最終話:「新世界」
僕は、気が付いたら黄金色の草原の中に、呆然と立ち尽くしていた。
「これが新世界…なのか……」
「そうだ…」
いつの間にか、剣から元の姿に戻ったクァチルが、僕の傍らに立っていた。草むらがそよ風になびいて、心地の良いさざ波が耳に入る。
「そうか、まだ実感が湧かないけど…これが僕の夢見た世界…。そうか、僕は…夢を叶えたのか……」
するとクァチルが、生まれたばかりの世界を…眠っている大地を起こさないよう、そっとつぶやいた。
「…聞くのが遅れたが…汝、名は何という?」
「名…?」
僕は、急にクァチルがこんなことを聞いてきたのを不思議に思った。
「僕の名は……」
だって、僕に…
「無いよ、そんなの」
親がいない僕に、名前なんてあるはずがないのに。
「そうか…。しかし、いつまでも汝と呼ぶのも、煩わしいな…。ならば、こうしよう」
するとクァチルが、思いもよらない提案をしてきた。
「我が汝に…名を与えようではないか」
「名前を…くれるの?」
「さよう…。汝はこれからこの世界を治めるのだ。まずは、王を名乗るべきだな…。」
「王…?」
「王とは、他を率いて統べる者のことを指す…。汝は…月世界の邪悪なしがらみから自身を解放し、また他に対してもそうしたいと願った…。邪悪な戒めを破り、そこから人々を解放したのだ。汝は……まさにそう。破戒の王、とでも呼ぶべきであるな。」
「破戒の…王…? それが、僕の……」
なんだか、「レン」とか「クァチル」とかそういう響きのものとは違って…
すると、クァチルが僕の不満を見透かすかのように語りかけてきた。
「なんだ…? 不服か?」
「いや、これが本当に…僕の名前なのかって」
「なに…? それは違う。これはあくまで肩書……名前とは異なるものだ」
「じゃあ、僕の名前って…?」
「汝は欲しがりだな…。では強欲な汝には、二つの名を授けよう…」
そう言って、クァチルは…僕に名前を授けてくれた。
「――か。ねぇクァチル…これって、どういう意味なの?」
「神の言葉で、前者は終わり…後者は国、という意味だ」
「国の…終わり、か。たしかに、僕にふさわしい名前だね…」
「いや…それだけではない。前者には、もうひとつ…別の意味がある」
僕は、その意味を聞き感銘を受け、そして…この名を愛した。
「ねぇ、クァチル…。ふたりで一緒に、この名前を呼んで欲しいんだ。」
「あぁ、構わぬ…。」
こうして僕は、この新天地の創造主となった。
「汝こそ…」
けれど、これはまだ始まりに過ぎない。
「僕こそが…」
ここから、この場所から、僕の世界は始まるのだから。
「「破戒の王、エンデ=ウルスだ!」」
かくして世界は始まった。第七の日である。