33、思い違い
レイモンド視点です
あの襲撃から3日経った。
ルーナは突然頭を抑えて気を失ったが、まだ意識は戻らないまま。
ルーナが気を失った後、すぐに先生たちなどの応援がきた。気づけばあの女も魔獣も消えており、シャルロットだけが倒れていた。
すぐにルーナを王城へ連れ帰り、婚約者候補なり護衛騎士なりの使えるものは何でも使って、ずっと側で見守り続けている。
シャルロットは爆風に飛ばされたことで頭を打ち、気絶していたようだが、すぐに目が覚めた。それからは尋問をされているそうだ。
一貫して「私は悪いことはしていない」と主張しているそうだ。
一体ルーナに何が起きたのか。医者の診察を受けても、体に異常はないとのことだった。
その青白い顔を見つめながら原因を考えるも、わからない。今までルーナがいきなり倒れたことはなかった。
そんなとき、テオドール殿下が話があると俺に話かけたきた。
無視しようかと思ったが「リアのことなんだ」という言葉で、昔一緒に育った間の俺も知らない何かがあるのかと思い了承した。
ひどく嫉妬はしたが、そんなこと今は言っていられない。
それでもあまりルーナのそばから離れたくなくて、ルーナの部屋から近い応接室に案内した。
テオドール殿下は俯きつつも眉間に皺を寄せている。
「……それで、ルーナの話とはなんでしょう」
「……まだ確証はないんだが、リアが気絶したのは……僕のせいかもしれない」
「──は」
いきなりのその言葉に目を見開く。理解すると同時に怒りと殺意が込み上げてくる。
皮膚に爪が食い込むほど拳を握りしめる。
テオドール殿下は俯いたまま言葉を続けた。
「……おそらく、僕の魔力に当てられたんじゃないかと思うんだ」
「……それは、どういうことですか?」
「これはネージュラパン王族の極秘事項でもあるから、他言しないでほしいのだけど……君を信用して話すよ」
魔力にあてられるなんて聞いたことはない。他人の魔力の影響が、そこまであるものなのだろうか。なぜ俺を信用したのかはわからないが、話してくれるなら、理由がわかるなら、とうなずく。
「うちの王族は代々瞳が赤いんだ。そして魔力が高いのはこの国も同じだと思うけど……一つ、固有魔法があってね。リアが気を失ったのは、それのせいなんじゃないかと思うんだ」
「それは、なんなのですか……?」
「それはね、忘却魔法と僕たちは言っている。ただ消費する魔力も量と質によって多少違いはあるけど、大きい。だから滅多なことでは使わないんだが……」
(そういえば、あの女が「お久しぶり」と言っていたが、ルーナは困惑していた)
それが関係しているのか。城に来てからは過保護に囲われていたから、きっと城に来る前だろう。つまりは孤児院にいたとき。
「昔……孤児院にルーナがまだいた時、使ったのですか?」
「そう聞いている」
「……そう聞いている?なぜ……」
「ん?……ちなみに、リアからは僕のこと、何か聞いてる?」
「いえ、特には……でも、あなたが昔ルーナがお世話になったという、テオ兄では?」
「え!違う違う!僕はリアの言っているテオ兄ではないよ!」
「──え」
これはどういうことか。疑問が深まっていく。
「そこからか……うーん……リア、何も話してなかったのか。道理で……いろいろと納得したよ」
「納得?」
「うん、君の嫉妬具合とか」
「っ!?」
「まあ、今はそれは置いておこう。リアがいう『テオ兄』とは、僕の兄のことだよ。僕たちは双子なんだ」
「双子……」
「そう。ただ話すと長くなるな。時間はある?僕が兄上から聞いた話も含めて、君には話しておいたほうがいい気がする」
「時間は大丈夫です。しかし……」
双子ということやテオ兄はテオドール殿下ではないと聞いて、驚きがないわけではもちろんない。
しかしルーナから聞いていないことを勝手に聞いてもいいものか。本当であればルーナから聞くべきだとは思うのだが。
(テオ兄という言葉をあの王太子の誕生日会から、聞かなくなったとは思っていたが……)
それまでは事あるごとに出していたその名前も、ピタッと言わなくなった。テオドール殿下の存在に意識をもっていかれていたから、そこまで深く考えていなかったが。
(てっきりテオドール殿下が留学してきたことで、言わなくなったのかと思ったが……そういうわけではなかったのか?)
葛藤しつつも、ルーナが気を失っている今。原因がおそらくテオドール殿下の魔力、ということであれば、聞いたほうがいいのかもしれない。そう考え直し、テオドール殿下に向き直る。
「無理にとは、言わないけど……」
「いえ、お願いします」
「うん、わかった。僕もわからないところはあるけれど……」
そして話し始めた内容は想像していたものとは全く違うものだった──
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