魔女の逃亡1年目、冬頃の話
『薬術の魔女の結婚事情』関連の二次創作です。
作者から許可を得ています。
独白的なやつ。
登場人物
・双子宮室長
象牙色の髪の男性。瞳の色が左右で違う。
詠唱、言葉の研究をしている宮廷魔術師。
蘇蛇宮室長である、魔術師の男/悪魔の同僚。同志であり友人ではない。魔女いわくお友達の人。
魔女の患者。目の治療を受けている。
『薬術の魔女の宮廷医生活』の 6 性欲減退薬 にて魔術師の男と一緒にいる人。
同僚の、蘇蛇宮室長の様子がおかしい。
とは言え、以前と外見や言動に変化はない。だが、違和感がある。
気になれば調べずにはいられないのが魔術師の性分であるので、彼の周辺で起きた変化を探った。
そうして、彼の伴侶、軍医中将の魔女殿が、秋頃から軍部に拠点を移していたことを知った。
『魔女の城』とも言われている、軍部の医術薬術開発局に一月以上篭りきりで、研究を行なっているそうだ。
『魔女が何やら恐ろしい新薬を開発しているらしい』と噂が立ち、一部の貴族が騒いでいる。
どうりで最近、悪意避けの札や魔術に依る実効性の毒消し付加の依頼が増えている訳だ。宮廷錬金術師等は更に多忙だろう。
短慮な彼等は、悪意を以て薬を作成すれば天の神に罰せられる事を最果ての深淵に忘れ置いているらしい。
そういえば、先月の治療は彼等の家ではなく医術薬術開発局で行っていた。
近頃は緊急の新薬開発が必要な情勢ではない、つまり国や軍が強制で魔女殿に研究させる事情はない。
そして、魔女殿は気に入ったものを側に置いていたい質の人物だった。己の目を信じるなら、魔女殿は同僚を相当に好いていた。
つまり、拠点を軍部に移した事は自発的なもの。魔女殿には同僚の元を離れたくなる事情が生じたらしい。
ならば私が感じている違和は、彼の生活環境の変化によるもの、ということだろうか。
しかし生活環境の変化ならば、三月程前に同僚の子等が全員巣立ったことの方が、大きい変化のはず。だがその話は彼自身から聞いている上に、違和感は無かった。
……いや、そういえば彼等は結婚して間も無く第一子を授かっていた。ならば『夫婦だけの時間』がほとんどなかったのではないか。
一般的に夫婦は思い合い結ばれ、互いに信頼関係を築いてから結婚する。だが、同僚と魔女殿は『魔力の相性が良い為法律により強制的に結ばれた仲』だ。
魔力の相性が良いと性格は絶望的に合わないという論文もある。つまりは認識に大きな隔たりがある。
一般的な夫婦よりも信頼関係の構築により時間がかかるはずで、それが不十分だった可能性も十分に有り得る。
例えば、これまでは『子を育てる』という明確な共通目的があった為協力出来た。
だが、子が巣立ち目的を達成した今、次の共通の目的を見出せず、認識の隔たりが明るみになり、それが精神的負担となり。
結果、魔女殿が軍部に拠点を移すという家出を行った、と。
前述したように魔女殿は、奇跡的に同僚を好いて信頼していた。だが、同僚は魔女殿を『子等の母』ではなく『伴侶』として信頼していたかどうか。
……少なくとも、今回の件で同僚から魔女殿への『伴侶』としての信頼は、地に落ちただろう。
実子が四人居る時点で魔女殿を嫌いではないだろうと察せるが、客観的に見て愛の深さがどれほどかも不明。表面上の態度だけを取れば、淡白にも見える。
もし、仮に。同僚が魔女殿に対して情が無いのであれば、そのうち違和感は無くなるだろう。
そう結論づけ、思考を切り上げた。
一人で考えたところで意味は無い上に、同僚に問い糺したところで、仕事に関係無い為、答えてくれやしないから。
ルビいっぱい振ってますが、自分が読めないから振ってます。
『最果ての深淵』は、大地の終わり、地の神こと『黒き神』の座す所の名称の一つ。
知と良心と秩序を司る天の神こと『白き神』から最も遠いところに常識を置き忘れてるねって言ってます。
企画では二次創作禁止(管理しきれないから)って書いていたけれど設定いくつか変わっているのと何より主からいいよと言ってもらったので書きました。