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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第三章

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38、知られたくなかったこと



 診察も終わり、やはり体には異常はないとのことだった。そのあといくつか質問をされて答えるも、医者は難しい顔をしたが、それ以上は何も言わなかった。


 私はひとまず、みんなが変な顔をしていたので入浴したい旨を伝えた。


 寝起きだからかあまり気力もなく、入浴も手伝ってもらい身体もあったまってほっとしたところで、食事が用意されていた。3日も何も食べていないはずなのにお腹がすいていない。


 前はあんなにすいていたのに。そう思いながらスプーンを持つも、一向に手が動かない。

 

 自分の手なのにと不思議に思いながら、スプーンを持った手を眺めてしまう。


 しばらくその状態が続いたが、どうしても食べる気になれなくて諦めた。下げてもらおうとナタリーをみると、また眉間にしわを寄せて涙目になっている。

 入浴も終わり顔も洗ったのに、まだ何か変なところがあるのか。



「あの、ナタリー……」

「……姫様、失礼します」

「え?……んぐっ!」



 声をかけると何かを決意したような顔になったナタリーは、私が持っていたスプーンでスープをすくったかと思うと、私の口につっこんだ。スープが体に入ってくるが不思議なことに味がしない。いろいろなことに驚いたが、そんな中むせなかったのは奇跡だと思う。


 そのあとも味のしないものを呑み込むたびにナタリーに抗議しようとするも、私の抵抗を交わしてどうやってか無理やりにでも口に入れてくる。気づけば最後の一口になっていたようでやっとこの苦行が終わった。

 もう口に突っ込まれることはなさそうだとほっとする。



「……ナタリー」

「……姫様への無礼は重々承知しております。罰も受けます。のちほど国王陛下にも、私が自分で報告いたします。姫様はひとまず横になってください」



 ナタリーを罰する気なんてさらさらない。むしろ罰を受けるべきは──


 だが口に出す前に、問答無用でベッドに寝かされて布団をかけられた。眠くはないのに。



「何かご入りようのものはありますか?」

「……ないわ」

「では食事を下げてきますので、ごゆっくりなさっていてください」

「わかったわ……」



 部屋に一人になるも眠気も来ない。ふと外を見ると天気がいい。バルコニーにでて風でもあびようか。

 そっとベッドを下りてバルコニーへ向かい、ガラスのドアを開けると、涼しい風が入ってくる。


 遠くを眺めると城下の街並みが見える。それでも以前みたときよりは色褪せて見えた。何が違うのか。


 ああ、そうか。私は──



 そのとき人が話している声が聞こえた。どこから聞こえるのか。

 声のほうに近づくと1つ下の階の窓が開いていた。そこから声が聞こえてきたようで。


 普段は気にならないのに。盗み聞きなんていけないことだと分ってはいるのに。

 なぜか気になった私は風魔法で音を拾ってみた。

 するとお父様とテオドール殿下の声が聞こえた。



「……なぜ、黒の魔女はルーナリアを狙うのだ」

「私も詳しくはわかりません。ただ、シュルークの王族に受け継がれる魔法が目的なのではないかと」

「それは知っている者はこの国でもごく僅かなのだが……」


(私のことを、話しているの……?)


「私の兄であるテオバルトは……ひとまずルーナリア様を保護しようとしましたが、まだ10歳ということもあり、敵うはずもなく……」

「……そうか。テオドール殿下がテオ兄なのかと思っていたが、違ったのか。……テオバルト王子のおかげで、ルーナリアは……深く、感謝する」

「あ、頭を上げてください………!!」

「国王陛下、お礼はまた後程。それよりも今はルーナリア様のことが……」

「ああ……さきほど会ったとき、様子がおかしかったな……」

「まだ確認できているわけではないので、推測なのですが……」



 レイの声も聞こえてたので3人で話しているのか。

 まだ3人の会話は続いていたが、それよりも。



 知られた。知られてしまった──



 今まで「テオ兄ならどうするか」と考えて行動して。

 『笑っていて』その言葉でずっと笑顔でいることを心掛けて。

 テオ兄をいつも思いうかべて行動したら、いままでは全てがうまくいっていたと思う。


 約束の大魔法使いになることを目標に、少しでも早くテオ兄に近づけるように。

 見つけてもらえるように。

 そう思って一生懸命、勉強した。

 自分の体のことなんて、どうでもよかった。

 テオ兄に近づけるならなんだって。



 それでもきっと間違ったのは──



 テオドール殿下とは、少し距離を置こうとした。

 テオ兄にそっくりな彼を見るたびに、どうしても思い出してしまうから。


 それでも気になって目で追ってしまっていた。

 何か困っていると力になってあげたいと思った。

 だから演習のグループ分けのときも声をかけた。


 一度、話をしなければならないと、思ってはいたのに。

 怖くて、話しを聞くことから逃げていた。

 

 テオ兄がもういないのだと、突き付けられたくなくて。

 テオドール殿下と話をすると、私の記憶は思い出にかわる、そんな予感がして。


 テオ兄に近づくどころか、どんどん遠くなっていく。

 そんなことには耐えられない。



 それでも──


 いつもつけているペンダントを、ぎゅっと握りしめる。

 

 テオ兄がもう亡くなっていることを、知られてしまった。

 もうここにはいられない。いたくない。


 必要最低限だと思うものを咄嗟にバックにつめた。

 唯一クローゼットにあった、街でも浮かなさそうな服に着替えて誰にも見つかれないほうにすぐに城をでた。



読んでいただきありがとうございます!

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