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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第一章

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4、急展開



 それからは、やっぱりいじめられることも多かったし、私の分のご飯は他の人に奪われたりして、1日1食食べれればいいほうになってしまった。

 それでもなんとかテオ兄との約束を胸に耐えていた。


 みんなが寝静まった夜中にこそっと抜け出して魔法の練習も欠かさずにしていた。


 テオ兄がいなくなって少し経ったころ。

 テオ兄がいないと1日が過ぎるのがとても遅く感じる。


 その日割り当てられたのは洗濯だった。なんだか一気に寒くなったと感じる季節。

 かじかむ手を吐く息で温めながら、井戸から水を引っ張って運ぼうとしていたとき。


 おっと!という声が聞こえてきたかと思ったら思い切り突き飛ばされた。

 井戸のへりに頭をぶつけて、ちょうど持っていたバケツに入った水も一緒に倒れ、頭から水を被ってしまう。



「うわーびしょ濡れじゃねぇか。泥もついてきったねぇ」

「まぁ、お似合いだがな」



 いつも私に暴力をふるったり、私のご飯を奪っていく人たちだった。この人たちはいつも暴力的だから誰も逆らえないようだった。


 井戸の周りは昨日の雨でぬかるんでおり、私が尻餅をついたところからじわりと泥水が染みてくることがわかる。


 ぶつけたところもずきずきと痛む。涙が込み上げるところをぐっと我慢して、きっと睨み返したところでナスティ先生が通りかかった。


 ナスティ先生は私が魔力を発現させる前からひどく冷めた目で私を見てくる人だった。基本は無視するだけで特に害はなかったけど。それでも不思議なことに1日に何回かは見かける。


 私を見たナスティ先生は嫌なものでも見たと言わんばかりの顔で冷たく言い放つ。



「…...ここではやめてちょうだい。そんな汚いものを目に映したくもないわ。もっと人がいないところで……」



 ナスティ先生の言葉の途中で孤児院の表の方からガチャガチャドタドタという喧騒が聞こえてきた。


 先生も不思議そうな顔で表に向かおうとしたところで絵本で見た騎士のような格好をした人たちが雪崩れ込んできた。



「な!なぜこんなところに王宮の騎士が!」

「いたぞ!捕縛しろ!」

「なにをするのよ!?私にこんなことをしてただで済むと思っているの!?」



 騎士と思われる人たちは先生を捕縛した。他の先生も捕まったのかもしれない。


 自分がびしょ濡れの泥まみれということも忘れて、驚きのあまり目を見開いてその光景を眺める。


 すると次の瞬間、マントを羽織っている騎士と目があった。


 私を見た騎士はずぶ濡れの私を助けてくれようとしたのか、近くにあったタオルをもって近づいてきた。



「大丈夫か?こんな寒空の下そんなに濡れて……風邪をひいてしまう」

「……」



 そう言いながら頭にタオルを被せてごしごし拭いてくれた。ぶつけたところがたんこぶになっているのか少し痛かったけど、優しく拭いてくれた。


 少しして一通り終わったのか、私の様子を見るために顔を覗き込んできた騎士は私の顔をマジマジとみて目を見開いた。

 そしてしばらく動かなくなってしまった。


 困惑している間にも、先生と先ほど私をいじめていた子たちは連れて行かれたのかいなくなっている。



「……ちょっと、抱き上げてもいいかな?」

「……え?あ、はい……いや、でも私汚れてるから汚れちゃう……」

「それはかまわない。失礼」

「きゃっ」



 軽々と私を抱き上げたその人は別のタオルで私をくるみなおすと、孤児院の正面のほうまで歩いて行った。その間にも、バタバタと騎士が動き回っている。

 

 そこには、先生やシスターが集められている。ナスティ先生もいたが、ナスティ先生だけ猿轡がつけられている。


 一体、何が起きたのか。よくわからない。けれどこの人は私のことを殴らないと思う。そんな安心感を覚えた。


 そう思った途端、なんだか頭がぼーっとしてくる。



「陛下!いらっしゃいました!しかしずぶ濡れで……」



 すぐ近くで聞こえる声も頭に響いて反響している。まるで水の中にいるみたいだった。

 騎士に運ばれてきたところには、見たことがないほど豪華な馬車があった。


 ゆっくり顔をあげて確認すると、目の前にはとてもびっくりするほど顔が整った綺麗な男の人がいて、私を騎士からそっと受け取った。


 何か既視感がある。そう思ったときに、その男の人が私に言った。



「やっと、見つけた……遅くなって、すまない……」



 泣きそうな顔をした男の人が、私を抱きしめた。

 私は汚れているから離れたほうが、なんて言える雰囲気ではないことを感じ取った。

 そして抱きしめられた理由はわからないけど、不思議なことにひどく安心する。

 


(私も、ここから出ることができるかもしれない)



 私はほっと胸を撫で下ろし、安堵から脱力した途端、ひどい頭痛が襲ってきた。

 視界がぐにゃりと歪む。寒気がして自分の身体を両手で抱きしめるも、震えが止まらない。



 早く、またテオ兄に会えるといいな──



 そう思いながら私は意識を手放した。



 



読んでいただきありがとうございます!

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