第76話 サリバン尚美、医学部に戻る
結城
渋沢先生が帰ったあとに、俺はこの世界は前にいた時代とはちがう歴史が、急に動きだしてきたことに気が付いた。確かに姉さんが関わって作ったペニシリンやストレプトマイシンによって、大勢の命が助かっても歴史が大きく変わる事はなかっただろうが、これから俺が思っているようなことが満州で起きたらまるっきり歴史は変わる。こうなれば少し遠慮はしていたが、この時代の技術でも開発できる近未来の製品を惜しみなく開発しようと思った。
風間発動機 社長室
「お疲れ様です。乃木大将の人気はすごいですよ、、結城君は乃木大将にあってきたんですか?、、」
「はい、姉さんの関係で少し、、あと防弾装備の関係で感謝されましたよ、」
「あ~、川崎の製鉄所の江崎社長のところで作ったヘルメットでしたっけ、、あと防弾ベストとか言ってましたね、やくにたって大戦果じゃないですか、」
「いや~、、乃木大将の戦術がすごかったんですよ。ところで車の構造についてはどうですか勉強になりましたでしょうか、」
「フフフ、もう4速の変速器を備えた600ccの4気筒の水冷エンジンと骨組みの下部のフレームだけですが仮の車体ができましたよ、まだボディーは結城君が帰ってきたら相談しようと思っていたのでエンジンと変速器は丸見えの骨組みだけですが見てくれますか、、」
そう言われて俺と社長はでかい工場の組み立て場所に置かれた車を見にいったとってもよくできていて俺は驚いた。三か月程で立派な試作車ができていた。
仮の座席に座り操作すると変速器もクラッチの滑らかな操作で四速が入り、外のコースを走らせてみたが時速60kmは軽くでた、まあこの時代ではこれでもすごいことであろう。
俺はこいつをワンボックスのバンのように後部座席を倒せば、後部は沢山の荷物も積めて座席を起こせば大人が4人乗れる汎用性の高い車と、雨で必要があればキャンパス生地とフレームで屋根を覆える軽トラックの二種類で売りだす事にした。
さっそくボディーを製作するための設計チームが来たので、前に用意していたダ〇〇ツのハ〇ゼ〇トのバンとトラックの形状や構造の資料を渡してなるべく似せて作ってくれるように頼んだ。
まだまだ大衆車なんか今の日本人には無理だろ、動力付きの自転車がやっと庶民の手が届く価格だ。まずは会社で使える低価格の業務用の車両なら売れるだろう。そしてこれを英国と米国の商社を通じて輸出するつもりだ。
日本の安い人件費やこの軽車両の利便性を考えると向こうのデカい車両に対して勝負できるのではないかと思った。
「風間社長しばらくはこの軽車両を車販売の中心にして、、次はこれから主力となる大型エンジンをいくつか開発をしたいんですけど、」
「フフフ、、やっとデカくて馬力のあるエンジンを作るんですね、、わかりました。」
「はい、旅順で装甲戦闘車両に興味がある士官と出会っていろいろと話が盛り上がってしまいました。、、フフフフ、」
「それじゃ、、飛行機のエンジンもですか?、、」
「はい、、これから未来の資料を用意しますので、この時代の技術で作れるものでなおかつ、世界のレベルの5~10年は先にリードした技術の製品を作りたいですね。」
「それに大型エンジンがあれば、乗り合いバスに土木工事や建築工事などの特殊工事車両にも幅が広がりますよ、、そのためにこれだけの広さの土地と工場を用意したわけですから、、
「それは楽しみです、、今の600ccエンジンの開発が終わったので、エンジンチームをその大型エンジンの開発に専念させますよ、、資料お願いします。」
「そういえば、国産タイヤがまだないので玲子さんがタイヤをこちらで作れないか聞いてくれって言われました。」
「あ~、、そうか、まだ国産がないんですか、今どうしているんですか、」
「外国から製品を買っています。、英国製のダンロップの話しをしたらびっくりしていましたが、、」
「え~、、ダンロップはもうあるんですね、、」
「わかりました、ダンロップと交渉してここに日本工場を作りましょ、土地と建物をこちらで用意すればすぐに飛びついてくるでしょ、ここに工場があればいろいろな規格のタイヤが作れるし便利になりますからね、私の方で知り合いの英国商社から連絡して確認してみます。」
「そうしてもらうと玲子さんも喜びますよ、、頼みます。」
こうして俺は真田中佐と話していた戦闘車両のまず第一歩を踏み出した。
用事を終えて外に出るとレース用コースを一台の大型バイクがまだ舗装が間に合ってないコースを、作業着を着た男性が凄い爆音を立て走行していた。近くでは二人の青年がそれを観察するように見ていた。
ミニバンを走らせ河川敷に行くと800mの滑走路の整備は終わっていた。これについても小型の飛行機の製作を考えていた、あと10年もすると第一次世界大戦では複葉機の戦闘機が戦場を飛び回り命をかけた空戦が始まるのだ、150~200馬力のエンジンで時速200kmほどの複葉機が空を舞い戦うわけだが、俺はジュラルミンやアルミを多用した全金属の固定脚の単葉機でそれ以上の性能がある戦闘機を考えていた。
それに無線機もつけて砲兵との連携やデカいフロートを付けて船からも飛ばして戦闘艦からの砲撃観測などにも、利用できればと考えながら丸の内の事務所へ俺は車を走らせた。
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東京小石川の東京砲兵工廠構内にある陸軍技術本部
南沢岩吉技術大尉
ここは陸軍兵器及び兵器材料の審査、制式統一、検査を行い、また陸軍の兵器技術の調査や研究開発、試験を実施し、その改良進歩を図る日本陸軍の機関である。
私は部下の鈴木文次郎少尉といっしょに第三軍の旅順要塞攻略における兵器の性能やまた新兵器の開発に必要な兵士の生の声を聞くために激戦地だった、旅順へ調査にいってきた。
向こうにいって驚いたのは、兵士の全員が深い皿をひっくり返したようなカブトで、頭部を保護する鋼鉄でできたヘルメットと呼ばれるものを装備していた
何人かの兵士から聞くと上空で爆発する榴弾の破片にとても有用で、これによって頭部の負傷や致命傷でなくなるような兵士はほとんどいなかったそうだ。
不要なものをいくつかもらってきて中を見たら製造販売元が五条商会になっており連絡先がシールとなってしっかり貼ってあった。他にも見慣れない金属にサンドされたセラミックという固い素材の陶器によってできた防弾のベストがなんと敵の銃弾を受けとめていたのである。
一人で何発もの銃弾がくいこんだとんでもない兵士から、その防弾ベストをもらってきたがしっかりと銃弾が止まっており、その先がつぶれてちょっと頭をだしていたが、その兵士はでかいアザができただけと話していた。
こんな話を上司が信じるかどうかわからない為にこの現物をもらってきた。
これがあれば四肢や首から上にあたらなければ死んじまうことはないじゃないか、びっくりしてしまったこれにも五条商会のシールがしっかりと貼ってあった。、、いったい何者なんだ!
民間人がこれらの有用な命を守る個人装備として四個師団が第三軍に編成される前に訪ねて、説明して配布していたのである。北海道の第七師団なんかは今年の8月に決まったんだぞ、なんで第三軍に配属されるかわかっているんだよ
その説明に訪れた人物の名前は五条結城、、このシールの会社の社長だ、この五万人に及ぶ防弾装備は国内の各企業によって国防のために積み立てられた寄付金を集めて、陸軍に献納してもらった装備だ、あまり詮索しない方がいいようだが、、、、
これらの装備が塹壕戦においては非常に有効だということはよくわかった。こんなものを考えたこの五条結城に、ぜひ他に有用な兵器改良についての考えを聞いてみたくて時間ができたら訪ねようと思った。
他に兵士からは手榴弾の評判は良かったがもう少し火薬を増やしてほしいと言われ、他にも煙幕がでるようものとか遠くへ飛ばす装置がないか聞かれたがバネをつけた筒から、手榴弾を飛ばす事はできそうだ。
それからやはり塹壕戦では相手の機関銃砲座が一番の脅威でここをつぶす為の兵器を考えてくれと頼まれた。遠方から正確に相手を倒せる兵器が必要だスコープを付けた狙撃銃とかで攻撃するか、、、
もう、これからの戦いはこのような鉄条網で守られた塹壕に突撃すれば兵士は機関銃の標的でしかないという事がよくわかった、、、我が国でもマキシム機関銃に負けない兵器を開発しなければならないと思った。
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尚美
私は日帝大医学部の上杉教授の部屋に来ている。午前中は玲子や他の社員に帰国の挨拶をしてきたので午後からは上杉先生と城島先生に挨拶にきたのだ。
城島先生はストレプトマイシンの生産で大忙しだ。すでに近郊の保養施設すべての命の時間が残り少ない患者を優先して治験対象にして効果をだしている。
マスコミに気づかれるのも時間の問題のようだ、、
上杉教授
「師匠、お疲れ様でした。、大変でしたでしょ、、」
「ほんとよ~、とんでもないロシア兵がいて武器をもってない衛生兵を狙って何人も殺されちゃって大変だったんだから、、」
「エ~、そんな殺し屋みたいな輩がいたんですか、、でも師匠ならギャフンとやっつけたんでしょ、、」
「あたりまえでしょ、、私の愛用している外科用メスをこれでもか~と相手の急所に投げて命中したわよ、すごかったんだから、フフフフ」
「さすが、師匠~、、すごいですね、、」
「まあ、、それはいいんだけど、軍医学校の生徒が戦場に応援で借り出されているんでちょっと暇なのよ、たまには血を見ないと腕も錆びるからさ、、症例検討会とか医局とかにでて手術とかしたいのよ、、あとで手術場にも挨拶してくるからさ、、」
「ぜひ、、お願いしますよ、師匠の机はまだありますし外科の医局には在籍している事になっていますから遠慮しないでください、、」
「あと師匠がいない時に、独逸に留学して最新の外科治療とレントゲンの技術を取得して帰国したとんでもなく優秀な北大路秀一医師が、あたらしい医局長としております。」
「京都の島〇製作所において、医療用のX線装置が開発されて、この日帝大医学部にもその器械がはいり、北大路秀一医師がその技術指導者にもなっており天狗になっておりますから、、未来からきた師匠と喧嘩しなければいいんですけどあまり北大路先生を泣かさないようお手柔らかにお願いします。」
「フフフ、、なによ~、それって、まるで私がこれからその先生をいじめるようじゃないの~、、そんな事しないわよ、、」
(上杉先生よくお分かりで、その通りです、)いつも虐待される結城
こうして尚美はまた日帝大医学部に戻り、銀座の仕事とたまに外科医として頑張ることになったのである。
つづく、、、、