第7話 上杉医師 その1
第7話です。 愛子ちゃんの治療は順調に行っています。
それでは始まります。
”上杉医師”
渋沢先生に同行してお嬢さんを、この洋風の医院の治療台に寝かせた。
治療している間は静かにしてください。と言う事なのでだまってみていた。彼女は見たこともない容器からそそいだ薬剤を、針のない注射器で傷を洗浄していた。
それが終わると、お嬢様をとなりにあるベッドに寝かせ、脇に立っている支柱の先の棒に先程とはちがう薬液が入ったバックをぶら下げた。片方は5%ブドウ糖液と書かれており、片方は合成ペニシリン溶剤と書いてあるのがわかった。これが先ほど彼女がいっていた敗血症の治療薬ペニシリンなんだと思った。
その後の行為に私は驚いた、血管に針を刺しとても細いチューブを血管内に残して薬液とつながった透明なチューブをそこにつないでしまったのだ。それも 何のためらう事もなく職人のように血管とチューブをあっさりつなげてしまったのだ。こんな事は帝国大学医学部でも教えていないし、こんな薬も見たことがない、ぜったいこのような事は私にはできない。
その行為に見とれていたら、弟さんが見たこともないガラス板がはまった精密な機械から配線をいくつか取り出し、お嬢さんの体のいろいろな場所につないだ。いったい彼は何をしているのかさっぱりわからなかった。それから続いた尚美さんや弟さんの行為について私は考える事をやめた。チンプンカンプンとはこの事だ。
”尚美”
私はこの時代の人にも分かりやすいように、愛子ちゃんに施した治療の事を説明した。
「最初におこなったのは化膿した傷口の洗浄です、生理食塩水という体の中の水分と同じような液体に傷口のバイ菌を殺菌する薬をいれて清潔な状態にしました。そしてまわりからばい菌がはいらないように、抗菌剤の成分が入ったガーゼで傷口を保護しました。」
そして点滴の話しをする時に私は思い出してしまった。確かこの時代に点滴療法はまだなかったはず、大正時代に入ってから一般的になるはずだった。あちゃ~、ま、いっか!これから日本中に広めようウン、今日が世界で初めての点滴治療をした日として歴史に残そう、、ウフフフ悪い女だわ。と私は思い説明を続けた。
「次に体に入ってしまったばい菌を叩くために血管にペニシリン系の薬剤を少しずついれていきます。これはしばらく続けます。もう一つの薬剤は、愛子ちゃんが昨日から食事もとらず発熱で体から水分が汗となってなくなっているのでばい菌と戦う為の栄養と体からなくなった水分の補充です。なぜ補充しなければいけないのかくわしく説明すると、人の体の水分量は体重の約60%であり、体内の水分は血液の循環や栄養素の運搬、体温の調節など、様々な生体機能を支えていますが今の愛子ちゃんの体はこのバランスがくずれてしまった状態です。それを正常にする為に血管から直接、輸液剤をいれております。これを点滴療法といいます。」
「治療として行った事は以上です。」
「あと弟の結城が愛子ちゃんに取り付けていたセンサーは体の状態をリアルタイムで監視する装置です。」
「容態が急変したら大きな音を出して知らせてくれます。」
「それと血液を採取して特別な器械で血液の中の成分を調べます。白血球という成分の量を調べると炎症が起きているかどうか分かるからです。結果としてこの数値は正常よりも高く炎症が起きていることがはっきりしました。この数値を下げていく事で治療の効果が分かります。」
「そして最後に肺の状態を調べるためレントゲン撮影をしました。」
そう言うと結城がノートPCの画面を二人に見せた。
そこには愛子ちゃんの肺のレントゲン画像がきれいに映っていた
「ここに少し影が見えるのが炎症している部分です。」
「血液の検査でも炎症をうらづける数値がでておりますから、これから一晩中、薬液を血管にいれて体を正常な状態に戻したいとおもいます。」
そう説明して二人を見ると、渋沢のおじ様は私達の正体を知っているので少しにやりと笑っていたが、隣の上杉先生は口をあけて唖然としていた。
パキ、と缶コーヒーのプルタブを開る音が響き、結城がそれを私に手渡ししてくれた。
私はソファーに座りそれをゆっくりと飲みはじめた。
時計を見たら夕方5時だった。
上杉先生が正気にもどり静かに聞いてきた。
「あなた方は何ものですか? ここにあるものはどこからもってきたものですか!」私はこの二人の様子やここにある精密機械を見てとてもこの世界のものとは思えなかった。
俺は姉さんの顔と渋沢先生の顔をみてうなずき上杉先生に話しはじめた。
「上杉先生、私たち兄弟は125年後の未来から来ました。いま見てもらった機械や技術、医薬品は2025年のテクノロジーです」
そう言って俺はもう一度、昼に渋沢先生に話した事を上杉先生にも話した。
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すべてを話し終えると渋沢先生が横から話しかけてきた。
「上杉先生びっくりしただろう、儂も最初は信じられなかったが彼らの技術はまちがいなく未来の”てくのろじ~”とかいうものだ、いまも見ただろ。愛子の体の臓器があのように簡単にガラスの板に映し出すことができるのだ。」
「こんな技術なら月にでもいけるんじゃないか。」
「あの~月にはこれから69年後に何人も行きますよ。125年後は火星に人を送る計画をしています。」
俺がそう言ったら、渋沢先生は飲んでたお茶をふきだした。
「なに~ 月島の月でなく、あの天空にある月の事だぞ!」
それを聞いていた上杉先生と姉さんが吹き出した。
「ですからその月ですよ、米国でアポロ計画という人類初の月への有人宇宙飛行計画で確か1969年の7月に人を月に送り、米国の国旗を立て、月の石をもって帰ってきたんですよ、その時最初に月に立った人の有名な言葉があって(これは1人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩である) と言ってTV中継で世界中が感動してましたよ。」
「本当にあの天空の月に人が立ったのか、、いい言葉だの~」
”彼らは知る事はできなかったがこれから60年後、9年も早く日本人が最初の月面着陸をして日本の国旗を立てて同じセリフを言うのである” 天国の父より