第一話:「夜明け」
誰も気づかないほどの闇の中に、二つの影があった。
「なあ、虫けらでも神様になれると思うか?」
「神さまになる前に、まず人様になりたいかなぁ」
「じゃあさ、俺が神様になったらまずはお前を人様にしてやるよ」
ふと空を見上げる。
蒼白い流星が僕たちの頭上を撫でるように、深淵へ流れ落ちていく。
その様子を眺めながら彼の夢を聞くのは、なぜか分からないがとても心地良かった。
「で、そのあと一緒に神様になろう」
彼の言うことは冗談とも本気ともとれるが、それは僕にとってどっちでもいいことだった。
僕は彼のことが心底好きだったから。
ある朝、何の脈絡もなく喧噪が、小屋の中にスルりと入り込んできた。寝床のワラのくすぐったさも相まって、僕はすぐに目が覚めた。いつも寝起きは好きではないが、今日のは特に悪い。人様の怒鳴り声には、僕を不快にする成分か何かが含まれているのか…。毎度毎度人様の怒号は、胸焼けするほど不愉快で、醜い旋律を奏でてくれる。僕の近所では、人様が大声を出すことが、しばしばあるのだ。その理由は、僕の親友である「レン」の存在だ。恐るべきことに、レンの休日の趣味は人様に歯向かうことであった。そして、平日の趣味は人様の鼻をへし折る事なので、結果として毎日人様に対して何かしらの問題を起こしている。そして、レンがなにかしでかすたびに、人様は寄ってたかって彼を取り囲み、拳と怒声という名の返礼を、数が多すぎて受け取り切れないほど叩きつける。これが早朝に起こると、朝の目覚ましというおまけをついでで、僕に置いていってくれる。
外に出たら、そこにはボロ雑巾のようになったレンが仰向けで寝ており、いつもと変わらない紺色の空を見上げていた。
「おはよぉ…! 散々すぎて笑えるだろ?」
「それくらいの面白さじゃ、座布団は家に一枚しかないし上げられないな。」
レンはどれだけの逆境にいようとも、その口の数を決して減らさなかった。
「高笑いって上を見上げてするもんだろ? だから、空を見てる。うん、決して起き上がれないとかじゃねえぞ。」
「手が滑るかもしれないから、しっかりつかんでよ。」
僕たちはこうしていつも二人で立ち上がってきた。人様と比べたら僕たちは虫けらのような存在かもしれない。だけど、たとえちっぽけな虫だろうと五分の魂は持ち合わせていた。そうすれば二人なら魂だけは十となり、人様と対等でいられる気がしたから。