第82話 結核治療薬の解禁
1904年12月
日帝大学医学部 上杉先生の教授室
上杉先生、城島先生、尚美、結城の4人が顔をそろえていた。そのテーブルの上には箱が置いてあり、中には手紙が山のように入っていた。
「これを見て下さい、労咳治療薬”ストレプトマイシン”が朝刊に派手な記事を書かれてから、、このように毎日、毎日、患者や家族から治療の依頼が来ております。」
「尚美師匠から伺いましたが、、私がうっかりと正岡師匠にこの薬の事を話したもんですから、、みんな私のせいです。」
自分の責任を感じる上杉先生、、
尚美
「そうじゃないわ、、あの”マサオカ”がべらべらなんでも見境なく話しちゃって、あいつのせいよ、、」
城島先生
「あれだけ、、まだ安全性や副作用があるかわからない為、治験で調査しているからとあの日にきた記者の皆さんには話したのに、あの記事ではまるでもう安全な治療薬が完成したような事になっているじゃないか、ふざけるな!」
結城
「どのくらいの患者さんや家族から手紙が来ているんですか、、」
上杉先生
「はい、今、手紙が来ている患者さんは150~200人位ですけど、、」
城島先生
「読んでるだけで、気の毒で泣いてしまいそうな状況だよ、嫁さんを助けてくれとか娘はまだ10代なのにもう先がないとか、みんな藁にもすがる気持ちで書いているんだぜ、」
尚美
「結城、、何とかしなさいよ、あんたはこういう時に役に立つんでしょ、、」
結城
「本当に姉さんは困ったときにしか言ってこないよね、、ウ~ン、、王子の薬品工場ではちょうどペニシリンの培養の生産器材を増強しましたから、すぐに”ストレプトマイシン”に切り替えて増産にはいりましょう。
もう治験で副作用について調査してる場合ではないでしょ、すぐに死ぬか生きるかの二つしかない患者にとって、副作用にならなければそれは奇跡の薬になるわけだし、副作用で死んでもいづれ結核で亡くなるわけだから患者さんにとってはそん事は関係ないでしょ、、責任の問題だけです。リスクを承知してもらいこの薬を使ってもらえればいいじゃないですか。
すぐに三交代での24時間生産をはじめます。どんなに急いでも最初の出荷は二週間ほどかかりますから、先生のほうで状態が悪い患者と連絡をとってもらえますか、それと安全性について担保できないと必ず書面を送って患者の同意のサインを返信でもらってください。 同意しない患者には治療薬は送れませんよ、」
上杉先生
「わかりました。さっそく学生を使って内容を精査して重症な患者を選別して治療の同意書をもらったら患者の施設の先生に連絡を取り治療薬を送る事にします。」
城島先生
「そうであれば、こっちでも慎重に処方して出していたけど残ってる在庫はすべてだす事にするよ、、それと学生にも手伝ってもらってこちらも生産を増やします。」
こうして結核治療薬”ストレプトマイシン”が治験の結果を待たないで手紙をくれた全国の施設で待っている、重症患者達の担当医師にむけて点滴による治療法の説明が記載された書類と一緒に次々と配送されることになった。
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1904年12月
根岸にある正岡子規の自宅
そんな事が起きているとも知らずに一生懸命に、”パクリ”小説の原稿を書いてる正岡子規
そこへ新聞『日本』小説担当の島田三郎が息を切らして訪ねてきた。
「ハ~、ハ~、、先生~、、いるかい、、勝手に上がるよ、、」といつものように自分の家のようにあがり、書斎の正岡の前に座りこむ三郎、、
「先生、て~へんだぜ、あの海洋冒険小説が初版の2万部が一週間で売り切れてしまって、東京の書店から予約でいっぺ~だぜ、後はよ、全国の書店からもこの反響を知って注文が入ってきてすごいことになっちまって、再販が決まって3万部追加で印刷が決まったぜ、、それと先生宛に読んだ子供たちから手紙が来ているぜ、、」
そう言って三郎さんは持っていた、でかい風呂敷を傍にいた律さんに渡した。
律さん
「すごいじゃないの、こんなにいっぱい手紙がきたの、なんて書いてあるのかしら、、」
そう言って手紙を読む律さん、、
”主人公がだいすきです、帽子をくれた野武士の海賊は片足をなくしてどうなるんですか?、””仲間と助けあって島の悪い代官や殿様をやっつけて下さい、、”
(微妙にこの時代に合わせて中身が変わってる”パクリ”小説)
「かわいいこと書いてくるわね~、、三郎さんこの本でドンくらいのお金がもらえるんだい、、」
「そうだね、、先生とは1割での約束だからね、一冊こいつは(700円)だから(70円)が先生の所に入るんで2万部は売れたからこれでもう(140万円)になるね、、追加も全部、売れたらあと(210万円)になるぜ、律さん、こりゃ先生は金持ちになるぜ~、、」
※(令和の金額です)
「あ~そうだ、海外の分もあったぜ、こっちはまだわからね~な」
金額を聞いてびっくりする正岡先生
「そんなに、金が入るのか、、まだ一巻目だぜ、、」
「いや~、きっとこんなもんじゃね~と思うぜ、、東京だけで初版の2万部が売れちまったからな、全国の子供たちに知れ渡ったらて~へんだぜ、」
「先生も御殿に住めるんじゃね~のか、、ところで俳句は書いてねえのかよ」
「ああ、今はこればっかしだな~、このおかげで新聞も売れているんだろ、、俳句ではそんな事できやしね~さ、、」
寂しそうに答える正岡子規であった。
その日の夕食、、律さんは御馳走をつくり3人で盛大に売れた小説のお祝いをしたのである。
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尚美と結城の自宅
幸子ちゃんの作った夕飯をいっしょに食べる玲子
玲子
「バイクの調整も終わったんで、、欧州のレースに来年は遠征にいくんだけどさ、、ユウちゃん、誰か英語の得意な人を貸してちょうだいよ、、」
結城
「エッ、、そっか~、、バイクできたんだ~、これで念願のレースにでて日本の国産エンジンの実力を見せつけてやってきてよ、、まあ~、、負ける事はないかけっこう未来の技術も使ってるんでしょ、、確か、水冷エンジンとか言っていたけど、、」
玲子
「あたりまえじゃないの、この時代にバイクに水冷はまだないと思う、、それに、フフフフ、酸素をキャブレターに吹き付ける仕掛けを作ったから絶対に負けないわよ。」
尚美
「まじか~、、卑怯な事をさせたらあんたの右にでる人はいないよ~、、」
結城
「海外の国に行きたいと言っている、、英語の得意な日野明子ちゃんに聞いてみるよ、、彼女はとっても優秀だから力になると思うよ、、」
玲子
「ユウちゃん、、サンキュー、、大好き~、、旅費もお願いね、、」
尚美
「本当にあんたは都合のいい女だよね~」
玲子
「あっ、、そうそう、お父さんラジオ作りに物凄く燃えて一生懸命にあの電気関係の書物読んでてこの間なんか”わかったぞ、、そう言う事か!、、”なんて言いながら一人でニタニタして電気部品の製造する職人に指示してなんか作ってたわよ」
結城
「そうか、よかったこの時代でも機械の原理や仕組みが分かればアナログの電気回路は白鳥社長でも作れると思っていたけど順調でよかったよ、いきなりIC集積回路を見せても絶対作れないけど、、親父が残した昔の真空管を使ったアンプや鉱石ラジオ キットの見本があるから、これが参考になるから何もない物をいちから作るよりよほど早くつくれるよ、、」
玲子
「そうよね~ 未来では何もかもあたり前のように使っていて、世界中で起きた事件や事故が投稿者がいればスマホの動画で瞬時に見れるのに、今じゃ近所の事件や火事も1~2日後の新聞記事じゃないとわからないのよ、ラジオ放送ができたら、この時代の人達は夢のような事なんでしょうね、、
結城
「そうだよ、新聞しか情報伝達がないんだから、、記者の記事の書き方で世論が動くわけだから今回もあの結核治療薬ではホント振り回されたからね、、」
そう言いながら三人は幸子ちゃんが作った夕飯をたべながら忙しかった一年を振り返るのだった。
つづく、、、、