第72話 旅順の最終決戦その1
1904年10月
大迫 尚敏中将率いる第七師団(北海道)が旅順要塞攻略の為に送られてきた。
この北海道からきた、第七師団、明治の時代この第七師団の「七」は、「なな」ではなく「しち」と読むなぜ陸軍第七師団は「だい"しち"しだん」と読まれていたかと言えば1896年(明治29年)5月に第七師団が創設され、明治天皇が初代師団長に永山武四郎を任命した際、「しち」と読んだのが由来である。
史実では最強と呼ばれ今の自衛隊においても最強の師団である。その伝説が生まれたのは、この史実での日露戦争で203高地の戦いに投入され激戦のすえ203高地を奪取したのがこの師団であり、戦闘終了時の203高地攻撃隊の残存兵力はたった900名、死傷者の割合は6割を超えていたことから、それだけ勇敢に味方の屍を越えて突撃していったのである。その大迫尚敏中将率いる第七師団の兵士達が旅順に到着したのである。
参謀本部からの旅順要塞のロシア軍情報が全くのでたらめで、強固な要塞攻略とわかりその支援で派遣された第七師団これにより第三軍は最後の目標である
東鶏冠山北堡塁や二龍山堡塁と盤龍山堡塁を十分な兵力がある第十一師団、第九師団、第七師団で同時に攻撃してこの旅順の戦いを終決する覚悟で望んだ
この情報部のロシア軍の配備状況が意図的に操作されたことは参謀本部において隠ぺいされ第三軍には知らせてなかった。
工兵中隊、矢島佐平大尉
我々工兵隊は各師団から前職でトンネル工事や炭鉱での作業経験がある将兵が集められての、坑道掘削臨時部隊を傘下に組み込み24時間かけて何本もの坑道を掘った。
東鶏冠山北堡塁や二龍山堡塁と盤龍山堡塁の隠されていた堀に向けての爆破用坑道ができた、これにより敵の強固な堡塁内部への突撃進入路ができ我々の犠牲も少なく突入できるだろう、爆破火薬は失敗を許されないのでそれぞれ2tの爆破火薬を敵陣の地下に仕込んできた。これが盛大に爆発したらきっと山の形もかわるであろう。
私はこの盛大な爆破で死んでいくロシア兵を哀れんだ、、
第九師団歩兵第七連隊加藤中佐
私は今、双眼鏡で自分の攻撃担当である盤龍山堡塁を見ている。敵のべトンの堡塁に二十八糎榴弾砲が着弾するとドカ~ンとデカい音が響きべトンの破片がふっとんでいくのが見えた。他の野砲ではべトンで固めた要塞にはそこまでの被害がでないが、さすが二十八糎榴弾砲である。この戦いの為に十分な量の砲弾が用意された。
作戦では今日1日、18門の二十八糎榴弾砲と第三軍の配備された全ての野砲と重砲120門による一斉砲撃を東鶏冠山北堡塁や二龍山堡塁と盤龍山堡塁に向けて盛んに砲撃している そして明日の早朝6:00に坑道に仕掛けた。爆薬で敵の堀をぶっ飛ばして敵の堡塁に突入して白兵戦をするつもりだ。宿営地で部下達は銃剣を磨いてその時を待っていた。
第九師団 救護所
診察所の椅子に腰かけて、あくびをしている尚美
”あ~暇だわ、明日は総攻撃で忙しいけど、、今日は何しようかしら、、やっとあの馬鹿二人も一応使えるように飼育したからな~、早くこの戦い終わんないかな、”
そこへ庄吉と一郎が
「先生、ガーゼと包帯の洗濯が終わり干しておきました。」
「早かったわね~、どれどれ、、」そう言って私は診療所のテントの脇のロープが張った洗濯の干し場にいくと、
「なんじゃこれは、、水滴がボタボタと落ちてんじゃねいか~、、おめら~ちゃんと絞ったのかよ~、、」
「えっ、、洗って掛けとけって先生が言うからその通りです。」
「バカヤロ~、、」と右手を拳で振り上げたがそこでやめた。また折檻と言われそうだった。
「洗濯なんかしたことないだろう、お前ら、これじゃいつまでも乾かないからちゃんと絞って伸ばしてから乾かしなさい、、」
「オッケ~、、了解、、」と二人はもう一度、ガーゼと包帯を取り絞って干し直していると、、
「すみませ~ん、、こちらに白井一郎君はおりますか~ 」と艶のあるハスキーボイスの渋い声が聞こえ私が振り向くとそこに背の高い切れのある体で鷹のような鋭い眼光だがなぜか惹かれる目をして鼻ひげもしないできれいに剃られいる将校がそこに立っていた。
”バキューン”と32歳の私の心臓は一発で打ち抜かれた。
一郎も気が付き
「あっ、真田のおじさん、じゃなかった真田中佐殿、お久しぶりです、、どうしたんですか、」
「いや~、姉さんからお前が医学生でこちらにくるから面倒見てやってくれと手紙に書いてあったけど、なかなかこれなくて、元気かどうか見に来たよ。」
「あっ 軍医学校の先生ですか、、私は第一師団第二連隊の真田海翔です、この一郎の母親が私の姉でしてそれで様子を見に来ました。」
「カイト、海翔、すてきなお名前です、、」心臓を一発で打ち抜かれその名前を聞いたら二発目がまた心臓を打ち抜いた、、、私は可愛い子猫に化けた、、
「いや~、親は海軍に入ってもらいたくて海を付けたんですが、、期待に添えず陸軍に入ってしまった親不孝の息子ですよ。ハハハ、、」
「外にある、発動機付の自転車は先生の私物ですか?、、」
「えっ、、そうです、、アッ、私の名前は五条尚美です、、尚美と呼んでください、、」ニャ~ンと可愛い子猫のように返事をする尚美
それを見ていた庄吉が
「先生、、声が変です、大丈夫ですか~、、」
尚美
”チェッ、このくそガキ~、余計な事いいやがって、だまってろ~”と振り返ると一瞬で化け猫の私は夜叉のするどい目で庄吉を睨みつけた。
その殺気を感じた庄吉がおとなしくなり、、
「真田中佐殿は発動機に、ご興味があるんですか~、、」ニャ~ンとさらに磨きをかけた子猫で聞いてみた。
「はい、最近は特に、見せてもらってもいいですか、」
「どうぞ、、どうぞ、、乗ってみてください、」これでもか~と一番の笑顔をつくり原付自転車に近づく二人
そこへ、、これまた暇な結城がやってきた。
「姉さん、、何してんの、、」
「あ、結城、こちらの真田中佐殿が発動機に興味があるそうよ、、教えてあげて下さる。」
結城
”下さる?・・・ゲッ、声が違う、なんか目も金沢で見た恋する目だよ~、、またかよ~”そう思いながら俺は二人に近づいた。
「私の弟の五条結城です、、東京の王子で風間発動機という会社の手伝いをしているんですよ、何でも聞いてください、、」
「エ~、あの三輪タイプの軽貨物用の原動機付自転車をだしている風間発動機の関係者でしたか、あれは便利ですよね~軍に採用しようかと思いましたがフレームがやはりこのような荒野だと強度の問題あって、、、ボツになりましたが、、」
「そうでしたか、まあ、あれは都会の道でしか使えませんが、、真田中佐殿、どうぞ、これに乗ってください、、」
「これはいいですね、、、足を上げて跨がなくてもいいから女性にも便利ですね、、」
「そのグリップを握りながら右足のタップスターターのペダルが固く感じるまで踏み込んでください、それを緩めるとエンジンがかかります、こっちのグリップは回すとスピードがでます、、これがブレーキになります。」
簡単に俺は操作を教えてそばで見ていた。、、真田中佐はすぐにコツ覚えてテントの周りをグルグルと爽快に走り出した。
「すごい、、すごく早い、、やあ~、、楽しいな~、」と子供のようにハシャギながらしばらく走るとまた近くに止めて降りてきた。
「や~、これはいい、もう個人的に内地に帰ったらすぐ買いに行こうと思います、、ハハハ、」
「実は、このロシアとの戦争が終わったら、こういう発動機を使って鉄の防御板で回りを囲み敵の機関銃や砲撃から兵士を守りながら敵陣に攻撃できる兵器が作れないかと思っていました。先日の203高地でずいぶんと優秀な部下を亡くしてからはさらにその思いが強くて、兵器開発する部署に異動しようかと思っております。」
「もっと馬力のある発動機は作れるもんですか?」
”キタキタキタ~、、俺は、いまの馬鹿みたいに突撃だけが攻撃の仕方だと思っている陸軍にこういう先見の明がある人材はあまりいないと思っていたがここにいた~、、とうれしくなった。”
「できます、、作れますよ、どんな場所でも動けるキャタピラーという物を装備して車輪の代わりに動かし鋼鉄の装甲をまとい敵の機関銃なんか全部弾いてそれに搭載した機関銃や小型の大砲で敵を粉砕するとんでもない兵器を、、」
「え~、そんな兵器作れるんですか~、まるで戦う車じゃあないですか、」
「そうですよ、その、戦う車、、戦車ですよ、ぜひ風間発動機でいっしょにつくりましょよ真田中佐殿、、、」
そう言って俺は真田中佐と近未来の兵器について話が盛り上がってしまった。
そばでは姉さんがず~と真田中佐を恋する瞳で見つめていた。
つづく、、、、