表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/135

第64話 旅順の戦い その1 

いつも読んでいただいてありがとうございます。



それでは、、はじまり、、、はじまり、、、


1904年8月


大頂子山は旅順要塞の外輪に当たり、二〇三高地の前にそびえるように位置していた。当時はその標高から一七四高地とも呼ばれてロシア軍はここに他の堡塁のような堅固な陣地ではなく簡易な陣地でしかなかった。


第一師団は乃木司令官の作戦変更により余裕ができこれでもか~と重砲や野砲での砲撃で塹壕ごと敵兵を吹っ飛ばし最後は銃剣突撃により一日でここを占領することができた。



若頭大庭 丈一郎

ここの203高地に取り付いて10日目だずいぶん交通壕が進んでいる予定の半分は来ていた。出来上がったところは塹壕のように土嚢を積み上げ胸の高さはあありそうだ。


俺達はその交通壕を掘り進んでいる工兵を守るためきた中隊に所属している約200名程の仲間がここに張り付いてる1日12時間の交代だ。そして2日休むとまたここにくる事になる今日は朝までだ、今は夜11:00を過ぎた近くには留吉や市蔵さんや栄吉さんも銃を構えて眠そうな顔をしている。


俺は交通壕のふちに積まれた土嚢の上に三十年式歩兵銃をのせて敵兵のいる頂上を警戒している。


この三十年式歩兵銃は口径6.5mmで5連発で、機関部の遊底から右に直角に飛び出した槓杆こうかんを操作して、実包の薬室への装填、排莢をくり返す

いわゆるボルト・アクション方式だ。


予備の弾は腰の前にベルトに通した2つの革製弾薬盒を着け、それぞれ5発をまとめるクリップ、挿弾子そうだんしを6個ずつ収めてあり、腰の後ろには大型でクリップが12個入る箱を付けた。合計で120発を用意してある、、


交代で24時間かけて掘りつづけている工兵隊を狙っていやがらせのように昼には何度も敵から砲撃されている。


俺は眠そうにしている芸者の髪結いの市蔵に話しかけた。


「市蔵さんのヘルメットはなんか味噌の臭いがするよな~、ハハハ、、ところで市蔵さんよ、芸者の髪結いてのはもてるのかい、、」


「ふふふ、、今度、兄貴にも紹介しますぜ、、深川の芸者は情がありますからね~、、兄貴は知ってましたか、女のあそこの毛が弾除けになるなんて言ってみんながこのお守りに抜いて入れてくれたんですよ、、本当ですかね、、ハハハハハ、、」



「そんなの知らね~よ、、姐さんのサインの方がいいんじゃね~か、、俺と留吉は効かなかったけどな、、フフフフ、、」


「下駄づくりの栄吉さんとこは、子供が何人いるんだい、、」


「へい、、うちの所はぜんぶ女で7歳、と5歳それに2歳です、、それにカミさんの腹の中にもう一人いるんですわ、、、」



「なに~、、そんなにいるのかい、、それじゃ~おめさんは子どもの為にも絶対生きて帰らなくちゃいけな~、、おめが~死んだら誰が食わしていくんだよいいかい白兵戦になったら俺と留吉の後ろにいろよ、、一人で飛び出すんじゃね~ぞ、、俺達は刃物でのケンカはなれているから、離れるんじゃね~ぞ、」


「あ、、ありがとうございます、兄貴、」と泣きだすゲタ作りの須藤栄吉


「ところで、、留吉、、一人でなに食っているんだ、、」


「すんません、、これ、姐さんがくれた菓子です、、どうぞ、、皆の分もあります、、何でも非常食のあまりだとか言ってました。」


留吉はみんなに5枚一袋の菓子を渡した、、、


「なんだ、、これうめ~な、、なかの白いのはなんだ、、あんこ、じゃないよな、なんか、書いてあるな、ビ、ス、、〇、、乳児用ビスケット、、なんじゃこれ赤ん坊の食い物じゃね~か!」



そんな騒ぎをしている交通壕から頂上に向かって100mほど前方にある土嚢を積み上げてあるだけの監視所に、、二人の兵士が頂上のロシア軍陣地を見張っていた。


月明かりの中、双眼鏡で敵の状況を監視している乃木少尉、、となりには伍長が三十年式歩兵銃をかまえ周りを警戒していた。    



乃木少尉

”私は内地で手に入れた南部式大型自動拳銃で武装している、、これはすばらしい拳銃であるセミオート拳銃のおかげで連続して射撃ができるが、口径8mm

なので反動がある。木製のストックがあればだいぶ違うのかもしれない。あとで改造できるか確認してみよう”



そんな事を考えながら今夜はなにも起きないかな~と思っていたが、敵陣が不自然な気がした、”やばいな~、いつもは酒を飲んで騒いでいる時間なのに、今日はず~と静かだ。”



「うん!、、やばいぞ、、敵が動き出した、、伍長、、受話器をくれ、、」そう言って中隊につながる連絡用の有線電話の受話器を受け取り、簡易電話機の箱の横にあるダイヤルをグルグルと急いでまわした。


「こちら、、乃木少尉です、、中隊長殿、、敵に動きがありました、、あっ、敵が陣地から、兵士達が出てきました、、はい、、はい分かりました。すぐ下がります、」



そう言って乃木少尉は簡易電話機の箱をかかえて 伍長は銃を持ち腰を下げながら交通壕に戻っていった。



交通壕では中隊長が

「敵が来るぞ~、、銃に着剣しろ~、、それと工兵隊は急いで後方に下げれ、もう作業は中止しろ、、急げ!、急げよ!、、それと先日届いた発電機を始動しろ~、、」


交通壕の各場所ではバッバッバッバッバ~と十数台の白鳥電気製の発動機が動き出した。



若頭大庭 丈一郎

「よ~し、、留吉そこの土嚢に新型サーチライトをそこに固定しろ、、栄吉さんは頭を下げていろよ、流れ弾にでもあたったら大変だ、合図がきたらサーチライトの電源を入れてくれ、、」


(白鳥電気では前に結城の提案で作った発電機に携帯型の指向性があるレンズ付きライト、、サーチライトを開発して軍に納品していたのである。)


俺はヘルメットの顎のバンドをきつく止め直し三十年式歩兵銃の槓杆こうかんを操作して、”ガチャン”と実包の薬室への装填をした。


そして着剣された小銃の先端の凸型の照星フロントサイトを人指指と親指につけたつばでこするようにして汚れを落とし土嚢にしっかりと銃床をのせて

銃後方の凹型の照門リアサイトの溝の間に見えるようにして、狙いをつけて敵がやってくるのを静かにまった。



203高地から少し離れた所にある野砲大隊(3個砲兵中隊が所属、中隊は6門の砲、合計18門 )の三十一年式野砲、(口径75 mm 砲弾は榴弾(炸薬800 g)6.1 kg 最大射程6,500 m発射速度約3発/分)すでに着弾点をきめていて火を吹くのをまっていた。



そこの土嚢で囲まれ天幕が張られた観測指令所の簡易電話がジリジリジリ~となった、、当番の士官が受話器を取った。


「はい、、敵が攻めてきたんですね、、はい、サーチライトが光ったら砲撃開始ですね、、了解しました。」、ガチャンと受話器を置くといそいで緊急を知らせる鐘を鳴らしらた。”カンカンカン、カンカンカン、、、、、、、” 砲の近くの宿営地にいた各中隊の兵士が厳しい訓練で身につけたように機敏な行動で素早く起き出し各自の担当の砲に駆け出していった。、、そして到着した兵士から砲弾を装填して発射命令を待っていた、、その時間まで3分もたってなかった。





203高地、交通壕陣地

月明かりの中、駆け足で草木のない山肌を雄叫びをあげて、降りてくるロシア兵を双眼鏡で中隊長は見ていた。、、


「サーチライト点灯!、、、各自、射撃開始、、撃て!、、、」


「バッバンババババン、ババッンバンバン~、、、」200人程の中隊が一斉に射撃を開始した。




ロシア軍の指揮官はベドロビッチ少佐だった。


彼は中々日本軍が攻めてこない事にいらだったコンドラチェンコ少将からの作戦指示で、1個大隊約800名を率いて日本軍の交通壕へ一撃をくらわすよう命令を受けてたのである。   


夜間に静かに自分達が設置した鉄条網の間隙抜けて部隊整列ができた。まだ日本軍には気づかれていないと思っているのか、、


”突撃~”とサーベルを高々あげてそのまま前方に振り下げたのである


「ウラ~ ウ~ラ~、、ウラァア~ア、、」と雄叫びをあげて、夜間の暗闇を利用しての銃剣突撃を始めたロシア兵達、、山の上からの下りの攻撃、誰もが日本軍は突然の攻撃で狼狽えると思っていたのである。



そうではなかった。最初から第一師団は攻撃があると想定して砲兵隊とは綿密な打ち合わせをして準備をしていたのである。


そこへ突然目もくらむようなサーチライトが、、一斉に十数灯自分達を照らし始めた。約200丁の三十年式歩兵銃からの一斉射撃でバタバタと倒れる兵士達、それだけじゃなくて突然上空から「ヒュルルル~」、"ドカ~ン、、ドカ~ン、ドカ~ン、”と坂を下りてくる兵士達を狙って榴弾があちらこちらに降り注いだ。


ギャー、、と叫ぶロシア兵の悲鳴、炸裂する砲弾、、飛び散る破片、サーチライトによる日本兵からの正確な射撃、ロシア兵も銃を必死で撃ってくるが、体ごと宙を飛ぶ兵士、、腕や足が榴弾の破片で飛ばされるものなど、阿鼻狂乱のごとくだった。      



ベドロビッチ少佐はすぐにこの夜襲が失敗したことに気づき、、すかさず、、「撤退~、、撤退だ!、、下がれ~」と大声でふれ回った。そんな事は言われなくてもすでに、、恐怖にかられた兵士はわれさきにもと来た坂をまた登り始めたのである。



若頭大庭 丈一郎

俺は5発目を撃ち終わり、土嚢に並べた、5発装填された挿弾子を素早く右手でとり 開いた遊底に挿弾子を押し込み左手の親指で弾丸を押さえてプレスされた挿弾子を抜きポイと捨てボルトをガチャンともどし一発目を装填したその動作は5秒とかからなかった。


そのとき中隊長が、、”撃ち方やめ~、、、撃ち方やめ~”と大声を掛けていた


すでに砲兵隊にも連絡がいったのか砲撃はやんでいた。


アドレナリンがドバドバ出ていた俺はしばらく興奮から覚める事が出来なかったが7~8人露助は確実に倒しただろう、、留吉もとなりで。充血した目をしている。


下駄づくりの栄吉さんは塹壕の中で震えていた。、



芸者の髪結いの市蔵さんはヘルメットを取りそこにできた穴に指をいれて俺に話しかけてきた。


「兄貴、、これ見て下さいよ、、敵の銃の弾が頭にあたりガッ~ンときてやられた~と思ったらヘルメットの中一周して出て行きましたよ、信じられます」



「よかった~な~、、そりゅあ奇跡じゃね~か、、さすが深川芸者のあそこの毛は弾除けによく効くな~、ハハハッハハ、」




サーチライトが点灯している山に向かっての坂にはいたるところにロシア兵が倒れていた。その数400名以上、半数はすでに戦死しているようだがあちらこちらから、うめき声が聞こえていた。、、襲撃してきた敵はすでに戦意をなくし頂上の陣地へと撤退していた。


交通壕に待機していた赤十字のゼッケンとヘルメットをつけた14~5人の衛生兵が飛び出し負傷しているロシア兵の止血治療を開始した。


また後方からは担架兵が、次々にきて治療の見込みがあるロシア兵を後方へ運びだした。、こちらの被害は顔面に銃撃を受けて即死した兵士が3名に防弾チョッキからはみ出した腕や肩に負傷した兵士が10名程だった、、


俺と留吉など元気のある兵士十数名が壕から出てサーチライトの明かりの中で反撃するロシア兵がいないか周りを警戒していた。


そこへ突然銃声が「パーン、、パーン、」と響いた、、二人の衛生兵がやられた。、俺はすぐに銃声がした方向に向かって威嚇射撃をした、


他の兵士もめくら撃ちだが射撃を開始した。、二人のロシア兵が7~80m、先の岩陰から駆け出して逃げていくのが見えた。


”くそ~、、南山で衛生兵を5人撃ち殺したあの二人だ、、姐さんが言った通りこの203高地にいやがった”



       





俺は姐さんが初めてここに来て食事をした日を思い出していた、、乃木少尉がいなくなったら、姐さんが南山の戦いで衛生兵が撃たれた時の状況が知りたいと言ってここに来たと言った時、俺はちょうどそれを見ていたと話した、、そいつらに向かって俺は最初の威嚇射撃をしたんだ。、と話したらビックリしていた。、、あの時も戦闘が終わってからだったあの二人はまるでそれを待っていたかのように狙ってきたのだ、、



姐さんは”この銃でぜったい仇をうってやる。”と言って腰のガンベルトからリボルバーの銃を出した時はビックリした。酒にだいぶ酔っていたのでここで暴発でもしたら大変だ~、と留吉と俺で銃を取り上げようとしたら”見てな!”と言って急に右手の人さし指をトリガーの輪っかにいれてグルグル回し始めた。


それがいきなり、指からはずれて、クルクル回りながら銃が飛んでいき、燃え盛る焚火の中に銃をふっとばしてしまった。




”ギャ~~て~へんだ!!、” と俺と留吉が叫び、市蔵さんと栄吉さん、みんなで汁やら飲みかけの酒やらぶっかけて無事に銃を取り出したけど、、本人は反省もなく酒に酔って笑っているだけ、、姐さんらしいよ、、



しまいには、、最後の酒をグビグビと飲んで”奴はこの203高地にいる”と言って山を指さし、、”奴らの気配がする、、私は酒を飲むとやたら感がさえる”と言いだし、”その時がきたら私が必ず仇をうってやる!”




なんて言ってたけど、大丈夫かな~、あれで弾があたるのかよ、わからん、ちなみに203高地は反対にある山だったけど、、みんな気を使って黙っていた。






(絶~~対、、あたりませ~ん!)越後の山で姉さんの銃の腕を見た結城






つづく、、、、、





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ