第89話 マーガレットとの再会
1905年3月
玲子
私達は1ヵ月程の航海をして英国のリバプール港についた。ユウちゃんの知り合いのエドワード卿がこの町にある屋敷を一軒まるごと借りてくれていた。
私達の船が港に着いて入国の審査をして外に出ると大きな日の丸に”REIKO”と書かれた旗を持った外人さんが待っていてくれた。
私達はその人に挨拶をして、さっそく明子ちゃんが状況を聞くとエドワード卿の会社の人で借りた家まで案内してくれるそうだった。
そこは港からは近いというので、車や荷物が下ろされるまで吉田と五十嵐を港に残して私と明子ちゃんと二人でそこに案内してもらった。
大通りに面した屋敷につくとバイクを整備する納屋もありベッドや家具もそろっていて部屋数も十分にある御屋敷だった。これからここを拠点にして小さなレースを幾つか挑戦して最後に6月に行われるマン島TTレースでこのバイクの実力を世界にみせつけるつもりだった。
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1905年5月
結城
日本の政界首脳部や大本営は樺太占領には消極的だった。満州の戦略目標だった奉天を陥落させたことで戦争の終決目標が達成したと思っているようだった
俺は政界の有力者に講和談判を有利に進めるためにはこの樺太の占領がどうしても必要だと話して、最後には相手の顔に近づき小さい声で”ここには地下資源が豊富で宝の山だから我が国で手に入れればとんでもない額の金を生み出す事できます”と直球で考えを言うと相手も納得して3月20日に至って、樺太作戦の件が政府・大本営で決定し4月2日に陛下の裁可が下りた。新設の独立第13師団に出動命令が下された。
どうしても5月27日の日本海軍とバルチック艦隊が激突する日本海海戦までにはこの樺太を占領してもらいたかった。
こうして樺太作戦は発動されて樺太遠征軍は海軍からの支援を受け、1905年4月10日に南樺太に上陸して優勢な兵力を背景に迅速に進撃していくつもの街を占領して最後は4月15日にはロシア兵1200名程の主力部隊と交戦してこれを撃破して南樺太を占拠した。
その後の4月20日に北樺太のアレクサンドロフという街の近くに上陸してロシア軍長官ミハイル・リャプノフ中将以下5,000名を越える兵士が駐留していたが海軍の艦砲による支援砲撃によって、ロシア軍はわずかに抵抗を示しつつも、島の深奥部へ退却したため、日本軍はその日の夕方にはアレクサンドロフを占領した。
その後、本国から補給を受けられないロシア軍長官リャプノフ中将は降伏勧告を受けて4月28日に降伏することになった。
こうして予定通りに樺太を手に入れた日本政府に俺が提案した日本海海戦の結果を待たないで米国に戦争終結にむけての仲介を頼むために、外務省の山岡次官といっしょに俺は便宜上、立場は政務官ということにしてもらい日本にある駐米公使サイモン・カーター氏に面会しにいった。
日本にある駐米大使館は横浜の一等地に洋式建築のでかい屋敷だった。駐米公使サイモン・カーターは俺の顔を見るなり「ユウキ、、伝説のピアノ弾きのユウキじゃないか、、」そう言って彼は右手を差し出してきた。
”やばい、この人、俺のこと知ってんのもう何年もピアノは弾いてないのに”そう思いながら同じように右手を出して彼と握手した。
次官も脇にいて驚いていたが同じように握手をして貴賓室のソフアーに俺達は腰かけた。
「もう、ピアノは弾いてませんがどこでお会いしたでしょうか、」と聞いたら
「もう4~5年前になるでしょうか、、エドワード卿のパーティーが最初でそこで聞かせてもらい、その後は仏蘭西公使のパーティーでも聞かせてもらいました。その時は前任の副官で一年程の滞在でしたが、日本には昨年の暮れに公使としてまた着任しました。妻と二人で聞いてよく覚えております。妻もあの曲に感激して婦人会の集まりではあなたにピアノの演奏を頼んだとか、、」
”ギャ~、まずい、まずい、帝国ホテルでエロ・ユウキになって夜の大人の個人レッスンした御夫人じゃないよな~、ああ~、多すぎてぜんぜん名前も覚えてね~や”
「そう言えば仏蘭西公使のパーティーでその時の駐米公使がボーイに化けた暴漢に頭を叩かれた事件がありましたが覚えておりますか、、」
”ギャ~、それ姉さんで~す、、”
「いえ、、ピアノを弾いていてよく覚えてないですけどそんな事があったんですか、、」
「その頃に聞かせてもらったあの歌とメロディ~は心に響きましたよ、、日本人にもあんな名曲を作れる才能があるのかって見直しました。」
「また、何かあったらユウキにピアノを弾いてもらってもいいですか、、」
”やばかった~、、話が変わってくれたぜ、、”
「いつでも、ご連絡下さい、日本と米国の友情の証でいつでも弾かせてもらいます。」
「それでは、その時ご連絡しますので本当にお願いします。ところで今日は外務省の山岡次官といっしょにどのようなご用事ですか、、」
やっと本題に戻り俺は日本政府の政務官として政策についてのアドバイザーだと自分の身分を説明した。そして次官と顔を見わせ俺から説明を始めた。
「今日は駐米公使にお願いがありまして伺いました。、これはあくまでの事前打ち合わせとして聞いてほしいんですが、、」
そう切り出すと俺は本題に入り
「この日本とロシアの戦争を終わらせる為に貴国のセオドア・ルーズベルト合衆国大統領の仲介をお願いしたくて伺いました。」
「まだ、戦争は継続しているじゃないですか、確かに奉天陥落は聞いていますが、ロシア海軍のバルチック艦隊がこちらに向かっていて日本海軍が負けたらどうするんですか、その時はロシアは交渉に乗るでしょうか、奉天を取返すまでは交渉にならないと思いますが、、」
「おしゃる通りです、しかしそのバルチック艦隊が目も当てられない程の惨敗で日本海軍が圧勝すればどうなるでしょうか、、必ずロシアは交渉のテーブルにつきます。今日こちらに伺ったのは交渉の決断はその結果を見てからで構わないので、先に日本からこの仲介の話が来ている事をセオドア・ルーズベルト合衆国大統領に話して頂きたいと思いまして伺いました。」
「確かにそうなれば、交渉のテーブルにつくことになりますが、わが国のメリットは何がありますか、、」
”思った通りそうきたか、さすがギブアンドテイクの国だ史実でも米国は英国やフランスなどの大国に押されて国際的な立場と発言力は弱かった。それに日本を米国の傘下にして満州や清国の市場を狙っていたのだ。
そのためにこちらからの要請に恩着せのようにのっかて仲介に入って来たのが歴史の史実だ そして、日露戦争の停戦を仲介し、その功績で1906年にノーベル平和賞を受賞した。彼はノーベル賞を受賞した初のアメリカ人になる。俺は恩着せがましいのは嫌なのでこちらの手の上で大統領には動いてもらおうと思っていた”
「そうですね、、まず一つ目はこの戦争が大統領の仲介で終決したならば日本政府はノーベル財団にこの功績によって多くの兵士の命が助かったとしてノーベル平和賞の受賞ができるように推薦状とその意見書を必ず出させていただきます。近代史において最大の戦争を終わらせた事で必ず貴国の大統領はノーベル賞を受賞した初のアメリカ人になると思いますが、それはお伝えください」
「それが受賞できれば国民はどれだけ喜ぶでしょうか、次の選挙でも国民に選ばれて今の職を続けられます。」
「次に米国の国際発言力がこの講和を斡旋したことに対して上がります。今の英国や仏蘭西などの大国に対して米国の国際調停の力を見せつけることができますけど、それでは駄目でしょうか、、」
「ふ~ん、どうだろうか~、それはそれで米国と大統領の権威という目に見えないものがあがるのはいいんだか、アメリカ国民や大統領を納得させるにはもっと目に見えるような成果があれば講和の斡旋には力が入るんだが、、」
”フフフフ、さすが米国の公使だけある、、こういう事が日本人にない交渉センスなんだよ、”
「う~ん、そうですか、とっておきのプランがあるんですが、これに米国にも一枚絡んでもらい交渉の際にはロシアに圧力をかけてもらってこちらの講和条件で納めてもらえれば日本政府も了解するんですが、、」
「その講和条件とプランとは何ですか、、」そう言うと駐米公使は身をのり出してきた。
「まず、樺太の所有権と満州における利権、他には軍の撤退や旅順や大連を含む南満州の日本の支配権などもろもろですが、大事なのは樺太を日本の領土とする事です。」
「なるほど、先月、確か日本軍が占領しましたね、、」
「それで日本の講和条件に協力するとその見返りのプランとは、、」
「まずは、遼東半島の大連港を国際経済特区として各国に開放して自由経済都市として清国の市場の入り口にします。もちろん米国には特別対応させてもらいます。それからエドワード・ヘンリー・ハリマン、たしかユニオン・パシフィック鉄道の社長の夢がアラスカに鉄道を建設し、さらにベーリング海峡を横断してシベリア鉄道につなぎ、世界をつなぐ鉄道王となる夢だとか聞いておりますがこの大連からの南満州鉄道はシベリア鉄道につながっております。その利権についての扱いとかは金額次第では優先的にご相談できますが、それとあと一つ樺太に米国の海軍基地の設営許可を出す事もひょっとしたら条件にだせますが、、どうでしょうか、、」
「なんと、、本当にそんな事ができるのか、、その海軍基地だけでもデカい話だ。わかった事前交渉という事だな、バルチック艦隊との海戦の結果次第という事だが先に大統領にはこの話を必ず連絡しておく、その後どうなるんだ、」
「はい、必ず連合艦隊が圧勝すると信じてますが、その後はすぐに米国にいる我が国の駐米公使高平小五郎が正式に貴国の大統領にロシアとの講和の為の仲介をお願いにいきますので今日のこの話をしていただき仲介の準備をお願いします。予定としては以上です、、あとは講和会議の場所と時間をセッティングをしてもらうだけです。」
「わかった。この件は必ず伝えるよ、今日はとてもいい話ができた。日本海軍が圧勝する事を祈るよ、、」
こちらの思惑通りに打ち合わせを終えて、公邸を出ようとした時に玄関で見送りの為に駐米公使サイモン・カーター氏とその後ろには胸がデカい御夫人が唇を舐めまわしながら俺を熱い瞳で見つめていた。
俺は、二度見してしまった、そこには帝国ホテルで一番レッスンをした、、赤毛の、マ、、マーガレット、、がそこに立っていた。
”ギャ~、、俺どうなんの~、、”
つづく、、、、




