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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第二章

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31、忘れていた記憶



 そう、あれはテオ兄が施設からでていって1か月後くらいだった──



 テオ兄との約束を果たすために、魔法の練習で夜中に抜け出したときのことだ。テオ兄から教えてもらっていたときと同じく近くの森の開けた場所まできた。


 今日はどんな練習をしようかな、と準備運動で魔力を意識的に循環させていた。


 そのとき、ガサっという物音がしたため、孤児院の誰かに抜け出したことがバレたのかと思って恐る恐る振り返ると、思いもよらない人がいた。月明りしかない薄暗いなかでもすぐにわかった。信じられない思いで名前を呼ぶ。



『テオ、兄……?』

『リア、やっぱりここにいたんだね』



 ホッとしたような声をだしてこちらに駆け寄ってくる。 1か月ぶりに会ったテオ兄は当たり前かもしれないが、何も変わっていなかった。

 私は会えたことが嬉しくてこちらからも駆け寄るも、テオ兄の様子がいつもと違う。



『リア、説明は後でするから、すぐに僕と一緒に来て』

『え?テオ兄?』



 ひどく焦っている様子で私の手を引く。

 孤児院に未練などない。ついて行っていいのなら、もちろんついていくという選択肢しかない。

 わかった、と返事をして手を握り返したときに、突如、夥おびただしい数の何かが取り囲んだ。



『みーつけた。テオバルト殿下?こんなところまでどうしたのかしら?』

『……っ!』

『そんな顔をしないでちょうだい?せっかくの可愛いお顔が台無しよ?』

『……お前に可愛いなんて思われたくはない。さっさと去れ』



 今まで聞いたことがないような冷たい声音でそう言い放ったテオ兄は、私の手をぎゅっと少し痛いくらいの力で握った。



『あら、私にそんな態度でいいのかしら?お父様に報告するわよ?』

『したければすればいい。でもリアは渡さない』

『それは困るわぁ。その子を連れていく約束だもの』

『断る!』



 その言葉と共にテオ兄は魔法での攻撃を繰り出した。

 しかしその女の人の前に魔獣らしきものが躍り出た。魔物を盾にしたのか?



『──え?』

『これだから話の通じない子供の相手は嫌なのよ。言うことを聞かないなら片方はどうなってもいいって、許可がでてるの………知ってるかしら?』



 そしてその女の人は魔法をこちらに向けて放ってきた。テオ兄も攻撃魔法を繰り出したことで魔法が衝突し、バァン!!という音が響き、色々な色の眩い光が行き交った。


 しばらく魔法の応酬が続いたが、その女の人は少し後退したかと思うと、ニヤリと笑い扇子をこちらに向けてかざすと、魔物が襲い掛かってきた。



 次々と襲いかかる魔物をテオ兄はどんどん倒していく。しかし数が多く次第にテオ兄も疲れてきたのか息が荒くなってきた。何の力もない足手まといの私は、彼の後ろでただ守られているだけだった。


 結局、彼は一人で全ての魔物を倒しきることができた。しかし沢山の傷を負ってしまった。



『……うっ……』



 やがてその場に倒れ込むように横たわったテオ兄の服は、血で真っ赤に染まっている。

 何かが焼けるような匂いと、嗅いだことのない独特な匂い。これは一体何の匂いなのか。


 混乱からか、目の前のことが信じられないからか心臓がドクンドクンと大きく脈打っている。



『っ!テオ兄!!』



 駆け寄って抱き起こしたが、テオ兄はボロボロになっていた。ところどころが焼け爛れ、体のあちこちから血が流れ出していて全身血塗れだった。


 目の前の光景が信じられず、動くことができない。


 

 もう先ほどから何が何だかわからない。一体何が起きているのかも、どうしてこのようなことになっているのかもわからない。


 ただテオ兄が酷い怪我をしていて。

 死んでしまうかもしれない。


 わかったのはそれだけだった。



『テ、テオ兄!しっかり、して!ど、どうしたらいい?テオ兄!』

『…っリア……逃げて……』

『テオ兄を置いていけるわけ、ないでしょ!』



 そう話している時、パチパチパチパチと手を叩く音が静かな夜の森に響いた。



『素晴らしいわねぇ、これはなんなのかしら。兄妹愛って感じかしら?』



 まぁ、私には理解できないけど、と言いながら歩いて来たのは思った通り、さっきの女の人だった。



『ど、うして……どうして…こんなこと、するんですか!』

『どうして?私は与えられた依頼をこなしているだけよ。でも流石に魔力量が多いだけあって手こずったわぁ』

『私が目的なら、一緒にいくから!だからテオ兄を……』

『リア、だめだ……』



 小さく掠れた声でテオ兄が私を止めようとする。しかし今の私はテオ兄が助かるなら、なんでもするつもりだ。



 だって私にはテオ兄しかいない。テオ兄が助かるならなんだって──



『あら、それなら話は早いわね。一緒に来てちょうだい。そこの死に損ないに用はないの』

『っだ、だめだ、リアっ!殺されるぞっ!』

『テオ兄、でも……!』



 テオ兄は動くのも痛いだろうに、血塗れの手で私の手を掴んで必死に止めようとする。



『……あなた、うるさいわね。見逃してあげようと思ってたけど、そんなに邪魔をするならここで消えてちょうだい』



 そう言って女の人がテオ兄に向かって手を向けた。

 テオ兄にトドメをさそうとしてるのはすぐにわかった。



『やめてーーー!!!!!!』



 思い切り叫ぶと一気に私の魔力も放出されたのか、私を中心に爆風が発生した。



読んでいただきありがとうございます!

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