第78話 女帝の出戻り
直列2気筒の500cc排気量の水冷エンジンが排気管から爆音を立て風間発動機のレースコースを吹っ飛ばしていた。
それをバイク開発室の河野、五十嵐、吉田の三人が見ていた。
しばらくのあいだは銀座の仕事でバイクチームの開発にこれなかった玲子に三人は自分達で出来上がったバイクの調整をしてきた。
エンジンブロックは川崎にあるグループ会社の製鉄所が結城さんから資料をもらい熱に強い素材を鋳鉄にした、鋼鉄のブロックをすぐこちらに納品してもらい夏に届いた米国製のパワーがある研削機で、ブロックから正確な円をくり抜きシリンダーを作り米国製の鏡のように内部を仕上げる研磨機もつかいピストンとシリンダのスキマを綺麗に仕上げた。
この工作機械により今までの作業効率もあがり精密なエンジンが作れるようになった。
ほかにもステンレス素材の部材やタイヤのホイールに本体のフレーム素材も今までのただの鉄ではなく合金素材が提供されてきたのである。それらを使い孝蔵の図面にそった部品を作り2週間前には出来上がり、我々だけで試走を繰り返し玲子さん好みに調整をしてきたのだ、、、
彼らの前にそのバイクを勢いよく滑り込ませてメーター脇のキィーを横に回しエンジンを止めてリアタイヤの脇のスタンドを立てバイクから降りた黒い革ジャンを着た玲子は真っ赤に塗り直したフルフェィスのヘルメットを勢いよく取り外し少し短い髪をかきあげて
「すごいじゃ~ん、こんなにスピードが出るとは思わなかったわ、調整もされてて言うことなしよ、この真っ赤なカウルも素敵、申し分ないわ、、」
おっぱい孝蔵
「例の秘密兵器はどうでしたか、、」
「ビックリ、、分かっていたけど、、スイッチを入れたらいきなり加速して体が持っていかれちゃたわ、、最高よ、、」
「これさえあれば、どんな奴にも負けないわ、、あとはスペア部品や消耗品を用意していよいよ欧州に乗り込むわよ、、」
河野元リーダー
「玲子さん、俺は残ります、今回の製造技術でいよいよバイクの量産化をすることになりました。 まずは250cc空冷単気筒のオフロード走行用の偵察バイクを試作して軍への売り込みと、海外と国内用で、このバイクのレプリカで250ccクラスを製作することになりましたのでそちらにいきます。こいつら二人を連れてってください、」
「わかったわ、、がんばってね、、
「そう言えば、これを運搬する車はあるの、、」
吉田
「大丈夫です、、結城さんが関わっていた車両部門がすでに軽トラックの量産型ができていましたので、それと大人4人は乗れるワンボックスもできていますからそれで欧州を転戦して日本の発動機が優秀なことをPRして来いと言われております。」
「フフフ、、わかったわ、、いよいよね、、それじゃ年明けにすぐ出発よ、」
おっぱい孝蔵
「あの~、、向こうの言葉は大丈夫でしょうか、、俺達はかたことしか喋れません、」
「あ~、、そっかわたしも英語はちょっとしかわからないから、、ユウちゃんの人材派遣で英語の得意な人を借りてくるわ、、任せてちょうだい、、」
こうして玲子の夢だった欧州のバイクレースに参戦するためのチームが結成されたのである。
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日帝大医学部
尚美
手術場や教授関係者に挨拶して久しぶりに医局に行くと、、、
「サリバン先生~、、お久しぶりです、、」
洋装の姿で髪を伸ばし横分けした見慣れない青年が親しそうに声をかけてきた
「あんた、、だれ~?、」
「僕ですよ、、いやだな~、、忘れたんですか、、いつもサリバン先生にお茶を入れたり身の回りの世話をして最初の手術にも勝次先生と一緒に入ってすい臓ガンを触らせて指導してもらったじゃないですか、、」
「あ~、、やだ~、まるぼうずで着物にはかまの井上清君、、すっかり洋装に変わって髪も伸ばし別人みたい、、あれから腕はあがったの、、」
「あたりまえじゃないですか、、サリバン先生に鍛えてもらって、今では後輩もいますよ、、ハハハ」
「そうなの、、またお世話になるわね、、それより医局長の北大路先生はどこにいるの、、」
「ハイ、、新しできたX線レントゲン室です、、案内します。」
そう言われて私は医学部の附属病院に新しくできたX線レントゲン室にやってきた。そこは普通に木造の資料室だったところを改造して部屋の真ん中に装置が置かれており近くにはすでに現像室があった。
”えっ、、なんで、こんな部屋でエックス線撮影していいの、、普通の部屋じゃないの、、”と思いながら部屋に入ると少し小太りで鼻ひげを生やし眼鏡を掛けた洋装の上に白衣を着た医師がレントゲン装置を調整していた。
「北大路医局長お忙しいところよろしいでしょうか、」と声をかける井上医師
「あ~、、井上君かだいじょうだよ、、どうしたんだい、」
「外科の医局に所属しております。サリバン先生が軍医学校の高橋勝次先生のお手伝いから戻りまして、また復帰することになりましたからその挨拶に伺いました。」
大人の挨拶がりっぱにできるようになった井上清にビックリしながら
「サリバン尚美です、、第三軍の従軍医学生の研修が終わりこちらに戻りました。よろしくお願いします。」
「ああ、、上杉教授から聞いております、大変優秀な医師だそうですね、、フフフ、、欧州の英国で医療の勉強をしてきたそうで、、やっぱり欧州は進んでいますよ、僕もこのレントゲン装置には驚いていますからね、、体の中の様子をなんの痛みもしないで診断出来ますからね、、上杉先生の労咳治療もりっぱなことですがこの装置があれば労咳患者の早期の発見や治療の効果もわかりますよ、、ハハハハ、、」
「どうですか、、サリバン先生もその薄い胸の撮影をして肺の様子を診断しますか、ハハハハ、、胸が薄くてなんも写らんかもしれんなぁ~、ハハハハ、」
サリバン先生をよく知っている井上清先生すばやく殺気を感じて尚美の後ろに移動する、、
”このセクハラやろ~!!、人の気にしている事を一度ならず二度も平気で言いやがったな~ 、”
「あら~、、やだ~、、先生こそだいじょうぶですか、、まだお若いのに放射線を浴びすぎて頭の毛がだいぶ抜けてきて薄くなっておりまよ、ホホホホ、」
顔を真っ赤にして怒り出す北大路先生
「バ、、バ、バカモーン、頭が薄いのは遺伝だ、、おなごから言われることではな~い、、それになんで放射線が髪の毛に影響するだ!、、」
「え~、、やだ~、先生、、独逸では勉強してこなかったんですか、、」
”そうよ、この時代はまだエックス線などの放射線などの被曝による健康被害についての知識があまりなく平気でエックス線感光器に素手で触り調整をしたり
あの有名なキューリー夫人もラジウムなどの放射性物質を、素手で扱うことが多く、防護対策を殆ど行わなかったため長期間の放射線被曝による再生不良性貧血が死因であると言われているのよ、、この北大路先生もまだその危険性は知らない、、”
「最新の研究でエックス線のような放射線はとっても体に悪いんですよ、、患者さんのように年に2~3回浴びる程度は問題ないんですけど先生のように何も知らないで毎日被曝すると、放射線の影響で脱毛してハゲになったり手の皮膚炎や皮膚がんに血液障害,最悪は白血病でなくなったり、、それに精巣にも影響して子種ができなくなりますよ、、先生は御結婚はしているんですか、」
「な、、な、なんだって、そんな事はぜんぜん教わってこなかった、、ほんとうか、、結婚は3年前にしたが、子供はまだできない、、」
「え~、それで子供ができないのか、子種がないのか、、どうしよう、」
”フンッ そんな事知らないわよ、、”
「被曝防止には鉛の素材でできた防護服を着ればいいですわ、それを着て室内で操作するのです。」
「あ~、、そいえば私が英国で使っていたX線防護衣が自宅にありますけど、どうしようかしら、、フフフフ、」
”実家の医院には当然レントゲン室があり未来のX線防護衣が何着もあるのよ、”
「ほんとか!、助かった、それを着れば安全なんだな、サリバン先生お願いだそれ貸してくれ、頼むよ、、」
「ええ、、いいですわよ、先生がこの医局のルールを守ってくだされば、、」
「え、、その医局のルールとは?、、」
私は井上清の方を向いて顎で指示した。
「あの~、北大路先生、この医局では上杉教授とこのサリバン先生には常に忖度して頼み事や依頼ごとがあれば嫌な顔をしないで笑顔で”御意”と叫び一礼しなればいけないんですが、、他の医局でも流行っていますのでよく見かけませんか、、」
「あ~、よくあっちこっちの廊下で見る、、”御意”、あれね、、」
「別にいいんですよ、先生のハゲが進行しても私は関係ありませんから、さ~挨拶もしたので、井上先生もう行きますか~、」
「ああああ~、”御意”、”御意”、、”御意”~ お願いします、、X線防護衣貸して下さ~い、、」と半べそを見せながら土下座する北大路先生だった。
”フフフ、、勝ったわ~、、今日からあなたもしもべよ、、”
こうしてまた日帝大医学部の外科の医局に女帝は戻ってきたのである。
つづく、、、、