23、隣国の王太子
途中からレイモンド視点です
「……そ、うですが……」
「……やっぱり。あっててよかった。後日でもいいので、2人で話す時間をいただけませんか?」
「それは、かまいませんが……」
(でも後日っていつ?)
後日というのは待てなかった。
どういうことなのか。なぜこんなに彼にそっくりな人がいて、私のことをリアというのか。
私のことをリアというのはあとにも先にもあの人だけ──
内心混乱しているも、その逸る気持ちが私を急き立てる。
「ちなみに、今はいかがですか?」
「……ルーナ」
「レイ、大丈夫よ。少し、お話しするだけだから……」
「しかし……」
「お願いよ、レイ」
眉尻を下げてお願いするルーナリアのことを断ることはレイモンドにできるわけもなく。
レイは顔を険しくして渋っていたが、「王女殿下を傷つけることは絶対にない。なんなら誓約魔法をしてもいい」とまで言われると、王太子のメンツもあるため引き下がるほかなかった。
「……わかった。場所は……庭園にあるすぐ出たところの東屋。俺も話は聞こえない程度の距離に控える。それでいいなら」
「ありがとう、レイ。無理を言ってごめんなさいね」
その言葉で、テオドール王太子と庭園にでることになった。
2人でと言われたが、さすがに婚約者(候補)もいる身で2人きりにはなれない。
少し離れた場所でレイは待機することになった。
「では、こちらなら大丈夫かと思いますので、どうぞ。お兄様が入場されるまであまり時間もありませんし…」
「ありがとうございます、ルーナリア王女殿下。それでは単刀直入に…………」
ーーーーーーーーーーー
少し離れてぎりぎり会話が聞こえないところに控えていたレイモンドは気が気じゃなった。
今日、レイモンドがしようとしていたこと。それはルーナリアに告白して正式な婚約者にしてもらいたいと伝えることだった。
やっとあの妹大好きな王太子にも、娘大好きな国王陛下にも許可をもらえた。それはひとえに国境にでたドラゴンの討伐が大きいのだが。
『何か一つでも功績を上げたら考えよう』
そういった国王陛下の言葉があり、討伐に行くことを決意した。本当はルーナのそばを離れたくなかったが、ルーナを自分の都合で辺境に連れて行くわけにもいかない。
討伐はびっくりするほどうまく事が進み、ドラゴンはすぐに倒すことができたときは自分でも驚いた。
ただただルーナを守る力がほしくて必死に鍛錬をしていただけだったのだが。
(でもこれで認めてもらえるかもしれない)
その思いで帰還した。しかしそれでもすぐには認めてもらえず、陛下のお使いをしたあとのこと。たまたま城下でシャルロットと出くわした。
「あら、こんなところにいるなんてどうされたの?ルーナも一緒?」
「いえ、本日はお休みをいただいております」
「お休みでも離れないかと思っていたけどそうでもないのね……」
本当は休みなんていらない。俺の代わりにほかの騎士がルーナのそばにいると思うだけで殺意がわく。しかしルーナの隣にいる資格を得るためにはほかに選択肢がなかった。ルーナから離れて動くには休みを取るしかなかった。
「それじゃあ、少しお茶でも飲まない?ケーキがおいしいお店があるのよ」
「……………いえ、俺はもう用事が終わりましたので帰ります」
「そう、残念……」
「では、これで失礼します」
あと少し。あと少しで終わる。そしたら──
過去のことを思い返していると夜会会場のざわめきが大きくなってきた。
そろそろ王太子殿下の入場か。
そう思い、ルーナを呼びに行こうと東屋に足をむける。
「………………僕のこと、テオ兄って呼んでくれてもいいんだよ?」
「……さすがに王太子様にそのようなこと、できないわ」
「そうかい?そうそう、今度から僕もシュクール王立学園に留学することになったんだ。君を探すために来る予定だったんだけど、留学前に見つけることができちゃったね。本当は新学期のタイミングでの予定だったんだけど……手続きに手違いがあったのか手間取ってしまってね。続きはまだこれから話す機会があるだろうから、おいおい話そう」
そこで聞こえてきた会話で、もう切り上げようとしていることが分かった。しかしそれよりも気になる言葉が。
(学園に、留学……?)
ルーナの視界に入っただけで、視線の先にいただけでとてつもない嫉妬が湧き上がった。それなのに、学園にまでくるというのか。
動揺からガサっと音を立ててしまう。するとルーナが気づいたのか目があって目を見開いた。
「あ、レイ……もうそろそろ、時間かしら」
「はい。もう王太子殿下が入場するころかと」
「わかったわ。呼びに来てくれてありがとう」
「……君が、リアの……ルーナリア様の婚約者……まだ候補だったか。レイモンド・エスパーダ公爵令息かな?名前だけはこちらの国にも聞こえてきたよ。なんでもドラゴンを1人で倒したんだとか」
「……恐れ入ります」
ルーナのことを愛称で呼ぼうとしたことで燃えるような嫉妬心が湧いたが、ぐっと我慢してなんとか言葉を返した。
俺が何か不敬を働けばルーナが何か言われるかもしれない。それは避けなければならない。
「それじゃあ、リア。また」
「はい……」
そう内心葛藤している間にもさっとルーナの手の甲にキスをして去っていった。
間に入る暇もなかった。今までこんなに怒りを感じたことがないくらいに腹が立っていた。
(ルーナはまだ正式に俺の婚約者ではない、それでも……)
わかっていても、独占欲を抑えるのは容易ではない。
「?……レイ?行きましょう?」
動かない俺に向かってルーナは不思議そうに声をかけてくる。
「……あぁ、行こう」
ただ虐待されて何も持ってなかったころからは大きく状況は変わり、今はドラゴンを1人で倒した英雄と言われても。
それでもルーナを前にするとただ彼女に恋焦がれるだけの不器用な少年に戻ってしまう。
心はひどく荒れていたが、今はルーナのためにも会場に戻らなければならない。
会場に戻るとあの隣国の王太子や、彼女を見つめる男どもがいる。それを想像するだけでも耐え難い。
彼女を攫ってしまいたい。他の誰の目にも触れないように隠して、俺だけのものにしたい。閉じ込めて、出られないようにして──
自分の中に芽生えてしまった、叶うことはないとわかっているそんなどろりとした願望を心の底にしまい込んで、愛しい人に向けて腕を差し出した。
そのあとは、あんなに楽しみにしていたのにもかかわらず、ルーナは終始気もそぞろだった。常にあの王太子のことを気にしている。外用の笑顔の仮面も崩れつつある。
そのとき俺は確信した。確信するまでもなくルーナも声にだしていたが。
ルーナをあんなに動揺させられる人は一人しかいないんだ。
(あいつが、あのテオ兄か……)
ルーナをこんな状態にしたことがとても腹立たしくも、そこまでルーナの中での影響力が強いことがうらやましくも思う。
そしてもう告白をすることは諦めてルーナのフォローにまわるのだった。
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