第8話 上杉医師 その2
いつも読んでいただいてありがとうございます。
それでは、はじまり、、はじまり、、、
私の名前は上杉誠、年齢は38歳、東京帝国大学医学部の講師をしている。講師といってもしがない窓際で、助教の先生や教授からいいように使われている。
ここは生まれや育ちで出世がきまる。同期の森林太郎なんかがそうだ、森家は代々、島根県にある津和野藩の典医を務める名家で,私のような平民の出ではない、同期の中で最初の軍医本部付となりドイツ帝国陸軍の衛生制度を調べるため、ドイツ留学を命じられたりしている出世頭だ。そうだここは地位と権力だけの世界だ。
前に破傷風の病気について症状が違う患者について研究したいと助教授に相談したら、”そんな予算はないお前はだまって仕事をしていろ”となじられた。私は自分のできる範囲でこの違いを研究してきたが、今日、はっきりと私にこれは敗血病と教えてくれた五条尚美という女性、125年後の未来から来てペニシリンという薬でこの病が治るというのだ。
今までこの症状を発症して助かった人は誰もいない、小さい子どもから大人まで高い熱をだし苦しんで死んでいった。私は弟子入りしてでも彼女からこの点滴治療とペニシリンについて学び大勢の人を助けたいと強くおもった。
“結城”
渋沢先生と未来の宇宙事情についていろいろ説明した後、上杉先生には俺達が未来から来た事は絶対秘密にしてもらう約束をした。
姉さんが上杉先生に自分が知っている医療知識を教えるので日本中の医師に広げてもらうようなお願いをしていた。
上杉先生は子供のように目を輝かせ姉の事を、”師匠、師匠、尚美師匠”となんども連呼していた。
上杉先生それは違うぜ、姉貴は”ドS女王尚美様”と呼ばなければいけないぜフフフ、、、、と考えていたらいきなり女王がにらみつけてきた。恐るべし女王様の第6感、、、
上杉先生が18:00の列車で本郷に帰ると言うので、俺は挨拶しようと思ったら
姉さんがまだ少し話したい事があるので駅まで送るという事になった。
愛子ちゃんも容態が落ち着いて寝ているので、俺と渋沢先生が留守番しているから大丈夫と言って二人が駅にむかった。
未来の宇宙講談を一通り聞いたら先生も満足してもらい、俺に聞いてきた。
「昼間も聞いたが結城は何をしたいのじゃ」
「僕はこっちに来る前は大手の商社で、海外と日本との商売をしてていろんな物を売り買いしていたんだ。16歳から22歳まで英国に留学してフランス語やドイツ語なんかも勉強していたんで欧州担当として日本と行ったり来たりみたいな感じで仕事をしていたんだけど」
「こっちでもそんな仕事をしてみたい。そうだな、五条商会とか五条商事とか
会社を作って僕たちが持っている未来の知識で作った、日本の商品をバン、バン売って今の貧しい日本を金持ちにすることがしてみたい。」
「そうか、儂も結城と同じ年の頃にやはり欧州にいってパリ万博と言う博覧会を見てきて何と欧州の国々は日本より優れているんだろうと思ったよ。」
「でも結城は何を売っていこうと思っているんだい。」
「あ、、、ちょっと待ってて」
そう言われて俺はある事を思いついて2階の院長室にいって親父の時計のコレクションを抱えて持ってきた。
そして先生の前に積み重ねて箱の1つを開けて中身をだした。アナログ式の高級腕時計だった
「ねえ、先生こういうものって横浜あたりにいる英国人や外人さんなんかに売れるかな~」
「どれ、どれ、これは、、、時計か、なんじゃこれは1分計と曜日もでるじゃないか、見たことのない金属だか銀ではないし、こんなりっぱな時計は見たことがないどのくらいするかわからんが、、、」
「おそらくそれはステンレス合金だよ、さびないからね。この時代ではまだ未知の合金かも」
「これを売って会社の立ち上げ資金とか、未来からもってきた品物の国産にする為の研究費用をつくりたいんだけど。」
「だれか外人さん紹介してくれない。」
「う~ん これは何個あるのじゃ、」
「40個かな、、」
「英国の商人から確か、今週の金曜日に誕生日のホームパーティに呼ばれておるわい、お前さんも通訳としていっしょにいくか。日本の商工会からも誰かでると思うけど、、タキシードはもっているのか?」
「当然、英国の大学では伝統的なパーティーもあるから、なんか有名な仕立て屋さんで一見さんお断りのところにつきあってた彼女のパパからの紹介で作った一生ものがあるから、それを着ていくよ。」
「よし、わかった4日後の2時頃、儂の家に来い馬車で行くぞ。」
「それとこの時計は儂に売ってくれないか。」
「え、、それはできないよ俺と姉さんの事で先生にいろいろ頼んでいるから、その時計は先生が使ってくれよ。むこうでは20万円位だからこっちだと10円位
かな?」
「なに~そんなに安いのか、だけどこっちでこんな精密な物が作れないからこの合金の事も考えると500円以上はすると思う、英国人ならポンドで売った方が
いいぞ交換率でうまくすればもっと高くなると思うぞ。」
「そうじゃ、ここの土地はこの時計のお礼に儂がこうちゃる、家屋敷の敷地だけでなくこの周りの雑木林ごと全部こうちゃってやる。それでどうじゃ」
「明日の午後から町の役場にいっしょにいこう、その時にお前さん達の戸籍の件と土地の件をかたづけるか」
そう言って渋沢先生は一人で決めてくれた。
俺はこころの中で感謝した。
”ごっつぁんです”
“尚美”
上杉先生が18:00の列車で本郷に帰るというので、私はもう少し話がしたいので駅まで送ることにした。結城もおじ様も愛子ちゃんは落ち着いているし大丈夫という事で駅までの20分程歩きながら話した。
「尚美師匠、あのペニシリンはこの時代でも作ることができるでしようか?」
「だいじょうぶよ、特殊な青カビがあればこの時代でも作ることができるわ」
「この先の未来では抗生物質はいろいろなカビの菌類から効果のある成分を調べてペニシリン以外の抗生物質もつくれるのよ。」
「そうね、この時代でいう労咳も土壌にある放線菌と呼ばれる粘菌をいろいろ調べれば効果がある成分があるはずだから作れると思うけど」
「未来では労咳は結核という病名で呼ばれておりストレプトマイシンという抗生物質で治療しているの。家の医院にも常備しているけど未来から持って来た薬も限界があるから上杉先生からも協力してもらい、早くこっちの世界でもつくっていければいいと思っているわ。」
そんな薬の話をしていたら急に上杉先生が立ち止まった。
「労咳を治療する薬を師匠はお持ちなのですか!!」
「ええ、医院に常備しているわ。」
「私は根岸短歌会という俳句の好きな同好のものが集まる会に入っているのですが、その会の主催をしている私の師匠が長く労咳を患っておりまして、あともって1年から1年半くらいなんですが、なんとか尚美師匠。お願いします。 診察していただけないでしょうか」
私は上杉先生の突然のお願いに電気が走ってしまった。
「そ、そ、その方の名前は、、、、、」
「はい、正岡子規、本名は正岡常規といいます。」
キ、キ、キターーーーーと私は身長160cmの上杉先生の背中をバン、バン、バン、と叩いた。
彼は前にひっくり反ってしまった。
“グッジョブ、、上杉先生”歴女尚美
つづく、、、、