重くなってくる。


(最後に、レイに会いたかったな……)


 そう思ったとき、これ以上抗えずに目を閉じてしまった。


 一瞬意識が途絶えそうになると同時に、聞こえてきたのは聞き間違えるはずのない彼の声だった。



「ルーナ!!!!!」



 ずっと聞きたかったその声が、焦ったように私の名前を大声で呼ぶ。



 レイは一瞬で尋常じゃない量の魔力を放出し、剣を手にした彼はおそらく私が寝ている石造りの床の一部を破壊した。


 すると、ほんの少し息がしやすく、体が軽くなった。


(レイが、来てくれた……)


 あんな風に別れてしまったのに、来てくれたことが嬉しくて。もう大丈夫だと、会えたことでホッと安堵した途端、意識が遠のいていく。


 最後に見えたのは、泣き出しそうな顔をしたレイだった。




◇◇◇




「──っ!ルーナ!!!」



 ルーナからもらった魔石のピアスが砕けたことを理解するのと同時に転移魔法を展開する。


 魔力の欠片が消えたということは、ルーナに何かあったということに他ならない。


 転移魔法とは印をつけたところに一回だけだが行くことができるというものだ。


 ルーナが学園の演習の時に寝込んだとき、黒の魔女の目的が彼女だとわかったのでつけさせてもらった。寝ている間に申し訳なくも思ったが、彼女に何かあれば生きていけない。

 一応このことはナタリーにも言ってある。肩の裏辺りに小さいがつけたので、体を洗う時などにばれてしまうから。


 ナタリーには事情も伝えると「まあ、仕方ないですかね……」と、とても不服そうな顔で言われた。


 事情を聞いた騎士は驚愕の表情で俺を見た。



「俺は王女のところに転移する。だから……」



 国王陛下と王太子に伝えてほしい。その言葉の途中で視界ががらりと変わった。

 薄暗くて目が慣れるのに時間がかかったが、すぐにルーナが倒れていることと、ルーナの下にある魔法陣が光っていることで発動していることが分かった。


 思わず彼女の名前を叫び、何かしら彼女に作用しているのだろうとすぐに魔法陣の一部を破壊した。

 

 そしてすぐに駆け寄るも、もうすでに彼女は目を閉じていて意識がなかった。



「あらぁ、あなただったの。転移まで仕込んでいたのねぇ」



 その声に振り返ると黒の魔女が立っていた。そしてその傍らには空色の魔女の背丈ほどある大きな魔石があった。そしてその中心には金色の光が輝いている。その魔石の光で周囲を確認できるくらいには明るかった。


 一目でルーナの魔力石だということがわかる。その気配はずっと身に着けていたものと同じで。そして魔力と生命力は表裏一体。


 こんなに放出してしまったということは──


 恐ろしい可能性に思い至り、咄嗟にルーナの呼吸を確認する。


 呼吸を、していない──?



「でももう、私の用事は済んだから、好きにするといいわ」



 でもこんなに大きいとは思わなかったから、どうしようかしら、と上機嫌でそんなことを言っている黒の魔女の声がどこか遠くに聞こえる。


 ルーナが、俺のそばからいなくなる……?

 ルーナが俺の知らないところへ行ってしまったのだと理解し、ふつふつと怒りがこみ上げてくる。



「お前が、ルーナを……」



 自分でも驚くほど低い声が出た。

 湧き上がる怒りを押さえきれなかった。


 怒りで目の前が真っ赤に染まったかと思った瞬間、俺とルーナの周りに強風が吹き荒れる。

 目で見ることができるほど、魔力が体から溢れていくのがわかる。

 感情が昂り、制御できない。


 頭の片隅では、ルーナがいないならどうなっても構わない、と冷静に思っている自分もいる。



「ルーナに一体、何をした!!!」



 気づけば剣を抜き、黒の魔女に切り掛かっていた。



 








読んでいただきありがとうございます!

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